2-23.『<暗闇の中で>』
祝、50話目の投稿!! そして先日、総合ポイントが150を超えました! とても嬉しいです。100超えたのには気付いて無かったです。
振り返れば、見切り発車をした拙作は、書き始めてもう四ヶ月になるんですよね。底辺をノロノロ進行し中ですが、一体、皆さんはどこで見つけて頂いているのでしょうか? 不思議な縁を感じます。
ともかく、次の目標は1000ポイントですね。単純計算で7倍の日数、約二年続ければ貯まることになります。50話/120日=大体3日に一回の投稿ペース(大嘘)ですから、あと490話の投稿です。連載、全540部分……。そんなに続きますかね?
「――『化け物』」
それが両親だと思っていた人たちから掛けられた最後の言葉だった。
「――『悪魔』」
それが親友だと思っていた彼女から掛けられた最後の言葉だった。
みんなが私を忌み嫌い、そして批難した。
私は何も悪いことをしていないのに。
ただ、郷を守ろうと頑張っただけなのに。
標的は一瞬で魔物から私へと変わった。
弓を射掛けられ、魔法を放たれ、剣を向けられる。その時にはもう、人間ではなくなっていた。
気が付けば、みんなは私を敵として認めていて、その立ち位置は化け物と何ら変わらない場所にあった。
彼らの瞳には怯えの色が見えた。
彼女らの顔には憎しみの色が見えた。
私は絶望した。
悟ってしまったのだ。
私たちはもう、和解できないのだと。
分かってしまったのだ。
私はもう、ここで生きていくことはできないのだと。
「――『化け物』」
「――『化け物』」
「――『化け物』」
「――『化け物』」
私を罵る声がこだまする。
私を蔑む声が響き渡る。
彼らはまるで親の敵のように、あるいは恋人を殺された復讐者の様な目で私を見た。
彼女らは自分たちの恨みの丈を言葉に込めて、思い切り私に吐き捨てた。
――私が一体何をしたのだろう?
――私はいつ、彼らを傷付けたのだろう?
――私はなんで生きているのだろう?
◇
久しぶりにあの夢を見てしまった。
私が小さかった頃の夢だ。
私が小さかった頃に起きた、悪夢のような現実の出来事。
少しずつ覚醒して行く意識の中で、ついさっきまで見ていた悪夢について思い返される。
ほろ苦いなんてモノじゃない。黒く、汚く、触れたくもないような過去の出来事。
分かっている。これは言わば、一生背負い続けなくてはならない、呪いのようなものだ。
耳を塞ぎ続けなければいけない。
口を閉じ続けなければならない。
決して瞳を開いてはいけない。
ここ――アンガルの町にあるセトリル教会にお世話になってからは一度も見たことはなかったのに。
やっぱり、あの出来事は忘れることはできないのかもしれない。とっくの昔に決別したと思っていた過去は不意に足首を掴んできた。
忘れることは赦さないとばかりに。助かることは認めないとばかりに。場所が変われば問題ないという考えは、所詮は幻想に過ぎいのかもしれない。
それでも、養護施設での生活は楽しかった。元気一杯な子供たちの世話は大変だけれど、一日一日が充実している。本来なら、私が送ることなど叶わない、とても輝かしい毎日。
億劫に感じるときもあるけど、これは必要なことだ。私が人間として生きていくには必要なこと。私を認めてくれる人なんて、世界中どこを探してもいないだろうから。
いいえ、もしかすると一人だけ、私を認めてくれる人がいるかもしれない。最近出会った不思議な女の子。彼女なら――
その時、ふと自分の首元に違和感を感じた。
これは……首輪?
そこまで理解すると、起き抜けで靄の掛かっていたような頭が急に働き出した。
飛び起きて辺りを見渡すと、首輪についている鎖が擦れ合い、ジャラジャラという音を奏でる。その片方は壁にある手摺りのようなものに繋がれていた。
確か私は、メアリちゃんと一緒に教会の裏にある森にいたはず――
「そうだ。メアリちゃんは――」
暗い室内を見渡すと、私の隣にメアリちゃんはいた。
彼女にも首輪が付けられているけれど、身体に目立った怪我はない。私と同じく眠らされていただけのようね。
そう、眠らされた。
意識が途切れる寸前に感じた頭を揺さぶられるような感覚。あれは闇魔法の一種だと思う。闇魔法には精神に左右する系統の魔法が多くある。
それでも、今回みたいに綺麗に意識を刈り取るには、私たちの不意をつくだけじゃなく、術者の方にもかなりの技術が要求される。あくまで予想だけど、私たちを眠らせた魔法使いは上級魔法を軽々と扱えるだけの実力はあると思う。
誰が、何の目的で私たちを攫ったのかは知らないけれど、どちらにしても穏やかじゃないわね。
それにしても迂闊だった。
もっと私が気をつけていれば……いいえ、後悔も反省も後よ。今はここから逃げることだけを考えましょう。
私はメアリちゃんが付けられている首輪を調べてみる。
微かにマナが漂っていることからこれが魔法道具だということが分かった。
首輪の表面には亡者を思わせるような不気味なデザインのレリーフが刻まれていて、込められているマナもどこか淀んでいる気がする。
見たところ、鍵穴のようなものはなさそうだから、魔法的なものによって施錠されているのだろう。このタイプの魔法道具は力ずくで壊すことがまずできない。着脱には、一定量のマナを送り込んだり、正しい手順を踏む必要になっている。
――隷属の首輪
これは犯罪者や奴隷を縛るための首輪。付けられた者は主人に対する反抗が一切できなくなる魔法道具だ。
過去にはこの首輪で獣人やエルフ、ドワーフや階級の低い人族が無理矢理奴隷にされていたという歴史がある。
それが原因で国同士の争いが起こったり種族同士の戦争に発展して、帝国などの一部の国を除いて奴隷制度は廃止されているはず。
だから、この国でも囚人を拘束するためだけにしか使われていないし、本で読んだ限りだと、制作には高度な技術が要求されると書かれていた。
これを使っているということは、私たちを攫ったのは人身売買を主力にした裏の集団?
それとも、たまたま手に入れた珍しい魔法道具を使っている闇ギルド?
とにかく、これは逃げるためには邪魔になる。外すことにしましょう。
「『魔法破壊』」
自分の首元に手を添えて魔法を発動させる。
こういった類の魔法道具は装着者の魔法の使用も制限しているはずだけど、私には効かない。
私が使った魔法は隷属の首輪に刻まれていた術式を完全に破壊した。それと同時に首輪自体も半分に割れ、ゴトリと鈍い音を響かせて床に落ちる。
魔法が使えることと隷属の首輪を外したことで命令違反にならないことを確認できたので、メアリちゃんの隷属の首輪も外す。
メアリちゃんの首輪に手を当てて魔法を発動させると、こちらも問題なく外すことができた。
「メアリちゃん。メアリちゃん」
「んんっ……フェルアおねぇちゃん?」
「そうよ。体で痛いところとかない?」
「ううん、ない」
よかった。
強がっている素振りも無さそうだし、これでひとまずは安心ね。
「ここはどこ?」
「……分からないわ。とにかく逃げましょう」
「……うん」
ほんの一瞬だけ、メアリちゃんの目に涙が浮かんだけど、彼女は私を心配させまいと泣くのを我慢する。
まだ小さいのに、強くて偉い子だ。
私はメアリちゃんの頭を撫でながら、もう一度部屋をよく見てみた。
部屋の造りから推察するに、ここは牢獄だろう。
少しして暗がりに目が慣れたのか、4面の壁の内1面が鉄格子になっていることが分かった。
光源は採光のために開けられた小さい窓だけ。そこから消え入りそうなほど薄らとした月の光が静かに降り注いでいる。
でも、その場所はかなり高い所にあるし、何より小さすぎて私もメアリちゃんもあそこから抜け出すのは無理ね。
床は鉄か何かの金属でできているようで、触ってみるとひんやりとした冷たさを伝えてきた。
壁にも金属が使われているようだけど、特に外側の壁は分厚くできているようだ。
これだとかなり威力がある魔法を使わない限り壊すことは不可能。
そうなると、残された脱出方法は鉄格子を切断するしかない。
「『烈風刃』」
私の手元から二陣の風が放たれ、切断された鉄格子が甲高い音を立てて床に落ちた。
部屋から顔を出して通路を確認する。
私たちが首輪を外すとは思っていなかったのか、牢番や見張りの人間は置いていなさそうね。
「行こう、メアリちゃん」
「うん!」
私はメアリちゃんの手を引いて牢獄から飛び出した。




