ある日、森の中…(3)
《悲報》転生先は剣と魔法のファンタジー世界だと思っていましたが、ハンティングアクションRPGに無理矢理魔法要素をぶっ込んだダークファンタジー寄りの世界戦でした。
……なんか、思ってたのと違う。
初エンカウントの相手はトラックのように巨大な体躯をした熊で、並の攻撃では傷一つ付けることができず、大木を薙ぎ倒すことのできる魔法すら使ってくる。
わたしが生き残っているのは転生特典らしきバ火力の魔法があったからで、一歩間違えれば簡単に命を失いかねない。
かといって、現代の品物を作って産業革命を起こすだけの知識を持っている訳でもない。
結局のところ、当初の目的通り冒険者的な職に就くしかないか。
死ぬのも怪我をして痛い思いを味わうのもゴメンだけど、生きるためにはしょうがない。
それに、モンスターと戦うことの厳しさを知った今でも、冒険者になることに憧れてはいる。
命を賭けたやり取りを少し楽しいと思うなんて、ゲームの感覚が抜けていないのかな?
まあ、折角いただいた二度目の人生だ。
悔いなく、楽しく、全力で満喫しよう!
……それにしてもコレ、どうしよう?
図らずもきれいな状態で横たわる熊。
まあ惨殺死体とも言えなくはないが(首が無いし……)、これをそのまま放置するのはもったいなく感じてしまう。
町に行けばお金は必要だ。
色々試してみたけど、魔法で作ることが出来るのは無機物だけだった。
塩はギリギリOK(?)なのか作れたけれど、果物や肉などの食材も、おにぎりやマヨネーズなどの完成品も作れなかった。
つまり食べ物は買う必要があり、そのためにはお金を手に入れる必要がある。
そこで出てくるのがこの熊だ。
炎が効かないわ足がめっちゃ速いわで、若干トラウマになるレベルの怖さだったよ。いや、トラウマになった。
こんなのが普通の魔物な訳ないし、普通と思いたくもない。
つまるところ、コイツを売ればかなりの値段で換金できると考えられる。
よくあるじゃん、ゲームで武器の素材にモンスターの素材を使うやつ。
毛皮なんて防御力が高かったから、加工すればいい防具になりそうだし、骨とかも下手したら鉄とかなんてものともしない強度がありそう。
それに熊肉を食べてみたいしね。
ジビエ肉って食べたこと無いんだよね~、どんな味するんだろ?
お腹が空いてきたので少しここで食べるつもりだけど、美味しかったらなおのこと捨てるのは惜しい。
今も血がドバドバ出てるから血抜きは大丈夫。
でも、町に持っていく為の手段が……収納魔法とかどうだろう?
あの空間の裂け目ができて亜空間にものをしまうヤツ。
ダメだ、全然イメージが浮かばないから魔法が発動しない。
亜空間ってどいう原理?
ていうかそもそも亜空間って何よ?
……ん?
別に収納魔法じゃなくてよくない?
マジック・バック的なの作ればいいじゃん!
色々やること数分。
……出来ちゃいました。
それはもうあっさりと。
なぜ収納魔法が使えないのか謎なくらい、簡単に魔法で作ることができた。
それに加えて重量軽減なんてものまでできた。
ただし、色々便利な時間停止機能は無理そうだった。
最初に収納魔法をイメージしたときも亜空間のイメージが出来なかったし、魔法を使うにはイメージが重要なファクターになっているんだと思う。
録画した映像を一時停止する感じでやってみたけど、試しに入れた氷は少しして取り出すと溶け始めていた。何が違うんだろう?
まあ、時間なんて人間が支配するのはおこがましいものだし、できなくてよかったと思ってるぐらいだ。
ちなみに、ゴーレムも作れる。
ただし、こちらもわたしの命令に黙々と従うような意思の無い存在で、この事から命や魂に関することも魔法でできそうにない。
その逆、命や魂を犠牲に魔法を、っていうのは出来そうな気がするけどやりたくない。
そんな危ないネクロマンサーにはなりたくないのだ。
ともかく、熊の持ち運びは出来るようになった。
次は解体だ。
いつかは通る道なので、早い段階で慣れておきたい。
解体の仕方はまずは首から腹にかけて正中線を裂くんだっけ?
手首・足首を切り落として、さっきの腹の切ったところに向けて裂いて、最後に皮と肉の間の皮下脂肪の所を剥いでいく、みたいな感じ?
あと、熊の内臓は肝とかが薬になるんだっけ?
あれ、心臓だっけ?
とにかく、内臓も傷つけないようにして背中のあたりの余った肉を少し焼いて食べてみよう。
方針は固まった。
わたしは右手にナイフ作り出す。
「これはテディベア、これはテディベア……。大丈夫だ、わたしならやれる……!」
いざ行動に移すとなると現代人の忌避感から足がすくむ。
これはテディベアだから大丈夫だと言い聞かせるように口に出して自己暗示をし、ゆっくりと熊に近づき……
──自主規制中 大自然の景色と爽やかなBGMを脳内に流してお待ちください──
◇
グロかった。
それはもうグロかった。
最後の方は無心になって解体作業をしていた。
最初のあたりはしばらくの間血抜きをしたからか血はあまり出ず、スーパーのパッケージされた肉みたいな感じだった。
でも内臓がヤバい。
明言は避けるけど生々しかったとだけ言っておこう。
全体で40分ぐらい掛かっちゃったけど、素人にしては上手く出来たと思う。
最初にナイフを当てたときは肉は割けたのに皮が切り裂けなくて、何度か試す内に刃が欠けた。
唖然としたね、どんだけ毛皮硬いんだよ……。
もう解体辞めようと思った。
2本目のナイフはミスリルにしようかな、とか思ったけどイメージができないから創造自体不可能だったから、よく切れそうなダイアモンドで作ってみた。
結果、力を入れた瞬間折れた。
ダイア弱ッ!?
その後も何本ものナイフを欠かしたり曲げたりした。
ここまできたらなんとしても切りたくなってくる。
字面だけみれば危ない思考だね。
材料は炭素と鉄。
配合比はイメージによる創造だから完璧なので、炭素の含有率0.数%程のものを作っては折れ作っては折れての繰り返し。
刃の部分を限り無く鋭くしてみたり、ぼんやりとした刀の知識を入れて作ってみたりと奮闘することも20分。
魔法でやればいいと気づいた。
漫画でよくある、魔力を剣に纏わせる感じ。
結果、やってみたら抵抗なく切れた。
あれ?
不思議に思って水魔法でウォーターカッターみたいなのを強めに放ってみたら、熊の手首皮を簡単に切り裂けた。
毛を数本抜いてちょっと力を込めて火魔法を使ったら、こちらも紙のように燃える。
えっ?
もしかして簡単に倒せた?
延焼に気を使いすぎて火力が足りなかっただけ?
……恥ずかしッ!
激闘の末に倒したと思ってた敵が、実際は簡単に倒せたなんて……。
テレビに流れていた猫が必死にぬいぐるみを威嚇している映像が頭をよぎる。
わたしにとっては本当にテディベアじゃん!
このあとは恥ずかしい気持ちを忘れるために無心で解体に打ち込んだ。
ある程度解体して、元熊さんを暫定「マジック・バック」に収納する。
心臓の近くに魔石(?)の様なものがあったのはテンション上がったね。
収納するときにはバッグの口以上のものも入るという謎仕様も搭載済みだ。
氷魔法で氷を作って一緒に入れたので長持ちするだろう。
肉汁が染み出る前に人里に着けるといいな。
できることなら、モンスターの跋扈する森の中で野宿なんて経験はしたくない。
解体で血塗れになった身体を水魔法で洗う。
幸いにも臭いは直ぐに落とすことが出来た。
服は汚れたので火魔法で廃棄して新しい服に着替える。
ふう、さっぱりした。
それじゃあ、出発する前に肉を食べよう。
フライパンを準備してその上に肉を乗せる。
あとは魔法で火を出して調理……の前にこの状況をどうにかしよう。
「「「グルルルゥゥゥ……」」」
熊の次は狼ですか。
狼A「おい、肉があるぞ!」
狼B「いや、人間もいるが?」
狼A「俺たちなら倒せるって」
愛「にっく、にっく~♪」




