日常と闇の間
「ただいま」
「お帰りなさい、瑛人、沙夜」
「どうだった?松田は来た?」
「いいえ、来てないわよ」
沙夜は母さんの手に気づいた。
「お母さん、その手の包帯どうしたの」
「ああ、これ。まぬけなはなしなんだけど、火傷してびっくりして、手を反射的に離したら壁に思い切りぶつけちゃって」
「はは、母さん。おっちょこちょいだね」
「笑わないでよ、恥ずかしいんだから」
「今日はすき焼きでも作ろうと思ってるのよ」
「あ、いいね。すき焼き」
「すき焼きか…」
チラッと沙夜はご機嫌な母を見る。
「松田はもう来なそうね」
「私もそんな気がするわ」
「なんだか、呑気だなぁ、2人とも。しばらくは警戒してくれよ」
「はいはい」
それにしても松田に関してのニュースは今だ逃亡中か?という見出しばかりだ。
あいつどこに逃げたんだ。
母さんの言うことを聞いて自首すればよかったのに。
「あの人、自首しなかったのね」
「え、ああそうみたいだね。母さんの言うこと聞けばよかったのに」
「どちらにしても、今までの事件も彼だったとしたらもうこの町は平和かしらね」
「そうだといいけど」
沙夜はぽつりとつぶやく。
「松田が連続殺人犯じゃないって思ってるのか?」
「証拠もないし、これからも殺人のきっかけは起きるかも知れないし」
沙夜の言ってる意味がよくわからなかった。
「2人とも学校に行く時間大丈夫?」
「あ、やばいつの間にこんな時間だ」
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「お母さんの手…」
「えっ」
「ううん、間抜けだなって」
「はは、そうだね。ほら急ぐぞ」
沙夜はだまって瑛人の後をついていく。
その様子をアパートの外から早苗は見送る。
「また、きっかけは起きるかも…ね」
「そうならないことを祈るわ」
早苗は鼻唄を歌いながら家に戻っていく。
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