3-8.冒険者ギルドの真実
眠い。
ギルド長室を退室しようとしたらザラさんに呼び止められた。
わたしに話があるって言ってるけど、何のことだろう?
「私たちも残ろうか?」
「すぐに終わるだろうから2人は先に行ってていいよ。今からだとお店を探すのは難しそうだから、お昼はギルドの食堂でいい?」
「分かった。席を取って待っているわ」
「早う来んとワシらだけで食べ始めるからな?」
二人に待っていなくてもいいと言って見送り、話を聞くためにもう一度席に着く。
「マリン、あなたも退出していいですよ」
「では、失礼します」
マリンさんも退室して部屋がわたしたちだけになったところで、ザラさんが不意に指を鳴らした。
すると、窓のカーテンが独りでに閉まり、ドアの鍵もロックされる。
いつもなら、「さっすがファンタジー! 魔法って便利!」なんてお気楽な感想を持つんだけど、今回ばかりはふざけていい場面でない。それくらいの分別は持っている。
ザラさんがわたしを呼び止めたときの目。
これはマジな話をするんだろうな、と思ったから二人を先に食堂へ向かわせたけど、はてさてどんなことが話題に上がるのかな?
「で、ザラさん。話って何? わたしはここに来る前に見た『期間限定スペシャルパフェ~贅沢な季節のフルーツと伴に~』がスゴい気になってるんだけど?」
まずは軽いジョブ。
余計なことを考えずにさっさと要件を話せという意思表示。
……まあ、パフェが食べたいのは本当なんだけど。
すると、神妙な面持ちのザラさんはゆっくりと口を開き始めた。
「シオンさん、貴女は冒険者ギルドどの様な目的を持って活動しているのかご存じですか?」
冒険者ギルドの目的?
ギルドの正式名称ってたしか『討伐者支援組合』だったっけ?
「一般市民を魔物の襲撃から守るためじゃないの?」
「そうです。魔物やその他一般市民を害する存在から一般市民を守る――それが冒険者ギルドの表向きの活動です」
「表向き? ってことは裏の活動もあるの?」
「はい。寧ろ、裏の活動こそが冒険者ギルドの本当の活動です」
冒険者ギルドの本当の活動……。
「冒険者ギルドが所属する者に対して様々な優遇措置を執っていることはご存じですか?」
「各ギルドに併設している宿が安く泊まれたり、提携している店で割引が受けられるよね」
「その他にも、ギルドカードは身分証明として代用することもできますし、高ランク冒険者が依頼中に負った怪我の治療費の一部を負担することもあります」
改めて聞くと、冒険者ギルドって福利厚生が充実してるね。現代のブラック企業に爪の垢でも煎じて飲ませたいよ。
ちなみに、わたしもギルドのサービスにはお世話になったことはある。
ギルドの宿は相部屋が普通だから利用したことはないけど、提携してる店は武器屋だったり保存食を売ってる店とかいろいろあるから便利なんだよね。
だけど、そのことと今の話に何の繋がりがあるんだろう?
「可笑しいと感じたことはありませんか? 何故、ギルドは冒険者に対して手厚い補助をするのか。何故、ギルドが世界各地に存在しているのか。そして、何故、冒険者ギルドが存在しているのか」
考えたことなかったよ……。
だって魔物がいる世界なんだし、ゲームとかでも当たり前に存在してるもんね。
「その感じは考えたことがなかったのですね……」
「あはは……。わたし、最近ギルドに入ったばっかりだから」
「そうでしたね。貴女は冒険者になって1年にもなっていませんでしたね。」
考えなしでごめんなさい。
わたしの反応に呆れた様子のザラさんだったが、居住まいを正すと本題に戻った。
「まず、『冒険者に対して手厚い補助をする理由』は、冒険者の育成と優れた人材の発掘が目的です。安定して魔物と戦うことのできる環境を整えると共に、昇格による名誉や優遇措置という魅力を与えることで高い戦闘力を持った冒険者を集めています」
理由は意外とそのまんまだった。
だけど、最後の「高い戦闘力を持った冒険者を集める」って言葉は不穏な気配がする。どこかとの戦争にでも備えてるのかな?
「次に、『ギルドが世界各地に存在している理由』は、魔物の動向を探ることです。スタンピードや強大な力を持つ魔物の出現をいち早く特定し、それらを討伐するためです」
うん、普通だ。
「ここまでの話からすると、普通に魔物の脅威から一般人を守る組織だと思うんだけど?」
「そうですね。確かに、裏の目的も魔物の脅威を防ぐ点では同じです。ですが、守るのは一般人ではありません」
守る対照が一般人じゃないってどういうこと?
王様とか貴族とかは個人で戦力持ってそうだから違うもんね?
「これら全ては三つ目の『冒険者ギルドの存在している理由』が関係しています。これから話すことはオリハルコン級冒険者と一部のギルド職員、各種族の王に口伝として伝わっているだけです」
それってすっごい少ないんじゃない?
なんか怖くなってきたな。こんな機密情報、二十歳にもなってない小娘に話しちゃっていいの?
「『冒険者ギルドが存在する理由』、それは世界の守護です」
おおっと! いきなり「世界の守護」とか言われたぞ!
スケールでかすぎてよく分からないんですけど?
「これは冒険者ギルドの設立時にまで話は遡ります」
「話の腰を折るようだけど、それっていつのこと?」
「5000年ほど前のことと伝わっています」
5000年……地球だと紀元前じゃん。だいたい紀元前3000年前くらい?
ちょうどその頃って何かあったっけ? う~ん……あっ、慢心王が生きてたときに近いじゃん!
「話を戻しますが、よろしいですか?」
「あっ、どうぞ続けて下さい」
「5000年前、この地には1つの大国が存在しました。その大国は現代とは比べ物にならないほどの魔法技術を有しており、国力も相当なものでした」
古代文明、今よりも優れた技術――夢が広がるね! っとと、ダメだダメだ。集中力が切れかかってる。
真面目な話、真面目な話。
「そして、その大国は一夜にして消えました」
「消えた、って戦争にでも負けたの?」
「いいえ、違います。文字通り、地図帳から消えたのです」
地図から消えるとか核爆弾でも使ったのかな?
「その大国が存在していた場所は、現在の『開闢の樹海』の中心部――」
えっ? それってあの湖なんじゃないの?
「天が裂け、大地が割れ、人々は悉く死に絶えました――」
「それは魔物が原因と言われています――終焉級と呼ばれる、たった一体の魔物が原因だと」




