テイム!
わたしの前に現われたのは大型犬よりも二回りくらい巨大な灰色の狼たちだ。
その数は約二十頭。
毛皮の上から見ただけでも分かるほどの強靱な筋肉を全身に纏い、口元から白く輝く牙を覗かせながら、低いうなり声を上げてこちらを睨んでいる。
……ってか、狼にしては少しデカくね?
動物園のライオンなんか子猫に思えてくるような迫力があるんですけど。
そして、群れの一番後ろ。
一頭だけ真っ黒な毛並みのヤツがいる。
他の固体と比べると身体は気持ち小さいが、滲み出る風格はコイツが群れのボスであることを表している。
うん?
なんかこいつだけ、他のヤツらとは違って腰が引けている感じがする。
……気のせいか。
見た感じ、こいつら一頭一頭の強さは、さっき倒した熊には到底敵わないだろう。
それでも、塵も積もればなんとやらと言うように、これだけの数の狼が群れになればかなりの脅威になり得るだろう。
チームワークは個の力を何倍にも引き上げるからね。
熊の解体に時間を掛けすぎたから、血の臭いに釣られたのかな?
「「「グルァッッッ!!!」」」
おっと!
考えていたら、先頭にいた5頭が飛び掛かって来た。
しかし、わたしは同じ轍は踏まない女。
熊との戦闘の時よりも強めの威力を意識して、即座にイメージを固めて風魔法を放つ。
「『颶風』」
「「「ギャイン!?」」」
嵐のような暴風が周りに吹き荒れ、狼達が弾き飛ばされた。
突然の攻撃に驚いたのか、後ろに続いていた他の狼達も思わず動きを止める。
次の魔法をイメージしながらゆっくり魔力を込めると氷の槍が作り出された。
「『凍結槍』」
空中に浮かんだそれらは、わたしが手を振り下ろすと同時に、先程吹き飛ばした狼へと一直線に向かっていった。
体制の崩れていた先程の5頭は回避しようとするも間に合わず、頭や体を貫かれて一撃で絶命した。
その光景を見て他の狼達は圧倒的な実力差を感じとったのか徐々に後退り始め、一頭が踵を返すと同時に周りにいたやつも我先にと逃げていった。
しかしながら、1頭だけこの場に残っているのがいる。
他のやつらとは違って全身真っ黒な体毛をした狼――群れのボスだ。
その眼光は鋭く、金色の瞳はさながら夜空に浮かぶ1等星のようだ。
顔付きも凛々しくてカッコいい気がする。
そんな狼が身を投げ出し、わたしに腹を見せている。
これは……降伏宣言かな?
「戦ってみたけど勝てないので降参です。だから殺さないで下さい!」的な。
「クゥン……」
よく見ると震えている。
ちょっと可哀想な気もするけど……かわいい。
「クゥン」、ってなに!? めっちゃかわいいんですけど!
凛々しい顔付きなのにそんな声出すなんて、これが俗に言うギャップ萌えってヤツですか!?
「よしよーし、怖くないよー!」
そう言って首元とお腹を撫でる。
あー、このモフモフした触り心地がたまらない。
うちは犬飼ったことなかったから、こうやってお腹に顔を埋めるのが夢だったんだ。
その後はしばらくの間、至福のモフモフタイムを存分に楽しんだ。
初めの内は身体を強張らせていたボス狼だったけど、最後の方になると目をとろんとさせていた。
餌付けのつもりで熊肉をあげてみたら普通に食べてくれたし、素直でいい子だ。
「そうだ! お前、わたしと一緒に来る?」
仲間を殺しちゃったけど、弱肉強食な自然界だから上位者であるわたしを襲うことはないだろう。
一瞬狼がビクッ!ってなったけど、しばらくしてわたしに身体を擦り寄せて来た。
あー癒される~。
「かわいいなー、このやろー!」
わたしも抱きついてモフモフする。
恐怖で仕方なく従ってる気がするけど、それはこれからどうにかすればいい。
長い時間をかけて信頼を勝ち取っていこう。
「マジック・バック」から大きな肉の塊を出して狼にあげる。
その隣でわたしも肉を焼いて食べる。
ちなみに狼の死体は回収済みだ。
これも町についたら売るつもり。
また他の生き物がやって来て襲われたら面倒だから解体はしていないし、血溜まりは土魔法で地面を掘り返して消して、臭いは風魔法で散らしてある。
よし、肉が焼けた!
うん、ちょっと熱くて獣臭いけど、塩だけでも十分美味しい。
酒かなにかで臭みを取ってしっかりと下ごしらえをしてから調理すれば、かなり美味しい料理ができるんじゃないかな?
「そう言えば名前を決めないとね」
わたしの声に、肉を食べ終わった狼が首をかしげる。
かわいいな~、でも、コイツってオス?メス?
……メスか。
「どんな名前がいいかな~♪」
メスだからやっぱ、かわいい系の名前かな?
花の名前は……、この凜々しい顔に合わない気がする。
色から取るとクロとかノワールか。
……何かありふれた名前だな、って言うかレパートリー少ないんですけど!
ボキャ貧にこれ程まで後悔するときが来ようとは……!
待て待て、諦めるな。
この際可愛くなくてもいい。
何か、ありふれた名前じゃないと同時にいい感じの意味を持った名前は……
「そうだ! “シリウス”なんてどうかな?」
紫の燐光を纏った青白い瞳が1等星のシリウスみたいだったから、この名前が似合いそうだ。
中学校で理科の授業を真面目に受けててよかったー。
響きもカッコいいし、凛々しい顔にもマッチしていて違和感はない。
確かシリウスって名前の女神も居たはずだ。
まあ狼の名前なのに、おおいぬ座の星の名前を付けるのは失礼かもしれないけど。
「グァン!」
本人は良さそうだしいいか。尻尾も振っていて嬉しそう。
「よろしくねー、シリウス」
こうしてわたしは、この世界にきての初めての友達であり、かけ替えのない友人となる狼のシリウスを仲間に加えた。
シリウス「(お腹を見せながら)くっ、殺せ……!」
愛「(ヤバい、めっちゃカワイイ!)」




