3-12.放蕩貴族
小説のタイトル変えました。
ちょと離れたテーブルでウエイターと客が口論をしている。
「何だこの肉は? ソースと香草で誤魔化しているだけじゃないか。僕はこんな不味い料理を食べに来たんじゃない!」
口論というよりかはクレーム対応かな?
男性客がウエイターに対して一方的に不満をぶつけている。
ウエイターの方は経験の浅い若手だからか、次々に飛び出してくる料理の批判に平謝りするばかりだ。
どこに行っても迷惑な客っているもんだね。
おっ、このカナッペおいしい!
スモークサーモンの塩っ気とパンのほんのりとした甘み、クリームチーズのまろやかさが絶妙に互いを引き立たせている。
これは他の料理にも期待が持てるね。
「料理長のアンドレです。お出しした料理に不都合がございましたか?」
ここで料理長が登場か。
「不都合も何も問題しかない! 肉の焼き加減、下味の付け方、どれをとっても最低だ!」
「申し訳ございませんでした。当店のシェフ達も日々精進しておりますが至らない点があったようです」
おお、料理長スゲー。
普通、出した料理がストレートに不味いとか言われて、それでも謝れる人はそうそういないよ。
クレーム対応としては満点でしょ。
「おい、コイツを始末しろ」
「なっ!?」
「モルガン公爵家の私にこんな物を出したんだ。その命で償え」
後ろで控えていた2人の騎士の一方が剣を抜き放つと、そのまま料理長に斬りかかり――
「――さすがにそれはおかしいでしょ?」
料理長の首を刎ねようとした剣をギリギリの所でわたしが張った障壁が防ぐ。
いや、マジでビビった。
とっさのことだったし、後ちょっと魔法の発動が遅かったら危なかった。
てか、料理が不味かったことくらいで処刑とかどんな暴君だよ!
ウエイターの人と「なっ!?」がハモっちゃったよ!
「平民風情が貴族の振る舞いに口出しするのか?」
「いやいや、平民貴族以前の問題でしょ。それに、こんな所で死体を見せられた方がよっぽど料理が不味くなる」
「――殺れ」
今度はわたしかよ。
料理長に斬りかかった騎士がターゲットを変更して斬りかかってくる。
――弱い
騎士が振り下ろしてくる剣を彼の手首を掴んで止めて、突っ込んできた勢いを利用して後ろに投げ飛ばす。
「がはっ!」
ちょっと勢いをつけすぎた。
なんか騎士の腕が曲がっちゃいけない方向に曲がってて、白目を剥きながら口から泡を吹いてる。おまけにレストランの壁にめり込んでるし。
まあ、手を出してきたのは向こうなんだし、自業自得ってやつだよね。
「どいつも使えないやつばかりだ」
「いちいち文句言うんなら全部自分でやれば良いんじゃない?」
「そんな雑事をなぜ僕がやらなければならない?」
あー、めんどくさいな。
こういう青二才は自己中だから話が通じないし、一般常識が欠落してて自分がルールみたいなとこあるからな。
「つーか、いつまで高みの見物決め込んでるの?」
足元に落ちているを魔法で手元に引き寄せて、さっきから斜め後ろのテーブルで寛いでるヤツに投擲する。
「危ないじゃないですか、こんな物騒な物を投げるなんて」
「よく言うよ。余裕でキャッチしてるくせに」
席を立ってこちらに歩いてくるのは、爽やかな笑顔を浮かべた優男。
オルゲディア王国第1騎士団の団長を務めるグレンだ。
糸目でいっつもニコニコしていて、いかにも人当たりの良さそうな好青年って感じだけど、コイツの本性を知ってるわたしとしては胡散臭い顔にしか見えない。
たぶん、わたしとわがまま坊ちゃんの対峙を楽しんでたんだと思う。
「もうそろそろで注文したメインが届きそうだったのですが……」
「本来ならこういう揉め事の対処はそっちの仕事でしょ? それとも職務怠慢を上に報告した方がいい?」
そこまで言うとグレンは渋々といった感じでお坊ちゃまと顔を合わせる。
「魔物狩りの第1騎士団が巡警のまねごとか? 治安維持は第2騎士団の役目だろ?」
「ですよねー。私もせっかくの小休止ですので、ゆっくりとディナーをいただきたかったです」
嘘つけ。お前は現在進行形で職務遂のまっただ中にいるだろ!
現にわたしたちが冒険者ギルドを出たときぐらいから後をつけてたし!
「ですが、流石に刃傷沙汰を見逃すわけにはいきませんよ」
「お前も僕の意見に口出しするのか?」
「そうなりますかね?」
「ふん、料理とも呼べないようなものを食わされたんだ。責任者を処断して何が悪い?」
「おや? 今日の料理はどれも素晴らしかったと私たちは思いましたけどね?」
そう言って辺りを見渡すグレン。
そこにはこちらに鋭い視線を向けるレストランの客たち。
こんな騒ぎを起こされたんじゃ、せっかくのディナーが台無しだよね。
「チッ、行くぞ」
いくら公爵家のお坊ちゃんといえどもこの場にいるすべての貴族・要人を敵に回すのはまずいと理解できたようだ。
こちらを一睨みすると足音高くレストランを出て行った。
はあ、これだから貴族と関わるのは嫌いなんだよ。




