今から殺し合いをしてもらいますと言われてももう遅い。既に全員死んでるし、今からアンタも殺しに行く。
廃墟の片隅に無造作に置かれたテレビから、途切れ途切れの映像が流れ始めた。
「やあ、気分はどうだい? さっそくだけど、今から君達には殺し合いをしてもらうよ?」
兎のマスクをかぶった人物が、淡々と言葉を口にした。
しかし、その言葉に反応する者は居なかった。
廃墟の片隅は血と肉で凄惨な光景に塗り替えられており、言葉を無くした肉塊が至る所にゴロリと転がっている。
「逃げようとしても無駄だよ? 君達に着けた首輪には、GPSと起爆スイッチが仕込まれているからねぇ」
兎のマスクが淡々と笑ったが、それに反応する者は居ない。
既に廃墟には人の気配は無く、争われた形跡も無く、行われたのは一方的な殺戮であった。
「それじゃあ最後の一人まで頑張ってねぇ♪」
映像が完全に途切れると、テレビはそれ以降何も映さなかった。
「お前が仕掛け人か……」
背後から突き付けられた銃。パソコンを目の前に、兎のマスクを着けた人物は、少しだけ不思議そうに眉を曲げた。
「君は……誰だい?」
「ふざけるな!!!!」
首に強く銃口を押しつけ、引き金に手を掛けた。殺意の念が銃を這い、兎のマスクから全身へ躙り寄る。
「何故ココに居るんだい? さっき目が覚めたばかりだろ?」
ポケットの中、仲間を呼ぶ警報装置に手をかける。
「貴様の仲間なら外で全員死んだ……。俺が殺したんだ……!!」
ここで初めて兎のマスクに焦りが生まれた。
本来ならば目が覚めて、録画の映像を見て狼狽える筈が、何故かメンバーの一人が既に遠く離れた場所に居る主催者に銃を突き付けている。流れる冷や汗と共に、一つ頭にぽんと浮かび上がる。
(もしかして……睡眠薬の時間、間違えた?)
その通りであった。
なんと、デスゲームの為に拉致されたメンバーは、録画の映像が始まる遙か前に目を覚まし、知らずに首輪をいじって起爆スイッチが作動してしまったのだった!
偶然外で立ちションをしていた男だけが生き残り、廃墟に隠されていた武器を手に、デスゲームの地で主催者の根城へと突入したのである!
「皆の恨みを、晴らす!!」
「ゆ、許し──」
兎のマスクが手を上げ許しを請う最中、一発の銃声がそれを遮った。パソコンの画面へ突き抜けた銃弾が画面を割り、辺り一帯を朱に染め上げた。
「あの世で詫びろ、ボケ……」
こうして、主催者の凡ミスによりデスゲームは幕を閉じた。
男は死んだ仲間達の無念を背負い生き続ける。
たまたま生き延びた幸運を、生き延びてしまった不運を胸に、男は今日も抗い続けるのだ。
「…………」
海岸に隠されたボートを漕ぎ、舞台となった島を脱出する。
凡ミスに救われた男だが、彼もまた一つミスをおかしていた……。
「首輪の外し方を聞き忘れた…………」
男は今日も生き続ける。
首の起爆スイッチの恐怖と共に──。