被害者として
食事はいつものように行われた。
沙夜はもくもくと食べる。
母さんは適当な話題をふって、僕はそれに答える。
すると、インターホンがなった。
「誰かしらこんな夕食時に」
母が玄関までいく。
「開けちゃだめよ、お母さん」
「どちら様?」
「警視庁の松田です、息子さんとお話がしたくて」
「へぇ、またどうしてですか?」
「事件の被害者ですからね、少し事情を」
「わざわざ家にこんな夕食時に…」
「すいません、出直します」
「いいよ、母さん。上がってもらえば」
「そう?」
僕は母さんの顔をみてゾクッとした。
冷徹な顔…僕が見たことのない顔だった。
「どうぞ」
「すいません、突然」
「どうしたんですか?」
「いやぁ、君を刺した犯人が死んだのは知ってるよね」
「はい、なんか惨い殺され方だったって」
「そうそう、で事件の件はさっさと終わりにしたかったんだけど、今度配属された、俺の上司が張り切っててさ。被害者にききこみして、刺される理由があるか聞いてこいって言うもんだからさ」
「理由なんてわかりませんよ、急に刺されたんですよ」
「そうだよねぇ」
「元気な上司さんなんですね、はい。お茶をどうぞ」
「元気と言うかめんどくさいと言うか。あ、すいません」
「で、あなたは何の情報を持って帰らないと行けないの?」
「瑛人君と犯人の接点です」
「そんなのないですよ。見知らぬ人です」
「だよねぇ、そんな報告で許してくれるかなぁ」
「そんなに、頑固な人なの?」
「ええ、大変です」
「ごめんなさいね、力になれなくて」
「いいえ、夜分遅くにすいませんでした」
「あ、そうだこれ、お茶菓子なんですけど、よかったら警察の皆さんでどうぞ」
「そんな、悪いですよ」
「いいんですよ、その頑固者の上司にあげたら意外と優しくなるかもしれませんよ」
「ははっ、そうなるといいんですけどね」
刑事は帰っていった。
「大変ね、警察も」
沙夜がぽつりと言った。
お読みいただいてありがとうございます。ブックマークや、評価いただけるとうれしいです。