3-22.『世界』
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「ようこそ、ボクは――」
「『迦具土神』」
振り向きざまに階段を降りてきた人物に向かって魔法を放つ。
口上の途中だった?
そんなのは関係ない。
古今東西、舐めプして主人公を逃がす敵キャラしかり、情報を吐かせるために敵を捕らえようとして失敗する主人公しかり。
取り逃がして後からしっぺ返しを喰らうヤツらのまあ多いこと。
もう、一種のフラグか何かかと思えるよね。
だからわたしは全力で倒しにかかります。
殺れるときに殺っておかないと、いざというときに痛い目を見るのはこっちだもんね。
掲げた右手からは燃えしきる業火が迸り、一面を火の海へと変貌させる。
――手応えがない
「『海神』」
追撃に選んだのは荒れ狂う海のような水の奔流。
圧倒的な質量が部屋に置かれたアンティークを悉く押し流し、階段上の人物へと向かっていく。
――爆発
『迦具土神』の残り火によって急激に暖められた水が一瞬で膨張し、爆風を巻き起こした。
――まだ足りない
「『霹靂神』」
空中に漂っている水滴を伝い、眩い雷光が直走る。
縦横無尽に、まるで枝葉を広げた大樹のような稲妻が駆け巡った後には、灼かれた空気から発せられたオゾン臭のみが漂う。
塵埃が晴れた先の階段は跡形もなくなっていて、その上にいた人物の姿もどこにもなかった。
「――しっかりと『対魔法空間』を展開してたつもりだったんだけどな」
手加減をし過ぎたか……。
振り返ると階段の上にいた男がそこにはいた。
さっきの魔法の衝撃で男が被っていたフードが開け、その容貌が露わになっている。
整った容姿に種族特有の尖った耳。
――エルフ
それにしても、これだけやって掠り傷1つ付けられなかったのは地味にショックだ。
最後の『霹靂神』なんて垣根なしの全力だったんだけど、直撃する寸前の所で躱された。
まさか空間魔法が存在するとは思わなかったな。
攻撃が当たると思った瞬間、この男の姿がかき消えたと思ったら、その時にはもうドアの隣に気配は移動していた。
「『対魔法空間』が何かは知らないけど、普通に魔法は使えたよ?」
「おや? もう攻撃してこないのかい?」
「戦う気のないヤツに攻撃仕掛けるほど、わたしもバトルジャンキーじゃないからね」
そう、コイツは初めから戦う気なんてなかった。
殺気がないのもそうだけど、転移魔法を使ったときだって、不意を突いて攻撃を仕掛けてくれば、有利に戦いを進められたはずだ。
まあ、だからと言って戦いが続いていたとしても、負けるつもりもなかったけど。
「で? 何のためにわたしを呼んだの?」
「キミに少し話しがあったからね」
「話し?」
話しどころか、わたしがこの男と会ったのは今日が初めてなんだけど?
「その前に、この部屋を片付けようか」
そう言うと男が指を鳴らした。
その音が次第に反響していったと思えば、共鳴するかのように壊れたアンティークや棚、テーブルたちが元の形を取り戻し、独りでに宙に浮かぶと元あった場所へと帰っていく。
時魔法……違うな、これの仕組みはもっと単純なヤツだ。
だけど、どの魔法を使っているのかが分からない。
「ボクのやっていることが不思議かい?」
「わたしもやればできると思うけど、何か引っかかるんだよね」
ふよふよと浮いていた家具は、わたしが考えている間にも次々と配置されていく。
わたしの魔法で荒れ果てていた部屋は、ものの数十秒もすれば元のオシャレな姿を取り戻した。
男が部屋の中央に空いたスペースへ歩いて行くと、テーブルと2脚のイスが現われる。
片方のイスに座った男がもう一方を勧めてきたので、遠慮なくわたしも腰掛けた。
「先ずは突然呼び出して悪かったね」
「できればもう少し普通に招待して欲しかったね」
「それについては申し訳ない」
「で? 話しって何?」
「その前に自己紹介かな? ボクはロキ」
ロキと名乗った男が再度指を鳴らすと、テーブルの上にコップが2つ現われた。
お茶が出てきたはいいんだけど……緑茶?
お茶請けも野菜の漬物だし、エルフってだけあって以外と年寄りなのかな?
試しにキュウリの浅漬けみたいなのを食べてみたけど、かなりおいしい。
お茶もスッキリとした苦さの中にほんのりとした甘さがあって、かなり良いものを使ってることが分かる。
って、呑気にお茶なんか飲んでる場合じゃない。
「わたしはシオン。それで、話しって何?」
「何から話そうか? キミには色々と言っておきたいことがあるんだよ」
「じゃあ、その魔法みたいなヤツから」
「ああ、やっぱり気付いていたか」
さっきの『迦具土神』と『海神』を防いだ魔法と転移魔法も、わたしが使っている魔法と何かが違う気がするんだよね。
結果としては同じなんだけど、根本的なところが違う、的な?
「ボクが使っていたのは魔術さ」
「魔術? 魔法と何が違うの?」
「全てが違う。例えるなら、サッカーをするのとサッカーゲームをするくらい違うって言ってたよ」
言ってた、ね。
それよりも、わたしが使ってたのって魔法じゃなくて魔術だったんだ。
そして、魔術と魔法には違いがある、と。
「魔術は全部自分でやって、魔法はあらかじめできることが指定されてるってことでしょ」
「それもそうなんだけど、もっと根本的な部分が違うんだよ」
「これ以上違う所なんてないと思うけど?」
「それがあるんだよ。多分、キミには分からないと思うけどね」
なんかバカにしたような言い方だなあ。
ムッとしたのが顔に出ていたのか、ロキは少し笑うと話を続けた。
「ゴメンゴメン。だけど、これは感覚的なものだから、キミみたいな人には分からないんだよ」
「わたしみたいな人間?」
「そう、キミみたいな人は魔術を簡単に使えるんだけど、ボクみたいな人間が魔術を使うのはとても苦労するんだ」
うん?
それはおかしくないか?
フェルアは結構簡単にマナの操作ができてたぞ?
後は魔術を発動するだけじゃないのか?
「わたしの相方は直ぐにできそうだったけど?」
「キミと一緒にいたエフルの子の場合は精霊使いだったからね。どちらかといえば魔術よりも精霊魔法に近い感じだったんじゃないのかな」
「また新しい言葉が出てきた……」
「なかなか話が進まないね。時間もないから答えを出そうか」
ロキは緑茶で一息入れてから真剣な様子で語り始めた。
「ボクとキミには種族だけじゃない、もっと根本的な違いがあるだろ?」
「それって――」
「――ボクら“この世界の人間”と、キミのような“異世界人”との違いさ」
中途半端ですけど、一旦ここで区切ります。
次でロキとの話しは終わる予定。




