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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第三章 ~燦たる英雄のアンビバレンス~
72/96

3-9.5 幕間:『憩う者、愁う者、歓ぶ者』

※会議の後の3人についてです。

※一部は第三者視点(下手でスミマセン)



「お待たせいたしました! ご注文の『期間限定スペシャルパフェ~贅沢な季節のフルーツと伴に~』です!」

「わあぁ……すっごいおいしそう!」

「それでは、ごゆっくりどうぞ!」


 フリフリのメイド服みたいな制服を着たギルド職員のお姉さんが持ってきてくれたのは、陶器の平皿に盛られた特大サイズのパフェ。


 ベースは半休状のイチゴ、マンゴー、バニラの三種のアイスで、そこにウエハース、板チョコ、生クリーム、ブドウ、カットメロン、ベリー系などの各種フルーツがトッピングされている。


 ああ、スマホがないことが悔やまれる。写真に撮って待ち受けとかにしたらオシャレだったのにな。


「シオン、お前さん本当にそれを食べるのか?」

「ちょっとそれは多過ぎなんじゃないの?」

「え? 全然余裕だよ。ほかにもアイスのバリエーションが変えられるらしいから、王都にいる間に全種類制覇したいな」


 フェルアたちの「マジかコイツ……」みたいな視線はスルーして、目の前のパフェに集中するとしよう。


 まずはイチゴのアイスを一口。


 舌の上に広がる冷たさと甘さ強めなイチゴの風味。滑らかなアイスが口の中で溶けるとともに、現れたピューレ状のイチゴが仄かな酸味を運んでくる。このアクセントが絶妙だ。


 お次はフルーツを食べてみよう。


 ブドウもメロンも完熟していて、一噛みするごとに果汁があるれ出てくる。甘いと言ってもアイスとは別ベクトルの甘さだから、味に飽きることもない。


 チョコレートはビター系で口の中をリフレッシュさせてくれるし、ウエハースはサクサクした食感がクセになる。


 幸せだ~。まさか異世界に来てこんなレベルの高いスイーツを食べることができるなんて思わなかったよ。


 銅貨5枚とかなり高いけど、フルーツの鮮度もバツグンだしどうも砂糖を使っているみたいだから、この値段に見合った価値はあるね。


 ちなみに、わたしがパフェを堪能している隣では、フェルアが一口サイズのスコーンとともにアフタヌーンティーを楽しんでいる。


 ソーサーを片手で支えながらカップを傾ける動作やスコーンを口に運ぶ仕草は、何ていうか深窓の令嬢って言葉が似合うほど優雅だ。くっ、これが女子力の差か!


 ああ、ヴァーノルドの方はわたしの目の前で豪快に骨付き肉を齧り付いてます。この人にはわたしの足元でサイコロステーキを綺麗に食べてるシリウスを見習って欲しいと思う。


「ところでシオン。あなた、ザラさんと何を話していたの?」


 わたしがパフェを半分くらい攻略したくらいでフェルアが話しかけてきた。


「まあ、オリハルコン級冒険者になるにあたっての心構えみたいな?」

「心構え?」

「ムグムグ……。ザラの婆さんは規律だの礼儀だのに厳しいからのう。一度酒飲んでギルドの会議に出たんじゃが、その後で2時間くらい怒られたわい」


 それはヴァーノルドが悪い。


 でも、何とかこれで切り抜けられた。流石に公の場で終焉級の話はできないからね。


「それはそうとフェルア」

「何かしら?」

「パフェ食べるの手伝ってくれない? 生クリームが思ったよりクドい」

「シオン……。子どもじゃないんだから量を考えて注文しなさい。衝動に任せて食べてると太るわよ?」

「うぐっ」


 流石フェルア。これが女子力の差が……。






◆◆◆






 シオンが退室した後のギルド長室。


 そこではザラが役員机に机に両肘を突いて物思いに耽っていた。


「失礼します、お茶をお持ちしました」

「有り難うございます、マリン」


 険しい顔つきをしていたザラだったが悩み事は一旦脇に置き、マリンの淹れた珈琲に口を付ける。


「何かあったんですか、ギルド長?」

「いいえ、何も問題はありません。そう、これは老婆心のようなものです」


 マリンの声掛けに対し、ザラは何事もないかのように返答するが、しばらくすると元の険しい顔つきに戻ってしまった。


「それにしてもシオンさんは凄いですね! あんなに若いのにオリハルコン級だなんて」


 普段と異なるザラの雰囲気を察し、なんとか明るい話題へと持って行こうと考えたマリンは、先程まで上司と面会していた一人の少女を引き合いに出した。


「オリハルコン級の冒険者はリュウさんの他だと『撃滅』のゴウさんだったり『魔導士』のデュークさんがいますよね。それにギルド長も、元はオリハルコン級の冒険者でしたよね」

「ふふっ、私が冒険者として活動していたのは大昔のことですよ。今はただの老いぼれです」

「そんなこと無いですよ。だって週に一度は魔法学校の講師を務めていらっしゃるじゃないですか。生徒からは『宮廷魔法士のおじちゃんよりも分かりやすい』なんて言われてますよ」


 自分を慕ってくれる子どもたちの顔が思い浮かび、ザラも思わず綻ぶ。だが、やはり直ぐに何かを考えるかのように眉根を寄せてしまう。


「ギルド長が考えているのはシオンさんについてですか?」

「ええ、そうです」


 ザラは椅子から立ち上がると窓際から大通りを眺める。


 そこを行く人々の顔は生き生きとしていて、何より活気に満ちあふれている。


「私は事務方なのでよく分からないのですが、シオンさんはどの位の強さなのですか?」

「一言で言えば『規格外』でしょか?」

「規格外、ですか? 確かにオリハルコン級はアダマンタイト級や他のランクの冒険者とは一線を画しますが……」

「そうではありません。シオンさんの強さはオリハルコン級の中でも規格外という意味です」


 ザラの言ったことの意味が分からず、マリンは首をかしげる。


「貴女は私の目のことは知っていましたよね?」

「はい。ギルド長の『竜眼』は相手の強さを見ることができると」

「正確にはマナを見ることができるのですが、強さを見ると言い換えてもいいでしょう。シオンさんは私の眼を以てしてもマナの底を見ることができませんでした。純粋な魔法使いであるデュークでさえマナの総量は確認できました。しかに、底が見えないなどということは初めてです」


 ザラのシオンに対する評価に、マリンは思わず目を見張る。


「シオンさんの実力がギルド長でも測れないほどなら何を悩んでいるんですか?」

「そうですね。私も彼女が魔物に負ける、などと言うことはないと考えています」

「それならなおさらシオンさんを心配する理由は無いような気がするのですが?」

「難しく言い過ぎましたね。私が心配していることは、シオンさんが魔王にならないかということです」

「何を言ってるんですか。シオンさんは人族ですよ」


 ザラの的を外したような心配に、マリンはもっともらしい回答をする。


 再び窓の外を見つめるザラ。


「魔王の定義は曖昧です。例えば、『吸血鬼の祖(オーバーロード)』は存在が確認されてから数多の人間を殺しました。しかし、『竜王』や『百魔の集塊(ぬえ)』は自身を討伐しようとした冒険者を殺めさえしますが、自ら人類に危害を加えることはありません」

「つまり、どういう意味ですか?」

「強い力を持つ者は勇者にも魔王にもなれるということです」


 眼下の大通りでは屈託のない笑顔を浮かべる子どもたちが駆けていく。


 ザラは先程のシオンとの面会を思い出す。


『もし、終焉級の魔物が出現したとき、ギルドの招集に貴女は応じますか?』

『実際にその時になってみないと分からないよね。わたしは負け戦はしないタイプだから』

『では、招集には応じないと?』

『そこまでは言わないよ? まあ、その終焉級がわたしに向かってきて、勝てるくらいの強さだったら倒すかな』


「(シオンさんは否定しましたが、恐らく彼女は終焉級と渡り合える力があるでしょう。そして、魔王達と戦うだけの力は確実に持っている。しかし、それを希望と捉えるか、若しくは脅威と捉えるか、それは彼女を見る人間によって変わるのです)」


 その後もザラは考えを巡らせたが芳しい答えは得られなかった。


 いつしか日は傾き、王都の空を美しい夕焼けが覆っていた。






◆◆◆






「おう! 今帰ったで!」


 王都の一角。


 そのクランハウスは貴族の邸宅にも引けをとらないほどの大きさを誇っていた。


――クラン『烈火の赤竜(レッドドラゴン)


 王都オルベスに拠点を置くクランであり、その名声はオルゲディア王国に留まらず、周辺国にまで知れ渡る程の有数のクランだ。


「「「お疲れ様です! マスター!!!」」」


 クランハウスの玄関前には烈火の赤竜のクランメンバー達が整列し、1人の男の帰還を讃える。


 ここに並ぶ十数人のメンバーは最低でもミスリル級の猛者達であり、その実力は彼らの纏う覇気を見れば明らかだろう。


「あ~、ただいま。ほな、みんな解散してええで?」

「「「失礼します!!!」」」


 マスターと呼ばれた男はメンバー達の歓迎に対して少し気怠げに返事をする。


「はあ~、エレーヌ」

「はい! 何でしょうか、マスター!」

「あんな? 俺が帰る度にいちいち挨拶せんでもええんやで?」

「いいえ! これは我がクランの団員として当たり前のことであります。我々上に立つ者がマスターを敬わねば下の者たちに示しが付きません」

「ザラのばっちゃんみたいなこと言わんでええねん。暑苦しいのはクラン名だけで十分や」


 他の団員達が解散する中、最後まで残っていたエルフの女に男が出迎えの挨拶は不要だと告げる。だが、女――エレーヌは男の言葉に対し、規律を守るためだと反論するだけで聞く耳を持たない。


 男は説得を諦めて自分の部屋に戻ろうと長い廊下を歩き始める。


「それはそうと、今日のマスターはとても嬉しそうですね。何かあったのですか?」


 後に続くエレーヌが男の顔が普段よりも綻んでいることに気が付く。


「そんなニヤついとったか?」

「はい。普段よりも口角が5°ほど上がっておりました」

「そんなん誤差やん」

「それともう一つ――普段よりもマナが昂っていました」

「ハハッ……そうか。マナが昂ぶっとったか……」


 軽口を叩いていた男だったが、エレーヌの指摘を聞いた途端、その場で立ち止まると笑い出した。


「マスター?」

「スマンスマン。久々に強いヤツに会うてはしゃいどったわ」

「その方は強かったですか?」

「ああ、強かった。えらい強いヤツやった」

「それはそれは。マスターの良い出会い、お喜び申し上げます」

「ありがとうな。ほんま、自分と戦える日が楽しみやで――()()()!」


 クラン『烈火の赤竜(レッドドラゴン)』のマスターにして『無双』の二つ名で呼ばれる男――リュウは目の前の勝負を想い、静かに闘志を漲らせた。



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