2-27.『魔法消滅<ディスペル>』
最近は投稿の調子が良くて嬉しいです。でも、そろそろまたペースが落ちそうな気が……。
ボッチに日常パートを書くのは辛いんです。
「――って、フェルア血だらけじゃん!?」
転んだとか何かで引っ掻いたとか、そう言ったレベルの小さい傷じゃなくて、交通事故に遭ったり災害に巻き込まれて大怪我したみたいに出血してる。
いや、よく考えたらここに落ちてくる前に爆発があったんだっけ?
マナの高まりからするに、フェルアが何かしらの魔法を使ったのは分かる。
それは分かるんだけど、一体どんな魔法を使ったら対魔物用にかなりの強度を持たせて作られているはずの船の外壁を木っ端微塵に吹き飛ばせるのかがとても気になる。
まあ、わたしだってやろうと思えば簡単にできるんだけどね。
だけどそれは、わたしが普通じゃないからできるのであって、一般人には到底真似できない芸当だ。
……自分が普通じゃないことを認めるのは癪だけど。
それはともかく、マジックバック改めマジックポーチから特製の魔法薬を取り出して、フェルアの傷口に振りかける。
神秘的な輝きを放つ液体をにかかると同時に、痛々しい刺し傷はみるみる内に塞がっていく。
でも…なんて言うかね。うーん、やっぱしグロテスク……。
傷の塞がり方がエイリアンとかのそれなんだよね。
こう、ジューッと煙上げながら塞がるのが結構リアルで気持ち悪いんだよ。
イメージしやすい所だと……あれだ! 自由のために主人公が巨大化して人類の敵と戦う、某有名アニメの怪我の回復シーンとそっくりなんだよ。怖い物見たさで録画してたなー。
それにしても、気のせいなのか傷口の塞がる速度が遅い気がする。
「一応、一本行っとく?」
「いえ、そんなお酒勧めるみたいに言われても……あら? 魔法薬なのに意外と美味しいのね」
「でしょ! わたし特製の『美味しい! 安全! 効果バツグン、ハイパーポーション』だよ」
「……わざわざ『安全』を1番始めに持ってくるところに、そこはかとない不安を感じるのは、私の心が汚れているのかしら?」
失礼だなぁ。
そんな信用されないようなことを、いつわたしがしたって……よく考えたら、フェルアの前で採集する薬草間違えたり、刻印魔法の刻み間違いしたりとか、結構失敗してたわ。
と、フェルアの傷も完治した所で本題に移ろうか。
「それで? フェルアをこんなんにしてメアリちゃんを泣かせたのはアンタ?」
「ええ、そうね――」
青いドレスを着た女から返答を聞くと同時に床を蹴り、一瞬で肉薄すると、マジックポーチから取り出した魔鋼鉄の大剣を振り抜く。
でも、完全に決まったと思った攻撃は、突如として彼女の周囲に現われた薄い障壁に阻まれてしまった。
剣の腹で殴るように攻撃したけど、速度的に防御されるとは思わなかった。一定範囲内の攻撃を自動で防御する魔法道具か何かかな?
「ッ!! 『影荊』!」
攻撃を防がれて動きが止まったわたしを、床に落ちた影から飛び出してきた真っ黒な荊が襲いかかる。
それらはバックステップで回避するも、空中で進路を変えて向かってきた。
ホーミング系の魔法は数が増えると対処するのに厄介だから、大剣の一閃ですべて切り裂いておく。
今度は剣筋を立てた斬撃をドレス女に向けて放つ。
障壁と大剣とがせめぎ合い、薄暗い通路を火花が照らした。
堅っ! この障壁、全っ然割れる気配がないんですけど!?
続けて大剣を2、3回叩き付けてみるけれど、ヒビどころか傷一つ付かない。
その隙を突いてドレスの女が魔法を使う。
「『暗黒槍』!」
うっわ! こいつ、フェルアたちを狙いやがった!
大剣を両手持ちから右手に移し、空いた左手をフェルアたちの方に翳して防御のために魔法を発動させる。
「『絶凍障壁』」
フェルアたちの目の前に天色の障壁が静かに現われる。
一見すると華奢で簡単に破られてしまいそうな魔法だけれど、実際には禍災級の魔物である天帝夜叉の放った戦技、『薙雲』を防ぐほどの強度を持った魔法だ。
もちろん、これに込められているマナも相当なもので、傷つけようと思えばそれこそさっきフェルアの起こした爆発レベルの攻撃を喰らわさなければいけない。
そんな自慢の魔法はわたしの信頼を違うことなく、『暗黒槍』を悉く受け止めてくれた。
ちょっと前に恐嚇狼の事件があったからね。
あの時、もしも間に合わなかったらと考えて冷や汗を掻いたから、しっかりと遠距離に魔法を発動させることができるように練習しておいて良かったよ。
まさか、こんなにも早くその成果を見ることになるとは……。
「暗黒牢」
おっと、わたしの注意をフェルア達の方に向けて隙ができたところを攻撃か。
床から湧き上がった闇がわたしを飲み込もうとその顎門を開く。大きなトラバサミみたいな感じで、捕まれば胴体が千切れそうだ。
その歯がわたしを捉える前に空中へと退避。
「凍結槍」
滞空中で回避ができないと判断した女は、畳み掛けるように『凍結槍』を何本も放つ。
だけど、これぐらいのカウンターは想定済みだ。
わたしは両手に持った大剣を袈裟懸けの要領で振り抜き、『凍結槍』を弾き返した。
自身の魔法がこんな形で襲いかかって来るとは思わなかったのか目を見張る女。だが、弾き返された氷の礫の軌道を冷静に見極めると、避けきれないものを障壁で防ぎ、残りはステップを踏んで躱した。
着地したわたしも、一旦距離を取るために大きくバックステップ。
だってここの女、またフェルアたちを狙うかもしれないーーいや、絶対に狙うね。こういう性格が陰湿なヤツは、不意打ち、搦手、使える手段は何でも使ってくるから。
フェルアたちのいる辺りまで後退し、準備していた魔法を放つ。
「『霹靂神』」
青白い一筋の閃光が宙を駆ける。
だが、その進行は、またもドレス女の周囲に現れた障壁の前に阻まれてしまった。
この障壁、物理系攻撃だけじゃなくて魔法系攻撃まで防げるのか。結構マナを込めたんだけどな。
あ~っ! めんどくさい!!
正直、この障壁を破る方法なんていくらでもある。
でも、それは破ることができるだけで、後のことを考えると執れる手段は必然的に限られてくる。
例えば『霹靂神』も、今の倍くらいのマナを込めて撃てば、この障壁を簡単に破れる。
だけど、それをやったらこに女を殺しかねないし、仮に当たらなかったとしても、貫通した魔法が船を破壊すると思う。
まあ、すでに魔法の余波とかでここの廊下はぐちゃぐちゃになってるんだけどね。それでも流石に海の上で火の手が上がるような愚行を起こそうとは思わない。
それにこのドレス女、間違いなくリード商会の支部長と繋がってた正体不明の組織の組織の一員だろ。だって、こんなぶっ壊れ性能の魔法道具持ってるし。
今回の事件、わたしはかな~り頭にきてるんだよね。金のために横領やったり子どもを殺そうとしたり、税金と人の命を何だと思ってるんだって話だよ。
次、どっかで何かしらの騒動引き起こしてるの見かけたら、最優先でぶっ潰してやる!! こいつらはもう、わたしの中ではGと同列の存在です。
そういう理由もあって、できればこの女は捕まえておきたい。
騎士団には凶悪犯罪者専用に自白剤の魔法薬があるみたいだから、それを使って情報を吐き出させてやる。
作成のための素材が希少で値段が相当高いから、よっぽどのことがないと使わないっていってたけど、今回みたいな組織なら多分使うだろう。使わなかったとしてもわたしが自白剤買い取って使う。
戦いが一段落したところで女が口を開ける。
「ふふっ、どうやらあなたの攻撃ではこの障壁を壊せないみたいね」
ウ・ザ・い!
自信満々って感じのドヤ顔を決めるドレス女。マジでムカつく!!
落ち着け、平常心だ。むしろ、相手が油断している今なら口を滑らせるかもしれない。
「ホント、バカみたいに堅いよね、ソレ。一体何なの?」
「これはね、わたしの組織が最近開発に成功した最新型の魔法道具なの。効果は見ての通り、迷宮で発見される最上級のものと比べても引けを取らないわ」
そう言って胸に付けている黒いユリを模したブローチに手を触れる。
クッ、いちいち「ふふっ」とか「うふふふ」って笑うのが嫌らしい!
耐えろ、耐えるんだ。わたしの気持ちはひとまず置いておこう。
手に持っている大剣を目の前の床に突き刺す。
「あら? 気付かれちゃった?」
「気付くも何も、あれだけ殺気にまみれた攻撃、防いで下さいって言ってるようなモンじゃん」
床を貫いた大剣は発動間際の魔方陣を真っ二つに切り裂き、その効力を完全に打ち消してる。
ホント、嫌らしい。
こいつ、瀕死の相手が息絶えるまで目の前で喋って、散々呷るタイプのヤツだ。
しかし、これだけの魔法道具を作る技術力を持った組織か……。
あのブローチ一つ作るのに莫大な予算と時間が掛かるし、使うに当たっても何かしらの制約が付いてくるんだろうけど、ひょっとしたらこの組織、国を相手取れるくらいの力があるんじゃないの?
それにこの女、かなり戦い慣れしてる。
わたしが最初に斬りかかったときもラッシュをかけて障壁を破壊しようとしたときも、瞬時に魔法でカウンターをしかけてきた。これだけの反応速度を発揮できるようになるにはかなりの場数を踏まないといけないんじゃないかな?
場数、つまりは人を殺す経験。
幸いと言うべきか、はたまた生憎と言うべきか、わたしは今までに人を殺した経験はないし、そんな覚悟を持つつもりもサラサラ無い。だってわたし強いから、いざとなれば力のゴリ押しでどうとでもなりそうだし。
それでも後学のためにと以前、知り合った冒険者から盗賊の討伐依頼の話を聞いたことがある。
結果はものすごく後味が悪かったらしい。
盗賊から溢れるマナが肌を刺すような殺気となってまとわりついてきて、戦闘が終わった後もしばらくはその感覚が消えなかったそうだ。
聞いた当初はイメージが湧かなかったけど、今になってその気持ちがようやくわかった。
女から発せられているこの粘つくようなマナ。これが殺気だ。
ドロドロと澱んでいるようで、それでいてキンキンに冷えた冬の朝の空気みたいに肌を刺すマナ。
たぶん、このマナが女の使う闇魔法や氷魔法といった魔法系統に現れているんだと思う。
「いけないわ、おしゃべりに時間をかけ過ぎね」
「そう? もうちょっと喋ってもらっててもいいよ?」
「そうしたい気持ちは大いにあるんだけど、あんまり時間がないのよ。これだけの騒ぎを起こしたんだもの。さっさと姿を消さないと、また上から怒られちゃうもの」
なーにが「怒られちゃうもの♡」だ!
「安心しなよ。アンタは怒られない代わりに牢屋に行くことになるんだから」
「ふふっ、面白い冗談を言うじゃない?」
「冗談じゃないね。第一、アンタの攻撃だって届いてないじゃん? このまま戦いを続けても勝つのはわたしの方だと思うんだけど?」
「そんなこと――」
「その魔法道具、欠点があるんじゃない?」
「ッ!!」
もちろん、欠点なんて知らない。だってわたし、機械類全くダメだもん。これは単に嫌がらせをしたかっただけだ。
ただ、直感的にあの魔法道具に欠点があることは分かる。
さっきわたしが『凍結槍』を弾き返したとき、全部障壁で防ごうとせずに一部を避けた。
全部障壁で防いでもよかったのにそれをしなかったってことは回数制限があるのか障壁の展開時間に問題があるのか……。
「一撃……」
「なに?」
「次の一撃、アンタが使える最強の魔法を撃ちなよ。それで最後の攻撃にしようか」
いい機会だから新魔法の実験をしよう。これが成功すれば一番穏便に女を無効化することができる。
それにこういう駆け引き、一回やってみたかったんだよね!
「言ってくれるじゃないの。後悔しても知らないわよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返すよ」
「チッ……。ーー凍てつく夜空、眠る大地、忍び寄るのは昏い足音ーー」
詠唱か。
個人的には時間が掛かるだけで大した利益はないと感じるんだけど、本当は何か意味があるのかな?
小説とかだと消費するMP消費が減るとか魔法の制御が安定するみたいな効果があるんだけど、わたしにしてみれば詠唱してもしなくても変化がわかんないんだよね。
「ーー奪われるのは心の灯火ーー」
「シオン……」
「ん? どうしたの?」
後ろからフェルアが話し掛けてきた。
「ひょっとして、怖い?」
「いいえ、戦いに関しては、私は貴女を信頼しているわ」
おっ、わたしってば信頼されてる!
何気に一部分だけ強調されてた感じがするけど、それは気のせいだろう。気のせいだと思うことにしよう。
「ーー零れ落ちるは一掴みの願いーー」
「でもね、一つだけ忠告しておくわ」
「なに?」
「貴女、余裕があることはいいんだけど油断はしないでね? そうやっていつか痛い目を見ると思うの」
「……」
うん。わたしもそう思う。
実例があるだけ言い返せない。
「ーー諦め、振り向き、絶望を受け入れた時ーー」
「それはそうと、あの魔法、どうにかできるの?」
「うん、華麗に決めてくるよ!」
「危ないことはしちゃダメよ? メアリちゃんだっているんだから」
「……ハイ」
ヤバい。メアリちゃんの存在をすっかり忘れてた。
それに最後のフェルアの笑顔、目が笑ってなくてメッチャ怖かったんですけど!
流石にここからは真面目にやろう。
発動間近の魔法なんかよりもフェルアのお仕置きの方がよっぽど怖い。っと、もうそろそろ魔法が来そうだ。
わたしは床から大剣を引き抜く。
「――世界は今、氷の中に閉ざされる!―― 『氷結世界』」
ドレスの女を中心として魔法が発動する。
気温が一気に下がったのか、床も壁も瞬く間に凍り付き、温度差によって大量の白い靄が発生する。
そして、わたしたちに襲いかかってくるのは床から生えた氷柱の数々。
冷気の波と競うようにして迫るそれらは、さながら氷河が押し寄せてくるみたいに巨大で力強く、巻き込まれたらひとたまりもないだろう。
その威力は込められたマナの大きさからも伝わってくる。
でも、わたしたちには届かない。
「『魔法消滅』」
たった一言、魔法の発動キーを唱える。
氷柱の群れが目の前にかざした大剣に触れる。
それだけで、わたしたちを飲み込もうとしていた氷の津波は鈴のような破砕音を響かせてマナの欠片へと散って行く。
わたしの放った魔法はそれだけでは飽き足らず、次々に氷柱を割っていき、最後にはドレス女の障壁をも粉々に粉砕した。
ブローチが灰色に染まり、砕け散った破片が床に触れるときにはわたしは女の目の前にいた。
「自分のしたことを牢屋で反省しろっ!」
「――ガハッ……」
無防備な女の腹部に手加減をした回し蹴りを喰らわせる。
自身を守る障壁の無くなった女は簡単に吹き飛んでいき、壁に強く身体を打ち付けると、そのまま気絶した。
よっし、ミッションコンプリート!
後はフェルアたちと帰るだけ――
「わあっ」
「綺麗……」
フェルアとメアリちゃんのため息が聞こえ、わたしは振り向く。
その目に飛び込んできたのは、砕け散った氷の礫が微細な粒子となって宙に漂う幻想的な光景。
それはまるで、極寒の雪原の中を舞い踊る、ダイアモンドダストのようだった。
ドレス女は心が汚れているヤツだったけど、使った魔法だけは綺麗だったね。
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