3-5.闘技大会
また時間が空いてしまった……orz。
それもこれも最近始めたPCゲームのせいです(責任転嫁)。
馬車で絶賛開催されていたわたしの黒歴史発表会は王都のギルド本部が見えてきたところで閉会した。
でもって、肝心のギルドなんだけど――
「デカくない?」
「そりゃあ冒険者ギルドの本部を名乗るだけあるからのう。建物が大きくなるのは自然の摂理みたいなもんじゃ」
それにしたってマジにデカい。
辺りの建物は二階建てとか高くても三階建てなのに対して、冒険者ギルドは頭一つ抜けた四階建てだ。さらに横にも広く、レンガで作られたいくつもの棟が重なり合う姿はさながら明治時代の歴史的建造物みたいだ。どことは言わないけど。
「こんなダンジョンみたいにする必要ある? 絶対迷いそうなんだけど」
「無論、世間体を保つ意味もあるじゃろうが、半分は実用的な理由じゃ」
「実用的?」
「このギルド本部は謂わば巨大な資料庫じゃ。魔物の素材はもちろん、武器に薬品、薬草、鉱石といった現物の保管に加え、過去の依頼や魔物の分布なんかの記録も所蔵されておる」
うっわー、なんでそんなにRPGで最上級回復アイテム1000個とか作ってストレージに溜めておくみたいなことしてるの? 絶対使わなくて無駄になるパターンじゃん?
「依頼とか通常の業務はどうなっているのかしら?」
おっ、わたしもそこは気になってた。フェルア、ナイス質問。
主な役割が倉庫って、だったら冒険者はどうしてるって話になるもんね。
「そもそも王都周辺には滅多に魔物が出ないからのう。住民の依頼で荷物を隣街に届けたりする小遣い稼ぎの低ランクの依頼か、他のギルドでは処理できないアダマンタイト級やオリハルコン級向けの高難度依頼しか扱っておらん。あの辺りがそうじゃ」
これはホントに倉庫だね。
ヴァーノルドが指で示した部分はギルド本部の建物全体からしてみれば一割もない。俗に言う酒場スペースがこんなに狭いとは……ひょっとすると今までの街のギルドの方が大きいかもしれない。
わたしが驚愕している内にも馬車は正面入り口に乗り付けた。
「そいじゃ、馬車はいつものとこに付けておいてくれ」
「分かりました」
「そいじゃ、ワシはここのマスターとの面会を申請してくる。それまでシオンとフェルアの嬢ちゃんは待っといてくれ」
御者をしていたギルド職員が馬車を厩舎に向かわせたところで、ヴァーノルドは一足先にギルド本部へと入っていった。
それに続いてわたしたちもギルドへと足を踏み入れる。
レトロな雰囲気と言うべきか、とっても味わいのあるホール。
外観はレンガだったのに合わせてか屋内も大理石みたいな白い石材をベースとして作られていて、清潔感のある内装はどこかの優良企業の待合室みたい。あっ、クエストボードとか受付の配置はほとんど同じだ。
冒険者の方は低ランクの冒険者から高ランクの冒険者までが入り乱れているね。いろんな大きさのマナを持った人がいる。
今はオークションと祭りが開催される期間だからか中間層の銅や銀もいるけど、平時はヴァーノルドが言っていたように低ランクの冒険者が多いんだと思う。
それにしても、金からミスリルランクの若干強い冒険者が多めな気がする。全体的に冒険者の数も多いし、何かあるのかな?
「お前、シオンか?」
ギルド本部の様子を眺めていたら、渋い声で私の名前を呼ぶ声がした。
そちらの方を振り向くと、背が高くて筋骨隆々なんて言葉が似合うプロレスラーみたいな体型をした屈強な男が。オフだからか防具は着用していないけど、その背には細身のグレートソード携えている。
ええっと、確か名前は――
「アランだっけ? 久し振りだね」
「ああ、スタンピード以来だったな。にしても、フードの下はそのような顔をしていたのだな」
あっ、馬車に乗ったときにフードを下ろしてそのままだった。まあ、この後に新しいギルド証もらえるし、気にしなくていっか。
ちなみに、この男はリヴァレンで起きたスタンピード防衛でも最前線で戦っていたアダマンタイト級冒険者のアランだ。
彼とは話したことはないんだけどあの戦いで最上位の冒険者だったし、それにわたしの昇格を推薦してくれたってこともあって記憶に残っていたんだよね。戦技もかっこよかったし。
「顔も見たことないのに、わたしだってよくわかったね」
「恩人のことだからな、間違える訳がない。と言いたいところだが、お前は雰囲気が独特だからすぐに分かった」
「雰囲気が独特……強者の風格ってヤツだね!」
そっか~わたしもついにその領域にたどり着いちゃったか~。例えるならば「凄みがある!!」って言ったところかな?
「強者の風格……そうかもしれないな。ここにはギルド証の更新か?」
「うん、祭りとオークションに参加するために王都に来たからついでにね。それと、仲間のギルド登録」
「そうか。闘技大会には参加しないのか?」
「闘技大会?」
「知らないか? 年に一度、王都で開かれる大会だ。詳しいことはそこのポスターに書いてある」
これから用事があるらしいアランにお礼を言って別れ、ポスターを見るために掲示板に近づく。
なになに――
「『武術、魔法を駆使して己の実力を世に示せ! 最強の称号を手に入れるのは誰だ!? 第160回オルゲディア王国魔闘大会』――か」
参加資格は冒険者ギルドに加入していることで、参加費として銅貨一枚払えば誰でも手続きができるらしい。
そして、大きく目立つ文字で『優勝賞金は金貨100枚』と書かれている。
これは参加するしかないね!
学園パート、修行編、etc.……。数多くあるイベントの中でも特に盛り上がるのが闘技大会。物語には欠かせないと言っても過言じゃない。
「こんな大会があったんだね」
「アンガルの街にも年に一度、小規模ながら武術大会があったわよ。小さな街でも大抵は収穫祭と同時に剣術大会だったり弓術大会が開かれているわ。その中でも『オルゲディア王国魔闘大会』は他国から参加者が集まるほどの規模ね」
各地で開かれる大会が記念杯だとすると、この『オルゲディア王国魔闘大会』はインターハイみたいなものかな?
「それにしても、あなたは闘技大会を知らなかったの?」
「……実はわたし、最近まで山奥で師匠と二人暮らしをしていてさ。『見聞を広めてこい』って言われて街に出てきたばかりなんだよ」
「つまらない冗談なんて言わなくていいわよ。仮にその話が本当だとして、あなたの師匠が務まるのは魔王くらいよ」
渾身の過去エピソードを秒で両断された。言われてみれば、わたしが師事する人なんているかどうかも怪しいし、いたとしても絶対に人じゃなさそう。
でもな~、「わたしは転生者で、生前は地球って星で生きてたの」なんて本当のこといっても、突っ込みの切れ味が鋭いフェルアは「頭でも打った?」なんて言いそうだし。
「あなたが自分の生まれを話したがらないのは分かってる。そもそも、私はあなたが何者かなんて興味ないわ」
「ひどっ!? わたしの昔話とか聞きたくないの? 普通、こんなにもミステリアスな美少女が旅のパートナーだったら『あなたは一体……』とかならないの?」
「別に……(あなたの過去を聞いたら私のことも話さないと不公平じゃない)」
「うん? 何か言った?」
「何でもないわ。さあ、ノルドさんが呼びに来る前に私のギルド登録とあなたの大会参加手続きを済ませるわよ」
「あっ、待ってよ~フェルア」
掲示板を後に、スタスタと受け付けに向かっていったフェルアを追いかける。
その後ろ姿が少し淋しそうだと感じたのは、わたしの気のせいだったのだろうか?
シオン「フェルアは参加しない? 闘技大会」
フェルア「こんなのに参加したがるからノルドさんに『悪ガキ』って呼ばれるのよ?」
シオン「うっ……」




