3-16.シオン先生の魔法教室
調子がいいので夜くらいにもう一つ投稿できそうです
「それでは第4回、シオン先生の魔法教室を開催したいと思います!」
夕食をホテルの1階で済ませて部屋に戻ってきたところでわたしが切り出した。
フェルアから「何やってんだコイツ」みたいな胡乱な視線を向けられているけど、多分気のせいだろう。
ちなみに、今日の夕ご飯はバイキングだった。
特にローストビーフがおいしかったです。
まあそれは置いといて、かねてから計画していたフェルア強化作戦を実行しようと思う。
それに、昨日は泣きつかれちゃったからな。
フェルアにはちょっとでも実力を付けてもらって、自分に自信が持てるようになって欲しい。
「色々聞きたいことはあるのだけど、この茶番はなに?」
「茶番ってひどっ! これでもマリアンヌには好評だったんだよ」
「ああ、だから第4回なのね」
マリアンヌはフェルアのいたセトリル教会の子どもの1人だ。
教会にお世話になっていたとき、彼女を含めた冒険者の子どもたちにアドバイスをする傍ら魔法を教えていたことがあった。
「はじめに聞きたいんだけど、フェルアってどんな魔法が使えるの?」
「風魔法と水魔法が少しかしら。あと、火魔法も種火を作る程度なら使えるわ」
と言うことは、実際に使える魔法は風魔法だけか。
それでもフェルアは無詠唱で風魔法を使えるし、威力も精度も安定しているから優秀な魔法使いであることには違いない。
「それと、精霊魔法が使えるわ」
「ひょっとして、フェルアの周りをいつも飛んでるキラキラしたのが精霊?」
「えっ!?」
「えっ?」
あれ?
「ひょっとして精霊は普通見えないの?」
「見えないこともないけれど、契約者が顕現させていない状態ならば、まず見えないはずよ」
「顕現ってなに?」
「そうね、実際にやってみた方が分かりやすいかも。――来て、イーリス」
フェルアが虚空に向かって呼びかけると、マナの粒子が凝縮して小さな女の子が現われた。
女の子はまさに童話や絵本とかに出てくる精霊そのもので、手のひらくらいの身長で、楕円形で淡く光るの4枚の羽をもっていた。
「この子が私の契約している精霊のイーリスよ」
「へぇ~、これが精霊。よろしくね、イーリス」
わたしが声を掛けると、イーリスはフェルアの後ろに回り込んでしまった。
それでも、わたしのことが気になるのか、フェルアの服の端を掴みながらこちらの様子をうかがっている。
その仕草が人見知りの子どもみたいでかわいい。
「これが顕現?」
「そう。こうやって契約者が精霊にマナを与えることで、魔法の補助なんかをしてくれるの」
フェルアの肩に立ったイーリスが胸を張って得意げな様子をしている。
いいなー、わたしもこんなかわいい精霊と契約したい。
「それで、魔法の特訓って何をやるの?」
おっと、いけない。
イーリスに夢中になりすぎていて、これがフェルアの魔法の特訓だってことを忘れていた。
「まず、フェルアって魔法が嫌いだよね」
「……どうしてそう思うの?」
「正確には傷付けることが嫌い、かな? 今朝の喧嘩のときだって、わたしに魔法を当てられなかったし」
わたしがフェルアと知り合って一月も経っていないけど、この子は人と関わることが結構苦手だ。
ヴァーノルドと会ったとき、ギルド長と会ったとき……そして今日、メリッサさんと会ったとき、フェルアは一切会話に加わろうとはしなかった。
なんとなくだけど、わたしと話すときも一歩引いている感じがするし。
そもそも性格が戦いに向いてないんだよね。
だからと言って戦わなくていい理由にはならない。
街から出れば魔物に襲われるなんてことは珍しくないし、治安の悪いこのご時世だと街にいてもトラブルに巻き込まれるかもしれない。
「だからフェルアには防御魔法と支援魔法を鍛えてもらおうかなって思ってる」
「攻撃魔法はどうするの?」
「もともと風魔法は攻撃に向いてないから、そっちは後でやるつもり」
戦いなんて、防御しまくって相手が疲れたところに一撃入れられればそれだけで十分だしさ。
まあ、究極的には生き残れたら勝ちだし。
「まずはこの魔法から覚えてみよっか」
わたしはマナをササッと練り込んで板状に形成し、実体を伴った障壁へと昇華させる。
「これって、いつもあなたが使ってる障壁魔法?」
「そう、『絶凍障壁』って命名したわたしのオリジナル魔法」
「でも私、氷魔法は使えないわよ?」
「あれ? これって氷魔法じゃないよ?」
「えっ?」
「えっ?」
う~ん、どうも話がかみ合わないぞ?
「この魔法はどうやって発動してるの?」
「こう、マナを壁みたいに固めるイメージで……」
「待って待って! そのマナを固めるの意味が分からないんだけど」
どういうこと?
魔法を使うのにマナの操作は基本じゃないの?
もしかして――
「フェルアっていつもどんな感じで魔法を使ってる?」
「あまり上手く説明できないのだけれど、詠唱をしながらマナを魔法にするイメージでやっているわ」
「つまり、マナそのものを操作することはできないと?」
「そういうことになるわね」
これは先が思いやられるぞ。
次! 次の話が終わったら闘技大会を書ける!




