3-18.『宴の始まり』
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王都に来て三日目
今日はいよいよ闘技大会が開催される日だ。
通りにはホットドッグや綿アメみたいな軽食を売る出店があちこちで開かれていて、普段から活気に満ちている王都だが、道行く人々の数はいつにも増して多くなっている。
空には魔法で作られた花火まで打ち上がっていて、その様子はまるで祭りのようだ。
わたしたちは人の海をかき分けるようにして大会が開催される会場へと行く。
大会初日の今日は予選が行われる予定で、よくあるバトルロワイヤル形式で本戦に出場することのできる参加者を選出するらしい。
そのルールはとっても簡単で、武器だったり魔法だったりの攻撃によって極力相手を殺さないように倒し、最後の2人になるまで戦うというものだ。
ちなみにこの『極力』ってのは、闘技大会だけあって死者が出るときは出るから。
一応、大会の開催委員が魔法薬による手当をしてくれるにはしてくれるんだけど、それでも数年に一度は死人が出るみたいだ。
まあ、いくら防具ありで大会委員会がある程度治療をしてくれると言っても、当たり所が悪ければ一撃だけで死んじゃうからね。人間だもの。
だからと言って殺すことが黙認されている訳でもなく、明らかにオーバーキルだったり、相手が降参、もしくは戦意が喪失した状態で攻撃を加えた場合は失格になったり、ひどい時は普通に捕まったりする。
まあ、公共の場での見せ物なんだから当然だよね。
そして、この予選で絞り込まれた16人が二日目の本戦に出場することができる。
本戦は一対一の勝ち抜き戦で行われ、そのルールは予選とほとんど同じだ。
ここまで聞いた感じだと、ボクシングやプロレスだったりのスポーツ的な催しで、古代ローマの剣闘士や奴隷だったりが戦う血生臭いヤツじゃないと思う。
やっとのことで辿り着いた会場は、野球ドームの様な見た目と広さを持った円形の建物だった。こんな感じの建物をコロッセオって言うんだっけ?
もちろん中は大会の見物人であふれかえっていて、観戦するための座席を買うために、チケット売り場の受付係の人たちは忙しそうに動き回っていた。
「それじゃあ、頑張ってね」
参加者用の受付に向かうわたしにフェルアが応援の言葉をかける。
大会に参加しない彼女とはここでお別れだ。
「ちゃんとわたしの勇姿を見てね」
「ヴァン!」
「ふふっ、ええ。シリウスと一緒に期待させてもらうわ」
シリウスからもエールをもらったところで、2人は人混みの中へと消えていった。
受付の係員に冒険者ギルドで参加登録したときに受け取った整理券を提示する。
「確認しました。シオンさんは第16グループとなりますので、控え室で待機をお願いします」
このグループというのは、大会の出場者が多いため分割するための仕組みらしい。
たしかに、1回のバトルロワイヤルで100人近くが一斉に戦い始めると、試合がごちゃごちゃしてやりにくいだろうからね。
わたしは指定された控え室へと足早に向かった――
◇◇◇
大会は特にこれといった問題も無く進行していき、途中で昼食の休憩を挟んだと思ったらあっという間に第15グループの試合が開始された。
ここまでの試合にシオンは登場していない。
観客席に座るためのチケットは、なんだか勿体ない様な気がしたのだけど、こんなに長い間立ち続けることになるんだったら買わないという選択は失敗だったかもしれない。
本戦に進んだのは、巧みな槍捌きで他の参加者を圧倒していた冒険者や、一度に数十もの魔方陣を展開した冒険者など、どの選手も一筋縄では勝つことのできない人物ばかりだ。
シオンの知り合いで大剣使いのアランさんや、オリハルコン冒険者のリュウさんも今日の予選を突破して本戦への出場切符を手にしていた。
隣で興味なさげに蹲るシリウスの頭を撫でながら、つい先程始まった試合をぼんやりと眺めていると、こちらに近づく。
「確かフェルアさんでしたね。改めまして、ギルド本部長のザラです」
こちらにやって来たのは冒険者ギルド本部のギルドマスターであるザラさんだった。
「どうも、フェルアです。今日は試合の監督ですか?」
「はい、これも一応はギルド長としての仕事なのですよ」
開催に携わっている冒険者ギルドの長であるザラさんは大会責任者のようなポジションにいるらしい。
そして、本部で試合を見ていたところ私の姿を認めたため、世間話を兼ねてこちらに来たようだ。
「先日の会談でも見ましたが、そちらの従魔の主は貴女ですか?」
「いいえ、シリウスはシオンの従魔ですが」
「そうでしたか。いえ、ウルフ系の魔物は主人以外の指示には従わないものが多いですから」
ザラさんは不思議そうにシリウスを見つめるが彼女がその問に答えるはずもなく、相変わらずつまらなそうに空を眺めていた。
そのとき、突如として青空に観客たちの喝采が響き渡った。
どうやら第15グループの試合も終わったようだ。
「彼ですか……」
「ご存じですか?」
「ええ、まあ。所謂、問題児というヤツです」
第15グループを勝ち抜いたのは、意外にもよく見知った人物だった。
――ジェラール・エル・モルガン
モルガン公爵家の嫡男であると同時にアダマンタイト級冒険者。
予選では爆炎を放つ魔剣を使い、本戦への出場権を獲得していた。
その豪快な戦い方は観戦に来ていた人々に好評だったが、他の参加者が火傷を負うことを厭わずいたずらに魔剣を振り続ける行動は、私としてはあまり好きにはなれないものだ。
本当、こんな交戦的な男に絡まれるなんて、あの子はトラブルにでも愛されているのかしら?
最も本人は「トラブルが向こうからやって来るだけ」っていつも言っているのだけれど、私からしてみればシオンがトラブルに首を突っ込んでいるのではないかと錯覚してしまう。
「時に、シオンさんのコンディションはどうでしょうか?」
「正直に言えば心配ですね」
「それは、対人戦は得意ではないということですか?」
「はい、あの子はしっかりしてそうで、以外に抜けてるところがありますから」
「確かに混戦において不測の事態はつきものと言えますが、それでも彼女が不意打ち程度で負けるとも思えないのですが……」
「いえ、そういう意味ではなく――」
「?」
私はこの会場に来るまでのシオンとの会話を思い出していた。
◇◇◇
「綿アメ1つとリンゴ飴1つで大鉄貨8枚だ!」
「はい、鉄貨8枚」
「毎度あり!」
闘技大会の会場へと行く途次、シオンは屋台の1つに立ち寄って買い食いをしていた。
彼女が両手に持つ甘味の類は、本来嗜好品であるため値が張るのだが、物流の盛んな王都や近隣の街では今回のようなイベントの際、元となる材料が大量に取引されるため比較的安価に買い付けることができる。
それでも、屋台で売られている他の食品と比べれば割高ではあるのだが。
「フェルア、綿アメ食べる?」
「いただくわ」
しかし、王都にほど近いアンガルの街に住んでいたフェルアであっても、彼女は養護施設で育ったためにこの様な甘味は口に入れる機会にはなかなか恵まれなかった。
普段のフェルアなら奢られることに抵抗を覚えるのだが、甘味の誘惑までには勝つことができず、シオンの差し出す綿アメを大人しく受け取っていた。
「今日の試合、何か作戦はあるの?」
大会の形式はポスターに書かれていたので、その内容はフェルアも心得ていた。
そして、いくら多の冒険者とは隔絶した力を持つシオンであっても、周囲に敵が蔓延るバトルロワイヤルを制することは多少の手間がかかるとフェルアは考えた。
もちろん、シオンが負けるなどという可能性は万が一にも有り得ないとフェルアは理解していたが、純粋にどの様に勝ちに行くのかが気になったのだ。
「普通に剣だけ使ってもいいんだけど、それだと時間がかかりそうだからな~」
「それ以前にあなた、手加減できるの?」
「それも心配なんだよね」
シオンが剣を握り始めてから半年も経たない。
その間、冒険者として活動する中で様々な魔物との戦いを通して、熟練の冒険者にも引けを取らない技術を身に付けることはできた。
しかしそれは、相手を確実に仕留めるための剣であって試合には向かない。
そもそも対人戦の経験の少ないシオンには、相手の力量に合わせて手加減をすることは難しく、一歩間違えれば惨事を引き起こす可能性さえあった。
「それなら魔法を使うの? 試合はリング上でやるみたいだから、場外を狙うのが一番楽だし」
「いや、折角だから試したいことがあるんだよね」
「あまり無茶なことはしないでよ?」
「分かってるって」
言葉の端から不穏なものを感じるフェルアだったが、大会に参加しない自分が口出しするべきでは無いと思い好きなようにさせた。
だが、彼女は肝心なことを忘れていた。
この手のことになると、シオンは必ず問題を起こすことを――
次回もバトルシーンは無い予定
早くシオンを戦わせたいのに、どうしてこうなった……




