3-29.『炎の巨人』
お待たせしました
色々と忙しくて、今月末、下手したらお盆までまとまった時間が取れないです
スミマセン
近況報告はこれぐらいで、最後に感謝を
ブクマありがとうございます
また、初見の方はご来訪歓迎します
轟音を響かせながら大気を斬り裂く拳。
5メートル近い炎の巨人の攻撃だけあって、繰り出される拳はまるで、投石機から発射された岩みたいだ。
まあ、現物の投石機なんて見た事ないんだけどね。
威力的には……トラックに轢かれる位だろう。
うん、今のわたしなら全然余裕だね。
スピードは見てからでも回避できるし、身体強化をすれば受け止めることも……怪我はしないけど、質量差的に吹っ飛ばされるか。
と言うのはわたし基準の評価で、生身の人間なら一撃でひき肉にするだけの威力は持っている。
必殺の威力が乗った拳。
それをリュウの刀が一撫でにした。
すると、巨人の腕は綺麗に切断され、その軌道は標的であるリュウから彼の真横の地面へと外れた。
傍から見ればリュウの抜刀速度が速すぎて、巨人が目測を誤って攻撃を外したようにしか見えない。
だが、拳に秘められた破壊力は腕が切断されても健在で、着弾した拳は土埃を撒き散らし、地面に大穴を穿って見せた。
となると、至近距離に居たリュウは攻撃の余波でダメージを受けそうだけど、既にそこに彼の姿は無い。
巨人の体表に無数の刀傷が刻まれる。
リュウは地上だけでなく空中までも駆け抜けて、縦横無尽に巨人へと斬撃を放つ。
だけど、炎の巨人には斬撃というか、物理攻撃全般の効果が薄いみたいだ。
当たり前だよね。
巨人の身体は炎で出来ている。
その身体は自由自在で、切断された腕もすぐに元通りに繋がってしまう。
ならばとリュウは手数で勝負を仕掛けることにしたらしい。
炎で出来ているからといって無限には再生できないだろう。
保有する魔力が無くなれば、流石の巨人も再生できなくなるはずだ。
攻撃の速度が二段階くらい上がる。
巨人もリュウの動きを捉えようと我武者羅に腕を振り回してはいるけれど、攻撃は直撃するどころか掠る気配さえない。
夜叉も使ってた三次元機動は、よく見ると足裏に集めた魔力を簡易的な足場にして、加速と方向転換をしているらしい。
わたしの場合、移動するたびに結界を張って足場にしていたから面倒だったんだよね。
これから空中戦をする時はこの方法で戦うことにしよう。
「『魔力縛鎖』『多重水槍撃』」
高速移動するリュウに合わせて、魔術師のお爺ちゃんが魔法を放つ。
水での拘束は短時間しか保たない事を予想してか、今度は純粋な魔力で作られた鎖による『魔力縛鎖』で動きを止めて見せた。
それでも、巨人が纏う炎は魔力そのものを燃焼させる特性でもあるのか、『魔力縛鎖』の構成が凄まじい勢いで崩壊していく。
そこに空かさず、数十本にも及ぶ『多重水槍撃』が炸裂する。
あれだけの数の魔法を一度に操るとなると、わたしでも難しい。
さらに、それらの魔法を高速で動き回るリュウに当てないとなると、神業って呼べるくらいの魔法コントロール技術だ。
さっきは言い争いしてたけど、やっぱこの二人息ピッタリだよね。
ただ、これだけの攻撃を喰らっても、致命傷には程遠いみたいだ。
……おっと、見てないでわたしも戦わないと。
他にも色々と学べる事が多そうだから、正直言うとこのまま観戦を続けたいんだけど、そろそろ戦闘に参加しないとフェルアが怖い。
気のせいか、さっきから背筋が冷たい気がするんだよね。
一方的な展開に痺れを切らした巨人が火魔法の範囲攻撃を繰り出す。
学校のグラウンドくらいの広さがある闘技場の約半分が、一瞬にして炎の海に包まれた。
この攻撃には流石のリュウも、接近した状態で回避するのは不可能だ。
一旦攻撃を中断して、巨人から大きく距離を取る。
「『凍結世界』」
リュウが巨人から大きく距離を取ったタイミングで、わたしは目コピー版の上級魔法を繰り出す。
巨人がその身に纏う炎ごと、透き通る氷に包まれ動きを停止する。
氷から噴き出した冷気が、闘技場のあちこちに燻る炎を消し去さった。
炎の巨人に氷は相性が悪いと思うかもしれないけど、最近覚えた空間魔法を併用した氷だから簡単に解けることはない。
ただ、それも時間の問題だ。
上級の火魔法でも数発は耐えさせる自信があるわたしの『凍結世界』だけど、コイツが相手だとちょっと心許ない。
今も巨人を覆う氷にもの凄い勢いでヒビが入っている。
持って、あと1分が限界かな。
「何やジジイ! シオンの魔法に負けとるやないか!!」
「喧しい! お前がちょこまかしとるから、威力の高い魔法が使えんのじゃ!!」
言い争う二人だけど、その視線は絶えず巨人に向いている。
流石はオリハルコン級冒険者って所かな。
口は動かしていても、意識は巨人討伐の糸口を模索している。
「シオン、あの燃えカス消火するにはどないしたらええ?」
「……ちょっとだけ時間くれる?」
「任しとき! ……聞いたかジジイ! ワイらは時間稼ぎや!」
「五月蠅い! そんな大声出さんでも聞こえとるわ!」
文句を言いつつも、お爺ちゃんは魔法の詠唱に入る。
今までは無詠唱で速度重視だったけど、巨人の注意を惹くために威力重視の魔法を使ってくれるみたいだ。
お爺ちゃんの周りに高濃度の魔力が渦巻いている。
「ジジイも本気やな」
「じゃあ、リュウもちょっとお願い」
「任せい! 取って置き見したるわ――」
啖呵を切ったリュウは、右手に持った状態にある刀を鞘へと納める。
それじゃあ、わたしもわたしの仕事をしよう。
なに、やることは簡単だ。
リュウとお爺ちゃんの攻撃で出来た隙に、巨人の"核"を潰せば良い。
問題はその"核"が何なのかだけど、それに関しては検討が付いている。
わたしは意識を集中させる。
炎の巨人の魔力の分布、濃淡、流れ、その全てを見通すべく、両目に魔力を纏う。
視界が霞む。
やっぱ、ぶっつけ本番はキツいな。
景色の左半分が赤く染まる。
多分、眼球の血管でも切れたんだろう。
大丈夫、まだ我慢できる範囲内だ。
ポーチから黒夜叉丸を取り出し、瞬時に攻撃に移ることが出来るよう、鞘から引き抜いた状態で構える。
「オオオォォォ!!!!」
炎に耐久を削り切られた氷が砕け散り、中から巨人が現われ、雄叫びを上げる。
それに呼応して、天を焦すかのような火柱が十数本、闘技場のあちこちから立ち上る。
同時に、リュウが動いた。
『空絶』!!」
リュウが刀を振り切った姿勢で停止する。
巨人の首が宙を舞う。
それはわたしや天帝夜叉の使う『薙雲』だった。
ガルやヴァーノルドの話だと、通常の『薙雲』は数メートル斬撃を飛ばす技だけど、リュウのはわたしたちと同じく、遠距離の技として昇華されている。
まさか、わたしたち以外にもこの技を使える人がいるなんて思わなかったから驚きだ。
「『五龍乱舞』」
リュウが巨人の首を斬り飛ばしたところで、お爺ちゃんも魔法を完成させた。
火・水・木・風・土の五属性から成る龍が巨人へと炸裂する。
結合しようとした首が水の龍と相殺され、残りの四つ首もそれぞれが巨人の四肢を破壊する。
二人の攻撃を受けて巨人の魔力がかなり削がれた事で、その流れが格段に見やすくなる。
(……見つけた!)
"核"を捉えた次の瞬間、わたしの姿は巨人の目の前にある。
無防備になった巨人の胸の丁度心臓の辺りを黒夜叉丸の一振りで斬り裂く。
そこには変わり果てたジェラールの姿。
全身至る所が炭化寸前で、そうでない部分も火傷が酷い。
これだと、仮に中級ポーションを湯水のように使ったとして、一命は取り留めることはできても日常生活すらまともに遅れない身体になるだろう。
わたしの上級ポーション?
もちろん、あげないよ。
だって、あげる理由なんてないし。
まあ、身の丈に合わない力の代償ってことで1つよろしく!
わたしは巨人の"核"になっている胸鎧の中心、朱金色に輝く宝玉目掛け、黒夜叉丸を振り下ろした。
今回の場合、ぱっと見だと魔剣がジェラール暴走の原因だと思うかもしれない。
だけど、これはあくまでも普通の魔剣。
効果だって、炎属性の斬撃ができるだけで、それ程珍しい物じゃないしね。
だけど、鎧の方は別。
試合の最中、わたしは何回もジェラールを痛めつけて瀕死にしていたのに、その傷は数秒もすれば完全に回復していた。
明らかに異常だと思ったんだよね。
中級の魔法だと腕一本の骨折を治すのがやっとなのに、それを全身、魔力消費ゼロでやってるんだもん。
砕け散る紅い煌めき。
同時に、解放されたエネルギーの奔流が宝玉から溢れ出した。
ざっと上級魔法数十発分にもなる炎の渦。
魔法耐性がバカみたい高いわたしでも、これを至近距離で食らうのは不味い。
だけど、そこは羽織っていた朧龍の羽衣が完全にカットしてくれた。
流石、オリハルコン級冒険者昇格でもらった装備なだけある。
これをくれたメリッサさんには、今度お礼を言っておこう。
いや、何か商会で取引に使える物の方がいいかな?
『感謝するぞ、人間』
さて、問題はここからだ。
ジェラールの回復に使われていた魔力はどこから調達されているのか。
答えは、宝玉に封印されていた存在から。
鎧は単に、宝玉から魔力を吸い取って回復魔法に変換する触媒でしかない。
わたしは黒焦げになったジェラールには目もくれず、闘技場に現われたソイツを睨み付けた――




