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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第三章 ~燦たる英雄のアンビバレンス~
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3-13.月夜の下のガールズトーク

正月に間に合った!

今年1年もどうぞよろしく!



 レストランでの一悶着の後、わたしたちは部屋に戻ってきていた。


 助けた料理長や支配人のアーネストさんからはお礼を言われた。


 命の恩人だって言って料理長自ら手を奮ってくれたディナーはとても美味しかったな。


 ああ、それとわたしに剣を向けてきた護衛はグレンが連れて行った。


 グレンは「メインディッシュが……」って未練がましいこと言ってたけど、わたしが「仕事してこい!」って一喝したら泣く泣く諦めていた。


 それにしてもギルド証を部屋に置いてきたのはマズったな。あのお坊ちゃんがここぞとばかりに貴族マウント取ってきてウザかった。


 うん、今度からは人前に出るときは必ず身に付けるようにしよう。


「ここのレストランの料理は美味しかったね」

「私はあまり楽しめなかったわ……」


 あー、フェルアにとってはそうだったかもね。


 料理の代金を気にしたり、危うく人が斬られそうになる騒動が起きたり、いろいろと気が気じゃなかったはずだから。


 思い返してみれば濃い1日だったな。


 門では兵士たちに止められ、冒険者ギルドでは世界の裏側を知り、ホテルでは貴族に絡まれる……いや、最後のはわたしから絡んでいったかな?


 まあ、さすがにもう今日は何も起こらないでしょ。


「と言う訳で、お風呂に入ろう!」

「私は遠慮するわ。今日は色々あって疲れたから……」

「いいじゃん、折角の機会なんだしフェルアも入ろうよ。シリウスもおいで」

「ちょっとシオン、押さないで」


 フェルアとシリウスを伴って洗面所に行く。


 着ていた服は置いてあったかごの中に放り込んで、浴室と繋がる扉を開ける。


 視界を覆い尽くす白い湯気が晴れると、そこには古代ローマのお風呂みたいな白い大理石でつくられた浴場が姿を現す。


 部屋を出る前にお湯を入れる魔法道具を使っておいたから、広い湯船にはたっぷりとお湯が蓄えられている。


 手を入れてみると熱いお湯がジーンとした感覚を伝えてきて気持ちいい。40℃ぐらいかな?


 よし、早速入ろう!


 軽く髪を濡らしてタオルを巻いて、わたしとシリウスにかけ湯代わりの洗浄の魔法をかけたらお湯の中に入る。


「あぁ~、メッチャ気持ちいい~~」

「クゥ~ン」


 実に3ヶ月ぶりのお風呂だ。


 これに毎日入れていたなんて、地球にいたときは贅沢な暮らしをしていたんだとつくづく実感する。


 恐る恐ると言った様子でお湯の中に入ってきたシリウスも、しばらくすると目を細めて気持ちよさそうにしている。


 そんな感じで1人と1匹が寛いでいると、浴室の扉が開かれた。


 当然ながら入ってきたのはフェルアだ。


 モデル顔負けのスラッとしたプロポーション、真っ白できめ細かい肌、恥ずかしいのか桜色になった顔なんてメチャクチャ乙女って感じがする。


 それと、どこがとは断言しないけど、タオルを押し上げてる一部分がスッゴい羨ましい。大きいし、綺麗だし、形がいいし、大きいし……。


 っと、話が逸れた。


 うん? 何でフェルアは浴槽に入ってこないんだろ?


「どうしたんだい、フェルア? 恥ずかしいのかい? ……ごめんなさい」

「謝るくらいなら最初からやらないで」


 ヤバい、湯船に浸かってるのに鳥肌立った。


 あの絶対零度の視線を受けたら、そこら辺の魔物はしっぽ巻いて逃げ出すんじゃないの?


「それで、どうかした?」

「……お風呂の入り方がわからないのよ」


 そういえばこの辺りには入浴の文化がないんだった。


「まずはかけ湯って言って、身体の汚れを簡単に落としてから湯船に入るの。それで、何分かお湯に浸かったら頭とか身体を洗う」

「何であなたは知ってるのよ」

「前に住んでたところは入浴の文化があったらね。それと、かけ湯はそこのシャワーを使うといいよ」


 わたしがシャワーの使い方をレクチャーした後、フェルアは軽く身体を洗ってお湯に浸かる。


「んぁっ……」

「……」


 たぶん初めて入るんだろうお風呂の気持ちよさに思わず吐息を漏らすフェルア。


 それは反則だよ。


 不意打ちでそんな声聞かされたら女のわたしだってヘンな気持ちになっちゃうって。


 いけないいけない。おかしなこと考えてないで今はお風呂を楽しもう。


 心頭滅却、無我の境地、1000・903・986……って、それは拷問のヤツじゃん!


「……」

「……」


 何この沈黙? メッチャ気まずいんですけど!


 シャワーから滴り落ちた水滴の音がやけに大きく反響する。


「ねえ、シオン」

「な、なに、フェルア?」

「私ってフェルアと旅をしてていいのかな?」


 少し言葉に詰まったけど、なんとか返事ができた。


 返事はできたんだけど……振ってくる話題、重くない?


「なんでそんなこと聞くの?」

「私はシオンみたいに上手く魔法を使えない。お金だって持ってない。全部シオンに頼っちゃってて迷惑じゃないのかな?」


 あー、フェルア酔ってるな。


 お風呂に入ってるからにしては顔が赤いし、いつものお姉さん口調が幼くなってる。


 ちょっとかわいい……じゃなくて! のぼせる前にお風呂から出なきゃ!


「フェルア、一旦お風呂出よう」

「答えて! 私はあなたの旅に必要?」


 フェルアの手を引いて立ち上がろうとすると、彼女はわたしの手を振り払って言った。


 たしかに酔ってはいるんだけど、その眼差しは力強く、なにより真剣さに溢れていた。


「わたしはね、フェルアと旅をしたら楽しそうだと思ったから一緒にいるんだよ?」

「でも、私はあなたに迷惑を――」

「わたしはフェルアのこと、迷惑だなんて思ったことはないよ? それに、フェルアは王都(ここ)に来るまでにおいしい料理を作ってくれたし、この国のことだって教えてくれた」

「シオン……」

「フェルアは全然迷惑じゃないよ。だから、これからもよろしくね?」

「シオン~!」

「ちょっ! ここだと危ないから抱きつかないで!」


 感極まった様子のフェルアがわたしに抱きついてくる。


 フェルアって意外とお酒に弱いの? それともお湯に浸かってアルコールが回ったとか?


 まあ、今日のところはわたしがフェルアのお姉さんになろうかな。


 綺麗な月夜の下、泣きじゃくる妹をなぐさめながら、わたしはそっと笑みを浮かべた。



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