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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第三章 ~燦たる英雄のアンビバレンス~
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3-3.それは空港の金属探知機に引っかかるようなもので



 王都オルベスに近づくにつれて都市の全容が見えて来た。


 正確な高さは分からないけど十メートルは優に超えていそうな巨大な壁が街並みをぐるりと取り囲み、白亜という表現がぴったりなそれは汚れひとつなく、それでいてどんな魔物をも通さない堅牢さと長い間王都を護り続けてきた歴史を感じる。


 そして、その向こうに見えるのは立派な王城。


 某夢の国のロゴマークのようながっしりとした城壁、樹木のごとく太陽を求めて大空に延びるシャープな尖塔。

 均整の取れたフォルムは、おとぎ話の舞台のひとつとして登場してもおかしくないような一種の芸術性、神秘性を内包しており、まさに大国を象徴する城に相応しい外観をしていた。


 ちょっとした丘の上に建てられているらしいそれは、美しく、それでいて荘厳な雰囲気を醸し出し、城下で生活を営む国民たちを見守っているかのようだ。


 目の前に広がるのは心踊る光景。

 だけど、ちょっと視線を前にもってくると現実が待っている。


 人、人、人。


 さらにはどこかの商団のものと見られる馬車の隊列&護衛の冒険者の集団……。

 王都に入るための人たちが同人即売会さながらの列をいくつも作っていた。同人即売会行ったことないけど。


 確かに一国の首都に入るくらいだから厳重な身分検査は重要だと思う。


 アンガルの街は商業都市だから、壁なんか作ってると逆にマイナスにしかならないけど、王都には王城ーーつまり、国のトップがいるわけだしね。そりゃ警備体制もしっかりするよね。


 例えばの話、他国のスパイなり工作員なりが侵入したとして、魔法があるこの世界だと地球なんかと比べ物にならないくらい危ないことが起こる。

 街が爆破されたり、王城が爆破されたり、国王が爆破されたりetc.……国王は爆発しないか。


 ひょっとすると王都を囲むこの壁だって何も魔物だけの侵入を阻むための物じゃなく、危険人物を王都という家の中に入れないための塀みたいな物なのかもしれない。


 初めのうちは「こんなに大きな壁を作ったら都市の開発がしにくくなるんじゃない?」とか思ってたけど、ちょっと考えてみれば発展を犠牲にする必要があるということは理解できる。他の国だと首都に入ることすらできないところもあるんじゃないのかな?


 だけど、これだけは言わせて欲しい。


 人、多過ぎ!


 ざっと百メートルはある長い列が四、五本あるんですけど!?


 幸いなのは一般人と商人と貴族の三つの列に分かれてチェックしているからある程度人数は分散できていること。

 最悪なのは分散されてなお一般人の列はヤバいくらい長いということ。


 それもそのハズ、門番の兵士が身分検査と手荷物検査をやった後、警棒みたいな形の魔法道具を使って何か調べている。たぶん危険物がないかを確認しているんだろうけど、厳重すぎる三重チェック体制だ。

 こんなちまちまやってたら時間がかかりすぎてしょうがない。


 今から並んだとすると、最低でも数時間くらいは待つこと必至……と思っていたのか!


 さあさあこのマジックバックから取り出しますは1枚の封筒。

 そう、アレです! 開闢の樹海で起きたスタンピードを収めた功績を讃えた書状の入っていたあの封筒です!


 本編初公開のこの中身なんだけど、国王からの感謝状に加えて王都の一流ホテルの宿泊券やら王城で開かれるパーティーの招待状なんかも同封されてたんだよね。


 そして今一番重要なのがハガキくらいのサイズをした1枚の紙。


 そうです、これこそが身分証明にかかる待ち時間をゼロにすることができる、まさに遊園地のファストパスのようなアイテム、国王発行の身分証明書兼通行許可証なのです!


 その名の通り、このオルゲディア王国国王が発行した身分証明書で、表には国王のサインと王家の押印がされていて、裏には王家のシンボルであるドラゴンがデザインされた特別仕様。これを見せれば国内にあるどの町の関所を素通りできるという優れものだ。ちなみにサインは筆記体だから読めない。


 物が物だけにホイホイ使うのは憚られるけど、わたしはさっきからお腹が空いているのだ。


 今の時刻は午後の二時ちょっと前。さっきからお腹が鳴りそうで、乙女としては生きるか死ぬかの瀬戸際にいる。


 もう、お昼ごはんの前には門番への配慮なんてどうだっていい。コネは利用するためにあるって誰かも言ってたし。まさか、国王もこの展開を見越していた!?(錯乱)


 フェルアの作ってくれる料理も美味しくていいんだけど、たまにはレストランでランチを食べたい。

 テラス席で豪華なランチ――字面がリア充っぽくていいよね!


「――という訳で、この通行許可証は貴族用の門で提示すれば、面倒い手続きを省略できるのです」

「……なんで説明口調なの?」

「ほら、どれだけこの通行許可証が素晴らしいかをフェルアにも知ってもらいたくて」


 ホント、他意なんてないんだよ?

 通行許可証の存在忘れてて危うく数時間棒立ちコースをたどりそうだったなんてことも全然ない。


 さて、何かに気付いていそうなフェルアからジト目を受けながら貴族用の門に歩いて行く訳だけど、当然詰めている門番や周囲にいる人は疑問、というか猜疑の視線を送ってくる。


 まあ、一般の貴族の皆さん(貴族である以上一般ではない)は護衛を引き連れた馬車で移動するのが普通だから、旅装束を着た二人組がこっちにやってくるなんてただ事じゃないよね。


「身分を証明できる物をお持ちでしょうか?」

「どうぞ」

「拝見いたします――ッ!!」


 案の定、門にある程度近づいたら門番をしていた兵士のうちの一人が駆け寄ってきて身分証の提示を求められた。


 多少警戒や猜疑の色は見て取れるけど丁寧な言葉遣いだったので、そこのところは上司の教育の賜物だと思う。もしくは封建政治の闇。貴族社会って怖い!


 それはともかく、わたしは持っていた通行許可証(国王のサイン入り)を素直に兵士へと渡した。……今更気付いたけど、通行許可証に国名書いてあったわ。


 彼は許可証をしばらく眺めていたけど、国王のサインの書かれている辺りで生唾を飲み込み、恐る恐る裏面へと目をやるとフルプレート越しからでも分かるくらい身体を強張らせた。


「確認いたしました。お通りいただいて結構です」

「ありがと」


 すっかり恐縮してしまった門番にお礼の言葉をかけて、敬礼(?)みたいなことをしてくる他の兵士たちの脇を通り過ぎる。


 合金か何かでできている重そうな戸が鈍い音を立てて開かれ、その向こうにある街並みが露わになった。


 ペールオレンジを基調とした明るい石畳が敷かれている幅の広い道。


 そこを行き交う人々はまさに人種のるつぼといった感じで、人族を始めとして虎人や熊人、鳥人みたいに色々な種類の獣人、エルフやドワーフ、人族の子どもみたいな容姿をしたレプラカーンとか、他の町だとあんまり見かけないような種族もいる。珍しいところだと人の姿に鳥類の翼を持った天使のような種族である天魔族なんてのもいた。


 それだけじゃない。八百屋や肉屋、ベーカリーなんかの食料品店、衣服や靴を売る衣料品店といった地球でもお馴染みの店に加え、広い王都での交通の足として人を乗せた大型の馬車が走り、空には水道橋みたいなものが架かっている。


 きっちりと区画整理のされた建物の群れは煉瓦と木材を合わせたヨーロッパ調で、セメントでできた壁やガラス窓みたいな現代技術によって生み出された無粋なものは無い。人の営みがじんわりと感じられる温かみのある街並みだ。


 そう、わたしの目の前には憧れのファンタジー世界の王都が広がっていた。


 いいね、この中世感が漂う雰囲気が何とも言えない。ラノベ愛読者としてはとっても心躍る光景だよ。

 あれ? 厳密には中世じゃなくて近世だっけ?


 まあ、そんな細かいことははどうでもいっか。さあ、いざ王都へ!


 わたしは門を通過するために足を踏み出しーー









「動くな!」

「両手を上げろ!」


 突然けたたましい警報音が鳴り響き、わたしたちは兵士たちに包囲された。


 街の方からも巡回していたらしい兵士が集まってきてるし王城の方からは騎士もやって来ていて、その数はあっという間に数十人規模になった。


 これから戦争でも始めるのかってくらいの予断を許さない空気が立ち込め、今もわたしたちを取り囲む人の数は増えている。


 こんな人数どっから湧いて来た?


 というか、どうしてこうなった?



シオン「どうしてこうなった」

フェルア「国王発行の通行許可証なんて使うからじゃないの?」

通行許可証「(解せぬ)」

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