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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第三章 ~燦たる英雄のアンビバレンス~
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3-28.『炎の魔剣』



「シオン!!」


 私の叫びも虚しく、シオンの姿が炎の向こうへと消える。


 続き、闘技場の至る所で現われたのは、天を衝くかの如く立ち上る幾本もの火柱。


 その圧倒的な熱量に耐えきることが出来ず、闘技場の舞台と観客席を隔てていた結界が、鈴を鳴らしたような清んだ音を響かせながら砕け散った。


 それを見た観客達が悲鳴を上げ、我先にと出入り口へと急ぐ。


 歓声に包まれていた闘技場は一転、阿鼻叫喚の有様となった。



「『四塞封魔陣』」


 雑踏の中でも耳に届く、威厳に満ちた声。


 同時に、透明な四枚の結界が出現し、舞台と観客席とを再び隔てる。


 ザラさんの魔法だ。


 詠唱破棄によって発動された魔法にも関わらず、彼女の結界は灼熱の炎を受け止めるだけの耐久力を誇るらしい。


 肌を灼くような熱さが明らかに和らぐのを感じる。



「『耐性(エンチャント)付与(・レジスト):火(ファイア)』」

「『水縛(アクア・バインド)』!」

「『水槍(アクア・ランス)』!」


 ザラさんに一拍遅れて、闘技場にいた魔術師やギルド職員が魔法を発動させる。


 火に対する耐性を上昇させる『耐性付与:火』が、闘技場に残った冒険者やギルド職員に掛けられる。


 それでも、続いて拘束を目的とした『水縛』の魔法と『水槍』魔法は、属性的なアドバンテージなど関係ないとばかりに抵抗(レジスト)されてしまった。



「『雨乞い(コール・レイン)』」


 日が陰る。


 快晴だったはずの天候は、いつの間にか黒い雨雲によって一面が覆われ、つられて空を見上げた私の頬を雫が打つ。



「偶には良い仕事するやんか、ジジイ!」

「"偶には"が余計じゃ。お前さんもさっさと働かんか」


 リュウさんと親しげに軽口を叩き合っているローブに身を包んだ老人。


 そうか、あれがこの国に三人しかいないオリハルコン級冒険者の一人、デュークさん。


 又の名を、魔導士デューク。


 彼なら、本来魔法触媒や長時間に及ぶ詠唱といった準備を省略して、『雨乞い』の魔法を発動させることも可能だろう。



 降り注ぐ雨が勢いを増し、鎮火とまでは行かないものの、炎の勢いが僅かに減衰する。


 闘技場の舞台を覆っていた赤が晴れるとともに、この事態を引き起こした元凶――シオンの対戦相手であったジェラールが現われる。


 しかし、現われたジェラールの姿は異様としか形容できないものだった。



「グルル……」


 ジェラールが低い唸り声を上げる。


 半裸になった上半身のあちこちが炭化寸前に焼け焦げていて、ヒビ割れた皮膚の合間からは紅い炎が吹き出している。


 目は獣のそれで、理知的な光は欠片も残っていない。


 よく見ると、洩れ出る吐息にも炎が混じっている。



「――呑まれてしまいましたか」


 隣に来ていたザラさんが呟く。



「呑まれた?」

「はい。魔剣は所有者が弱体化すると、その身体を奪い取るものがあります。身体を乗っ取られた者は理性を失い、魔剣がもたらす破壊衝動のままに暴れる存在へと成り下がるのです」


 ザラさんの説明を聞いている間にも、観客席から飛び出したリュウさんがジェラールと斬り結んでいる。


 見た感じだと、ジェラールの剣技は理性を失った今の方が冴えているようだ。


 オリハルコン級冒険者の筆頭とも呼べるリュウさん相手に互角に渡り合っている。



「『烈水龍(ドラグ・ガイザー)』」


 デュークさんの魔法が完成するとともに、巨大な蛇のような姿の龍を象った水がジェラールに向けて放たれる。


 リュウさんは十分にジェラールの注意を惹き付けた後、魔法に巻き込まれないように退避した。


 『烈水龍』の顎門がジェラールを呑み込んだ。


 蜷局を巻いた『烈水龍』の内部には激流が生まれ、ジェラールの身体を容赦なく締め上げる。



「オオオォォ!!!」


 これで決着が付いたかに思われたが、突如としてジェラールが咆哮を放った。


 ジェラールの身体が赤熱化していく。


 次の瞬間、莫大な熱量に耐えきれなかった『烈水龍』が大爆発を引き起こした。


 水蒸気が舞台上を包み込み、衝撃でザラさんの張った結界が激しく揺れる。



 降りしきる雨に煩わしさを覚えたのか、ジェラールが空を睨み上げる。


 そして、魔剣を勢いよく地面に突き刺すと、再び炎の柱が立ち上った。


 上空では雨が降っているけれど、地上に落ちる前に炎の柱の熱によって蒸発してしまう。


 熱い。


 結界と『耐性付与:火』でも防ぎきれない熱を感じる。



「おい、ジジイ! トドメはしっかりと刺さんかい!!」

「喧しい! それならお主がさっさと彼奴の首を取ればよかろう!!」


 オリハルコン級冒険者二人が賑やかだ。


 だけど、その言い合いの中にも余裕が見える。



「全く、あの二人は……」

「それにしては余裕そうに見えますけど?」

「避難は既に完了しましたが、耐久力的にも迅速にこの場を収めたいですね」

「――ということらしいわ。さっさと片付けてきたらどうなの?」



 私が後ろを振り向くと、ザラさんが驚いた様子でそちらに視線を向ける。


 そこには観客席の一つに座り、高みの見物を決め込んでいるシオンの姿があった。




◆◆◆




 いやー、焦った。


 咄嗟に転移魔法を使ったからよかったけど、愛用してたローブの裾が少し焼けた。


 これはこれで味が出ていていいんだけど、やっぱり防御面だと普通の装備は不安が残るな。


 あ、折角『朧龍の羽衣(いいモノ)』をメリッサさんから貰ったんだから、アレを普段使いにすればいいか。


 わたしは魔力を紐状に編んで長い髪を纏めると、魔法の鞄の中から『朧龍の羽衣』を取り出す。


 羽衣は魔力を通してやると、すぐにローブの形になったので、髪が外に出ないように羽織る。


 流石にこのまま戦ってると、髪が燃えそうで怖いんだよね。



 色々やっていたら、リュウとジェラールの一騎打ちが始まっていた。


 炎を纏ったジェラールの剣と雷を纏ったリュウさんの刀がぶつかり合う。


 おお、ジェラール君、キミってあんな動きも出来たんだ。 


 いや、そんな訳無いか。


 あれは単に魔剣に身体を乗っ取られて無理矢理動かされてるだけだ。


 足とか動きがヘンにぎこちないし、3合斬り結べば一太刀はリュウが入れている。


 その傷も魔力による再生で補ってるみたいだけど。



 って、あの刀『拾参式:雷切』じゃない?


 タイガさんとロキさん、何作ってんの?


 「魔王の魔石が必要だから、西洋の意味数にちなんで13!」とか、製作工程が書かれたページの欄外にあったから、構想だけで作らなかったんだと思ってたのに……。



 なんて考えてたら、今度は魔術師らしいお爺ちゃんが水の龍みたいな魔法を撃ち込んだ。


 魔力の高まりとかで判断してるんだろうけど、リュウもアレとよく即席の連携を取れるなぁ。


 真後ろから迫ってくる魔法を避けるときに、ジェラールの脚を斬り裂いて回避出来ないようにするのは素直にスゴイと思う。


 でも、これで終わりじゃ無いみたいだ。


 水龍の魔法はジェラールの咆哮で消滅しちゃったし、立ち上った火柱で雨のデバフも克服されてる。



「高みの見物はその位にしたらどうなの、シオン?」

「あれ? いつから気付いてた?」


 バレてないと思ってたのに。


「それは転移魔法で炎を躱したこと? それともジェラールが魔剣に乗っ取られるのを黙って見てたこと?」

「なぜバレたし」

「動きがあからさま過ぎるのよ。あの終わり方なら、最初から鎧を砕いて殴っても同じじゃない。アランさんの件もあるでしょうけど、本当はこれを狙っていたのでしょう?」


 ちょっと違うけど概ね合ってる。


 ジェラール本人は弱い癖にアランと互角に戦うどころか大火傷を負わせるなんて、何かタネがなくちゃ出来ないでしょ。


 それに試合中の動きだって、明らかに魔剣の強化が入ってたしね。


 強化魔法なら数%がいいところの強化幅が、あの魔剣だと身体能力が一割強は上がってたし明らかにおかしいと思ったんだよ。



「試合前に対峙したときから魔剣がヤバいなって思ってたけど、ここまでなのは想定外だよ」

「半分嘘ね。貴女なら試合の途中くらいから、こうなることは判っていたでしょ?」


 あのー、フェルアさん、何でわたしの考えてること分かるんですか?


 たしかに、魔剣に乗っ取られるジェラール君ってばおもし……危なそうだなーとは気付いたけどさ。


 でもコイツ、色々と前科ありそうだし、ここらでお灸を据えた方がいいかなって考えた訳よ。


 なんて言い訳を口に出そうとした瞬間、フェルアの背後で爆発が起こった。



「『絶凍障壁』」


 ザラさんが結界魔法を発動させようとしたけど、間に合うかどうかギリギリだったから、代わりにわたしが発動させる。


 迫り来る爆風がわたし達を避けて、周囲の観客席を吹き飛ばした。


 面だけの防御だと熱が回り込んで来そうだったから、『絶凍障壁』をドーム状に展開してみたけど正解だったね。


 収まった跡の石段なんて、熱で黒焦げになってた。


 リュウは自力で爆風を切り抜けて、他の人たちは魔術師のお爺さんが障壁を張って防いだみたいだ。



「ウオオオォォッッ!!!」


 そして、爆発の中心。


 体長5メートル近い巨人が現われる。。


 その見た目はお伽話に登場する『ランプの精霊(ジン)』のようで、身体が炎で出来ている。


 巨人に併せて魔剣のサイズも大剣並に巨大化しているし、それ以前に近付くだけで熱そうだ。



「そもそもの原因は貴女なんだから、さっさとどうにかしなさいよ」

「フェルアは手伝ってくれたりとかしてくれないの?」

「私の風魔法で強化された炎を浴びたい訳ね?」

「ゴメンなさい」


 あー、面倒な事になった。


 こんなことになるなら、ワンパンでジェラールをノックアウトさせてもよかったかな?


 いや、それだと結局お仕置きにならないか。


 わたしは観客席の手摺りを乗り越えると、闘技場の舞台へと降り立った。


シオン「一体いつから、わたしが炎に巻き込まれたと錯覚していた?」

ザラ「なん……だと……」

フェルア「(ノリいいな、この人)」

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