汚名探偵
放課後の渡り廊下でボクは呼び止められた。
「言いたいことがあるって?」
学園一の美少女、とまではいかないが、リスのようなキュートな娘だ。誘われたら付き合わないでもない。
「あのさ」
「いいんだ。分かっているよ」
ボクは知っていた。彼女がボクの下駄箱を覗いていることを。おおかた手紙でも入れるつもりだったに違いない。
「え、もしかして気づいちゃった?」
「当たり前じゃないか。キミのことなんてお見通しだよ」
左利き。茶道部。給食の牛乳はいつも半分残している。理由はお腹がごろごろするから。彼女のことに詳しくなったのは、ボクに好意を抱いているからだ。
「あれはバレンタインデーの日、ボクの机にチョコが入っていた。キミがくれたんだろう?」
「どうしてワタシの物だって分かったの」
「簡単さ。包装紙にはキミの香水がついていたんだから」
バツが悪そうにしている彼女を横目にボクは続ける。
「それにリップはボクのとメーカーが同じだ。キミが先週駅前のコンビニで購入したソレがね」
恋人になる前からボクとお揃いにしようなんて、恥ずかしくないのだろうか。ある意味愛嬌でもあるけれど。ほくそえむボクに彼女は驚いたのか、口に手を当てて固まっている。
当然のことだがボクの完璧な推理に文字通り開いた口が塞がらないみたいだ。
「そんな姿も悪くないね。付き合ってやらなくも」
「ちょっと待って、あんたチョコどうしたのよ」
つっけんどんな彼女の言い種に、今度はボクが硬直する番だった。
「もちろん食べたけど」
ボクが言うと彼女は、はあ、とため息をついて頭を抱えた。そして眉間に皺を寄せて、
「間違えてあんたの机に入れちゃっただけなのに。センパイの名前書いてあったでしょう」
同じイニシャルがボクの脳裏を過る。
「それよりワタシがリップ買った場所知ってるとかあり得ないわ。あんた何か勘違いしてない?」
「キミはボクのことが好きなんじゃ」
「んなわけないだろ、どぶねずみみたいな臭いで毎日迷惑してんだよ。隣にあんたの靴があるとむしずが走る」
神経回路が千切れていく音がボクには聞こえた。いや、そんなことは実際にはあり得ないのだが。
「ここに呼んだのだって、あんたに掃除当番代わって欲しかっただけだし。どんな底辺探偵でも気づくでしょ、バカなの?」
その日を境に学園でボクの名前を知らない者はいなくなった。みんな敬意をこめてボクを呼ぶのだ、「汚名探偵」と。
事件は現実の世界で起きていた。
勘違いのミルフィーユ。
ボクは尾行には長けていたみたいで
もうみんなの目が辛い
爪じゃなくて現れたのは馬脚




