一人目の犯人
僕は家に帰った。
「母さん聞きたいことがあるんだ」
「なあに瑛人」
「これまでの事件について…」
ピクリと母さんの顔が変わった気がする。
「そんな物騒な話止めましょう」
「なんで?父さんが殺されているんだよ」
「だからだよ、だからこそ犯人を見つけるんだ」
「でも、犯人はあの刑事さんでしょう」
「その後にも事件は続いてるじゃないか」
「あれは模倣犯って話じゃない」
「母さんはこの事件についてどこまで調べたの?」
「今日の瑛人は変よ。また事件に惑わされているわ」
「母さん、お願いだよ。教えてくれよ」
沈黙が続く。
「瑛人…母さんも正気に戻ってから事件の事を少し探ってみたわ」
「やっぱり、母さんならと思ったよ」
「色々調べていくうちに犯人は複数いると感じたわ、だから今起きてる事件も終わっていないわ」
「僕もそう思うんだ、一人でこれだけのことをやるのは不可能だと思っている」
「そうね、警察や病院に簡単に入れる人間はどんな人かしらね」
「私はね、瑛人、安田刑事は犯人だと思うの…あの自殺は自分の行った罪を償うため、だけどね。共犯者はそれを許さなかった。遺書をすり替えた人間がいるはず」
「つまり、警察内部に共犯者がいるってことだよね、僕もそう思ってる」
「でも、それでいうと、病院関係者、学校関係者…みんな怪しくなってくるのよ」
「た、確かにそうだよね」
「石を投げたら犯人にぶつかる…それくらい犯人は色々なところにいる気がしてね、瑛人」
「何?」
「あなたが犯人でしょう?、自分のしたことを否定するために今までよく頑張ったわ」
「…な、何を言っているんだよ」
「冗談よ、でもみんながみんなこの事件について疑心暗鬼になっている、だから外出は怖いわ。いずれ殺し合いが始まりそうで」
「大袈裟な気もするけど、確かに学校では僕が犯人じゃないかと思っている人間もいると思う」
「そう、だからあなたは被害にあった」
「そうかもしれない。でもこんなに殺されてるのになんで犯人は捕まらないのかな?」
「警察関係者が犯人の一人だとしたら情報操作されてしまうかも知れないし、その共犯者の警察をあぶり出すことが第一かしらね」
「そうだとしたら、僕は安田刑事の部下の人が気になっている」
「松田刑事よね?たしか。あの人がこの事件の担当ならいつも現場にいてもおかしくはないと思うけど?」
「そうか、てっきりいつもいるから疑ってた」
「それじゃ弱いわよ、あと瑛人」
「何?」
「沙夜には内緒よ。ふたりで父さんの仇を打ちましょう」
「わかったよ、母さんも無理はしないでね」
「そうね、殺されたくないもの」
母さんは冗談めいた顔で笑う
(殺されないよ、あなたは…何で松田刑事の名前を知っているんだよ)
(なんで、あんたが犯人なんだよ、なんで僕にヒントを与えて楽しんでいるんだよ)
「ただいま」
沙夜が帰ってきて、話は終わった。
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