3-24.『ロキ』
第三章は40話程を目標にしていたのですが、ちょっと長引きそうです
「どこ行ってたの!?」
「ごめんなさい」
ホテルの部屋に戻ったら、フェルアに開口一番叱られた。
帰り道、わたしがフェルアたちとはぐれて戻ってきた頃には、とっくに日が沈んで夜中になってしまっていた。
体感的には30分くらいしかロキの世界には居なかったはずなんだけど、あそこはここと時間の流れが違うのかもしれない。
そして、フェルアたちの前から消えてしまったわたしを、彼女たちは日が沈むまで探してくれていたらしい。
本当にゴメンなさい。
でも、悪いのはわたしじゃなくてロキなんです。
「だから、そろそろ立っていい?」
「事情は分かったわ」
「じゃあ――」
「昼間の闘技場でのこともあるから、あと10分反省」
ということで、帰ってきてからかれこれ1時間くらい正座させられている。
なんとかフェルアを説得して、わたしが勝手にふらついていた訳じゃないことは理解してもらえた。
だけど、その間ずっと正座していたから、足はもう痺れているを通り越して感覚がなくなってきている気がする……。
いつもならわたしの味方になってくれるはずのシリウスも拗ねているのか、はたまた助ける必要はないと思っているのか、普段通り部屋の隅でお座りしたままだ。
まあ、フェルアたちに心配をかけたのは事実なんだし、これくらいの罰は甘んじて受けよう。
◇◇◇
反省タイムが終わって足の感覚も戻ってきた所で、わたしはポーチの中から本を取り出す。
「あら? そんな本持っていたかしら?」
「ちょっとね」
フェルアが不思議に思うのも仕方ないだろう。
これはロキの世界から戻って来たときに、なぜか持っていた古びた革鞄に入っていたものだ。
多分、わたしがこっちの世界に戻るときにロキが持たせてくれたんだろう。
その時は、時間のギャップに驚いてフェルアたちと早く合流することを優先したから、本の内容が何かを見ていない。
ロキからもらった本は一冊が辞書レベルの厚さで、それも20冊近くあったから、今日の所はそのうちの一冊を流し読みするくらいにしておこう。
「何、これ?」
「ええっと……『広域殲滅魔法 紅焔』『対竜魔法銃 十字架』『エリクサー』……ヤバいのしか載ってないじゃん」
適当に選んで開いてみた一冊だったけど、書かれていたのはなかなかヤバい内容だった。
一撃で国の首都が落とせるレベルの魔法を解説する文に、どんな防御魔法も貫通することのできる武器の製法、死者を蘇生させる秘薬の材料などなど。
どれか1つでも世に出れば、間違いなく戦争が起きるような品物に関する情報がずらりと書き連ねられている。
幸いなことに、どれもバカみたいにマナを消費する必要があったり、素材を手に入れることがまず不可能なものばかりってことか。
この『拾参式 雷切』なんか、作製に魔王の魔石が必要じゃん……。
頑張ればいくつかは作れそうなものもあったけど、現時点で必要性は感じないからどうでもいいや。
うん、この本たちはしばらくの間は死蔵決定。
それでも後々になって何かの役に立つかもしれないから、他の本に何が書いてあるのかは時間があるときに確認しておこう。
まったく、ロキはなんでこんなものを持たせたのかな?
◆◆◆
「シオン、か……」
アンティークに囲まれた部屋でひとり、ロキは先程まで会話していた少女の名前をふと口に出す。
彼が自分の世界にシオンを呼んだのは、何も親友と同じ魔法を使うことができるという理由だけではない。
シオンが王都へと入ったことは、隣接する彼の世界にも伝わっていた。
そしてある程度、彼女がどういった存在であるかも理解していた。
「ただでさえ夢幻魔法なんて十字架を背負っているというのに……」
部屋の中に彼の独り言を聞く者はいない。
いや、いなかったと言うべきだろうか?
『……ォォォオオオ!!!』
シオンが王都へと戻っていった時のものと酷似した亀裂が虚空に走る。
しかし、今度のそれは、少し毛色が違っているようだった。
現われたのは、石膏でできた彫像のように白く巨大な指。
空間の向こう側から伸びるそれは、両手で亀裂をこじ開けようとしている。
ガラスを引っ掻くような耳障りな音を伴って出てきたのは、異形の存在だった。
のっぺりとした顔面には目も鼻も耳もなく、大きな黒い口が開いただけの不気味な存在。
怪物は部屋と同程度もある頭部を亀裂に押しつけ、ロキの世界へと無理矢理侵入しようと試みている。
「……ボクはキミを招待した覚えはないよ?」
ロキが小さく呟いた途端、怪物の頭部が大きく歪む。
まるで強大な力に押しつぶされてでもいるかのように、異形の怪物はその姿を小さくしていき、最終的には1センチ四方のキューブへと圧縮されてしまった。
「シオン……キミは一体、いくつの業を背負っているんだろうね?」
その問に答えるものは何処にもなく、ロキのつぶやきは怪物の成れの果てと共に時空の狭間へと溶けていった。
面白い小説になっているでしょうか? 惰性になっていないでしょうか?
それが最近の心配です




