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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第三章 ~燦たる英雄のアンビバレンス~
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3-26.『報いを受けろ』



 わたしとフェルア、シリウスは闘技場の廊下を人混みを掻き分けながら走る。


 向かう先は医務室だ。


 先頭を走るわたしは医務室を見つけると、そのドアを壊す勢いで乱雑に開ける。



「布と湯を持って来い! 有るだけ全部だ!!」

「ポーションはまだか!」

「『治癒(ヒール)』!」


 医務室の中では医者や回復魔法を使う魔術師が忙しなく動いていた。


 そして人混みの向こう、治療台の上に横たわるアランの姿。



「退け」

「ッ!!!」


 わたしは邪魔な医者たちに軽く威圧を放ち、アランから遠ざける。


 彼の全身は火傷によって赤く爛れ、酷い所だと炭化していたり、溶解した鎖帷子が癒着してしまっている部位も見られる。


 よく見ると胸が上下していない。


 呼吸が止まりかけいる。


 まさに今、アランは生死の境を彷徨っているのだろう。


 これだけの怪我だと初級や中級のポーション、低位の魔法での蘇生は難しい。


 わたしはポーチから手製の上級ポーションを取り出して、薄く開いたアランの口に注ぎ込む。



 ポーションの効果はすぐに現われた。


 火傷によって損傷した皮膚が剥がれ落ち、その下から新たな皮膚がつくられる。


 炭化していた指先などは崩れ落ちると同時に新しいものがつくられ、焼け焦げていた髪も瞬く間に伸びていく。


 回復を終えたアランは治療台の上で静かに眠っていた。



「アランの様態は!?」


 遅れてやって来たのはグランドマスターのザラさんとオリハルコン級冒険者のリュウだった。


 彼女らもアランを心配してやって来たらしい。


 ザラさんの手にはポーションの瓶が握られている。


 そこに含まれる魔力の感じからすると上級ポーション――多分、先日リュウが素材を集めてきてザラさんに製作を依頼したアムリタだろう。


 この分ならわたしが上級ポーションを使うまでもなかったかな?


 いや、自体は一刻を争った。


 わたしが上級ポーションを使ってからザラさんたちが到着するまでの間に様態が急変していたら、そもそもザラさんが上級ポーションを持っていなかったら、今頃アランは死んでいたかも知れない。


 そう考えると、わたしの咄嗟の判断は間違いじゃなかった。



「シオン、貴女でしたか」

「折角のところ悪いけど、アランの治療は済ませたよ」

「有り難うございます。ポーションの代金はギルドの口座に振り込んでおきます」

「いいよ、手作りだし」

「いえ、対外的にもここはギルドが支払います」


 そこまで言われるとNoとは言えない。


 ザラさんの申し出を受け入れたわたしたちは医務室を後にした。




◇◇◇




 目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。


 月明かりと魔法燭台の小さな光源が室内を照らす。


 酒精の匂い……これは消毒か?



「お早うさん。いんや、もう『こんばんわ』の時間やな」

「……リュウか」


 寝台の脇にある椅子では、リュウが果実を手で弄んでいた。


 俺が起きたのを確認するとリュウはナイフ取り出し、手早く果実の皮を剥く。


 瑞々しい香りに喉の渇きを覚える。


 リュウは一口大に切り分けた果実を皿に載せ、フォークを添えると、俺の方に差し出す。



「堪忍な、こないむさ苦しい男が看病しとって」

「そうか。俺は、負けたか」

「あー……、んんー……」


 嘘の下手な男だ。


 そして何より、温かい男だ。


 10年前、クランを立ち上げるという話を真っ先に俺へと持ってきた。


 当時から人付き合いの苦手だった俺はきっぱりと断ったのだが、その後も彼は何かと俺のことを気に掛けてくれた。


 慕われ、上に立つ人間というのは、彼のような器の大きい者を指すのだろう。


 少し、あの誘いを断ったことを勿体なかったと思う自分がいる。



「まあ、気にすんなや。アイツはシバいとくさかい……シオンがな!」


 カラカラと笑うリュウ。


 だが、俺が心配しているのはそこではない。



「シオンは何か言ってなかったか?」

「せや、アイツ『ポーションの代金は出世払いでいいよ』言うてん。鬼通り越して魔王か!」


 そうか。


 そうか……。



 フフッ、とんだ借金ができてしまったな。


 恐らく、俺に使ったのはかなり質のいいポーションだろう。


 上級ポーションの最低価格は金貨100枚、だったか?



「何や? 思ったより元気そうやな」

「当たり前だろ、これからはポーション代の返済が待っているんだ。あまり休んでは居られない」

「その意気や。ほな、お休み」


 リュウは椅子から立ち上がると、部屋を出ていく。


 ……リュウの伝言では出世払いとも言っていたな。


 オリハルコン級か。



「目指してみるか」


 俺は冒険者だ。


 今から冒険をしたって誰も文句を言わないだろう。


 俺は一人のオリハルコン級冒険者の顔を思い浮かべながら、決意を新たにした。




◆◆◆




 病室の扉を閉めたリュウは一転、それまでの柔和な雰囲気が嘘であったかような(おぞ)ましい気配を纏う。


 彼が抱くのは激しい怒り。


 神聖な戦いの場を穢した者に対する抑えきれない感情だった。



「エレーヌ」

「はい」


 リュウは病室の外で待機させていた自らの腹心――エレーヌに声を掛ける。



「ジェラール・エル・モルガン、それとモルガン公爵を徹底的に調べろ」

「期間は」

「二日。それまでに洗い出せ」




◆◆◆




 本戦二日目


 舞台に上がるのはシオンとジェラール。


 何も知らない審判と観客は注目の二人のカードに大盛り上がりだ。


 中には黄色い声援を送る者もおり、ジェラールは気分良くそちらへと手を振っていた。


 しかし、審判に促されてシオンと向かい合うと、途端に彼の機嫌も悪くなる。



「何時ぞやの礼儀知らずな客か」

「そう言うアンタは何時ぞやのテーブルマナーの知らない田舎者だね」

「オリハルコン……幾ら貢いだか? それとも身体で手に入れたか?」

「分かるよ。いつも裏でチマチマやってると、相手も同じ事やってるんじゃないかって思っちゃうよね」

「チッ」


 図星だったのか、ジェラールは舌打ちを一つして剣を抜き放つ。


 対するシオンは一回戦と同じく無手。



「本戦二回戦、第一試合――始め!!」


 二人の準備が整ったのを確認し、審判が試合開始の合図を告げる。



「死ねッ――」

「……」

「ぶぐッ!!」


 開始早々、美麗な装飾が施された長剣に炎を纏わせ斬りかかろうとしたジェラールの顔面に拳が叩き込まれる。


 ジェラールは醜い悲鳴を上げながリングを転がる。


 筋の通った綺麗な鼻は骨が折れたのか歪に潰れ、大量の血が流れ出ていた。


 それでも戦意は欠片も衰えていないようだ。


 すぐさま立ち上がり長剣を構えると、シオンへ向き直る。


「クソが! 殺してやる!!」

「騒ぐなよ、みっともない」

「ぶべッ!!」


 ジェラールは威勢の良い言葉を放つも、再度顔面に拳を入れられる。


 折れた前歯が三本ほど宙を舞い、ジェラールは地を舐めた。



「さあ、愚かさの精算と行こうか? ()()()くん」


 シオンは顔を押さえるジェラールへと侮蔑の笑みを向けた。




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