3-30.炎の精霊
『感謝するぞ、人間。我をこの忌々しい呪縛から解き放ってくれたことを』
一目見てヒトではないと分かるソレは、欠片も感謝の念が籠もっていない礼の言葉を述べた。
それの容姿を一言で説明するならば、炎でできた人型。
胴も、手足も、髪も、顔も、すべてが赤々と燃え盛る炎で形作られた異形だった。
その眼光は鋭く、闘技場の面々を見下ろす瞳の奥には、燃え滾る怒りの炎が幻視できる。
「精霊……」
誰かがポツリと呟いた。
精霊。
言われてみれば、目の前のコレからは精霊っぽい感じがする。
何か封印されてるなって思ったけど、まさか精霊だとは思わなかった。
前にフェルアに見せてもらった風の精霊とは属性が違うからなのか、雰囲気とかが少し違うけど、根本的な力の性質は似ている気がする。
ただ問題なのは、この精霊さんがどこからどう見てもご立腹なこと。
漏れ出る殺気が物理的な放射熱となって、周囲の気温が急激に上昇している。
隣にいるリュウなんて、額に玉のような汗がびっしりだ。
火耐性を上昇させる魔法が掛かっていてもこの様だから、地面なんて目玉焼きが焼けるくらい熱いんじゃないのかな?
わたし?
わたしは火耐性上昇の魔法に加えて、水と氷の複合魔法で周りの温度を下げてるから大丈夫。
イメージとしては炎天下の中、クーラーをガンガンに効かせた部屋にいるみたいな感じだ。
真夏にクーラーかけた部屋で食べるアイス、いいよね。
まあ、現実逃避はこのぐらいにしておいて。
どうしよ?
取り敢えず、交渉の余地はあるのかな?
乗り気はしないけど炎の精霊さんに声をかけてみる。
「ちょっといいかな?」
『……何だ?』
わお、怖い。
声かけただけで睨まれた。
ドスの利いた声ってこんな声を言うのかな?
精霊さん、スッゴい不機嫌そう。
「大体予想できるんだけど、これからの予定って聞いていい?」
『無論、この国を滅ぼす』
うん、知ってた。
精霊の物騒な発言に、リュウ達が臨戦態勢を取る。
「ひょっとして、回復のため?」
『然り。そこの燃え殻のお陰で、我の力は全盛期の半ばにも満たない。よってその代償を支払ってもらう』
火の精霊が燃え殻を顎でしゃくりながら説明してくれた。
本人は弱体化してるって言ってるけど、それでも十分に脅威だろう。
闘技場にいる面子なら倒せないこともないけど、ここは王都のド中心部。
精霊を倒す頃にはもの凄い数の犠牲者が出そう。
あれ?
ていうか、思ったよりも話ができる?
口調は尊大でやろうとしていることは物騒だけど、問答無用で大量殺戮とかは考えてないみたいだし。
これならいけるかな?
「なら、契約しよう」
『契約だと?』
「そう、そこのバカが使った魔力をわたしが払ってあげる。その代わり、あそこにいる娘と契約してくれない?」
「……え、私!?」
わたしは炎の精霊に一つの交渉を持ちかける。
後ろでフェルアの驚く声が聞こえたけど気にしない。
訝しげな視線を向けてくる精霊だけど、交渉の内容自体は魅力的なのだろう。
少しだけ思案する素振りを見せる。
よしよし、掴みは上々だ。
怒りに溺れているかと思ったら、損得勘定ができる理性が残っていて助かった。
仮に精霊がこの国の人間を全て養分に変えたとしても、変換効率が問題になる。
多分、上手くいっても元の力の7割くらいが限界じゃないかな?
だけど、そこにはリスクもある。
この精霊がどれだけ力を持っていても、オリハルコン級冒険者は一筋縄ではいかない。
そして国を滅ぼし、ギルドの警戒心を煽ってしまえば、逆に滅ぼされるのは自分の方だ。
対して、わたしとの交渉に賛同すれば、ローリスクで力を取り戻すことはできる。
そしてこいつは必ずわたしの手を取る。
精霊は魔力の塊だ。
だから、わたしが持っている魔力量とかもある程度把握できる。
十分な量の魔力が存在しているのは分かっているはずだ。
ただ、精霊もすぐには答えを出さない。
理性的ではあるけど、今回の件には怒り心頭って感じなんだろう。
もう一押しくらいかな?
「なら、利子も付けよっか? 全盛期の1割でどう?」
『……3割だ。それなら手を打とう』
「オッケー、交渉成立だね」
精霊の手を無理矢理受け取る。
ちょっと熱いけど、我慢できない暑さでもない。
触れている部分から魔力の通路を意識して、精霊に魔力を流し込んでいく。
10秒くらい経過。
容量が結構多い。
注いでも注いでも、底無しに思えるほど手応えがない。
これだけの量の魔力を消費するのは夜叉との戦闘以来だ。
ともあれ、あれから魔力総量が増えてるのもあって、炎の精霊への魔力譲渡もまったく問題ない。
30秒、1分と魔力を流し込んでいく。
すると炎の精霊にも変化が見られた。
辛うじて人のような形に見える炎の塊が徐々に安定していき、輪郭が鮮明になっていく。
いつしか炎の精霊の周囲を朱金色のパーティクルが輝き出し、その勢いは加速していく。
頬に触れても熱くない。
これは物理的な火の粉とかじゃなくて、魔力の残滓みたいなものなのかな?
――精霊の再誕
そんな言葉が思い浮かんだ。
わたしから受け取った魔力を基にして、炎の精霊がより上位の存在へと身体を再構築していく。
その幻想的な光景に、闘技場にいる何人かが息を呑む。
精霊から溢れ出る魔力は勢いを強め、弾ける光も強さを増していく。
……線香花火みたいとか言ったら怒られるかな?
数分間に及ぶ光の乱舞が最高潮に達し、魔力の譲渡が完了した。
それと同時に、目の前を閃光が埋め尽くす。
光が収まり、クリアになった視界に映ったのは――
全然進まなくなった
元から投稿ペース遅かったけど
脳死で打った方がいいのかな




