2-21.5 幕間:『青い瞳の少年』
プロットはあるのに時間がない、モチベーションが上がらない……(t^t)。
※今回は冒険者組の一人、クリス君視点です
僕らの師とも呼べるあの人と出会えたのは本当に偶然だった。
彼――シオン君は王都でオークションが行われるからそれに合わせてこの街、リヴァレンに来たらしいんだけど、どの宿も一杯だったそうだ。そして、断られた宿の1つで僕たちのいるセトリル教会を紹介され、一晩泊めてもらうために来たらしい。
今思えば、この出会いは僕たちの運命を大きく変えたと言うことがよくわかる。うちを紹介してくれた宿の従業員さんには感謝してもしきれない。
◇
シオン君と初めて会った日の朝。
その日は僕たち冒険者をしている年長者5人が前日に狩りに出かけたので活動を休む日だった。
冒険者活動は常に死と隣り合わせの危険な職業なので、活動を行うのは隔日か、もしくは二日空けるようにして体調を万全に整える。そうでないと、もしも危険な魔物や盗賊たちと遭遇したときに逃げることができない。
僕らにはずば抜けた武術の才能も魔法の才能も無い。唯一、マリアンヌが火と雷の魔法を使える二属性適正の魔法使いだけど、使えるのは下級魔法が精一杯で、5発も撃つと疲れてしまう。
それでも、冒険者活動を続けるのはリターンが大きいからだ。
町の外に出るのは大なり小なり危険が伴う。だから、薬草を取ってきたり、近くの村まで荷物を届けるだけでもそれなりの収入が得られる。
ナターシャさんは危ないことは止めて欲しいと言っているんだけど、養護施設の子どもたちにはしっかりと食べて欲しいからね。
おっと話がズレた。
あの日は年長者5人、特にニコラは前日の活動で疲れていたみたいで、朝起きるのが少し遅かったんだ。マリアンヌは隣の女子部屋で寝ているからフェルア姉さんが起こしてくれるけど、男子部屋では僕が最年長だからみんなを起こさなければならない。
なかなか起きないニコラの布団を剥ぎ取って、着替えを済ませたら4人で食堂へと向かう。
「きゃー!!!」
「あはははは!!」
食堂のドアを開こうとしたら子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきて驚いた。いつもは朝ご飯を食べることに意識が向いるから、騒がず静かに配膳をするはずだ。
不思議に思いながらドアを開けてさらに驚いた。なぜか食堂に魔物がいたんだ。
「わーい!」
「すごいモフモフしてるー!」
低ランク冒険者の僕でも一目見て強いと分かる魔物に思わず身を強張らせたけど、そんな心配は必要なかった。
狼型の魔物――シリウスは4~5人の子どもたちにひっつかれてあたふたとしていた。
彼女は僕と視線が合うと顔を横にずらした。
なんとなく、「あれをどうにかしてくれ」と言っているような気がしたのでそちらの方に視線を向ける。
すると、彼女に絡んでいない子どもたちが、「次は自分たちの番だ」とでも言いたげに、顔をわくわくさせて待っていた。
うん。そんな顔をするのも当然だ。
僕は養護施設の最年長者だから、今の彼女のように……とまではいかないけれど、子どもたちに遊んで欲しいとせがまれることは良くある。だから、その相手をする気持ちは分かるので、子どもたちを退けるのを手伝うことにした。
「エバン、ケヴィン、それにアンナたち。狼さんが困っているだろ? それにもうそろそろ朝ご飯の時間だから席に着きなさい」
「「「……はーい」」」
子どもたちは多少渋ったが、僕の言うことをちゃんと聞いて席に着いてくれた。そして、解放されたシリウスは僕に向かってお辞儀をする。どうやらシリウスはかなり賢いようだ。
「みんな、この人は冒険者をやっているシオンさんよ。彼は旅をしていて、今日から一週間ここに泊まることになったわ。さあ、ご挨拶をしましょう」
「「「よろしく! シオンお兄さん!!」」」
「よろしくね、みんな」
ナターシャさんに紹介された少年――シオン君は、一見女の子の様にもに見えるような肩に掛かるくらいまで伸ばした濡れ羽色の長髪と、青く綺麗な瞳が特徴的な変わった少年だった。
顔立ちもこの辺りでは見ない感じだし、冒険者をしつつ旅をしているらしいから、きっと他の国が出身なんだろう。
身長は僕より頭二つくらい小さいから15歳くらいかな? そんな歳で立派に一人旅をしているなんてしっかりしていると思った。
◇
朝食を食べた後、協会の庭に出てシオン君に稽古を付けてもらうことになった。
何と彼は白金級の冒険者だった。
白金級と言えば、冒険者の中でも十分な実力を持つと認められる人だけが就くことができるランクだ。そのランクに僕よりも若い歳で認定されるなんてとても驚いた。
初めは信じられなかったけど、無詠唱で高位の魔法を行使したり、突っかかって行ったニコラが軽くあしらわれたりと、彼の実力は確かだった。
その日からシオン君が魔法で作った大地の騎士と模擬戦をしたり、町の外に出て魔物との戦い方を教わった。
僕たちの戦い方はどれも我流だったから、ちゃんとした武器の使い方や連携の仕方を学んだお陰で、今までよりも楽に小鬼や粘性生物を倒せるようになった。
その中でも1番嬉しかったのは草原兎を狩ることができるようになったことだ。
この魔物は肉の味がいいから高く買って貰えるんだけど、とにかく足が速くてなかなか捕まえられない。それを簡単に仕留めることができるようになって、活動で得ることができる収入が増えたのはとても助かっている。
シオン君は冒険者の活動だけじゃなく、養護施設の子どもたちのために簡単な商品の作り方も考えてくれた。魔法護符といって魔法道具ほどの効果はないけど、見た目の良さや手ごろな価格が人気を呼んでちょっとしたブームになっているらしい。
教会の裏の森で魔物の群れが出たときもシオン君は子どもたちを助けてくれた。あの森にはいないはずの恐嚇狼が20頭くらい現われたのをシオン君が1人で倒してくれた。丁度その時はナターシャさんと子どもたちが薬草を摘みに散策していたので、彼がいなかったと思うとぞっとする。
他にもシオン君は買い出しの手伝いをしてくれたり、従魔のシリウスと一緒に子どもたちの世話を手伝ってくれたりと、一週間もしない内に教会にいることが当たり前の存在になっていた。
特に、フェルア姉さんが笑顔で話せているのは見ていてとても嬉しかった。
フェルア姉さんは僕よりも一つ年下だけど、養護施設ではナターシャさんに続いてもう1人のお母さんみたいな存在だ。だからつい「姉さん」と呼んでしまう。子どもたちからも「フェルアお姉ちゃん」や「フェルア姉」って言われて親しまれている。
そんな彼女はどこか、僕たちとの間に壁があるような気がしていた。ふとした拍子に見せる悲しそうな顔がどうしても気になっていた。
でも、シオン君が来てから彼と話すフェルア姉さんはとても生き生きとしていた。姉さんが心置きなく話せる存在に出会えたことはとても喜ばしかった。
◇
――シオン君にはこれからも教会にいて欲しいと思ってしまう僕は欲張りなのかな?
僕は冒険者活動の帰り道、シオン君とマリアンヌたちが談笑しているのを後ろから眺めながら歩く。
シオン君は僕らの養護施設にいろいろなものをくれた。子どもたちにはキラキラとした笑顔をくれ、僕たちには冒険者としての知識をくれ、フェルア姉さんには無二の親友というかけがえのない存在になってくれた。
それもあと数日しかない。数日経てばシオン君はまた旅に出る。その時が来れば、僕たちはまた今までと同じ毎日を送ることになる。
きっと小さい子たちは泣いてしまうだろうな。マリアンヌやニコラだって、もっと稽古を付けて欲しいと考えるだろう。
――彼が町を出て行くとき、僕たちは笑顔で送り出せるのだろうか?
「――『火炎』」
物思いに耽っていた僕を現実へと引き戻したのは、微かな風切り音とシオン君の唱えた魔法の詠唱だった。
それを切っ掛けに、街道の脇の茂みの中から人影が現われた。
――襲撃だ
僕たちは咄嗟にそれぞれの武器を構える。
「シオン君、どうする?」
相手は10人。数の上ではこちらが不利だ。
僕はシオン君に指示を仰ぐけど、彼も何か考えているらしかった。
しばらくするとシオン君は襲撃者に問いかける。
「さてと、和解する余地は端から無いが一応聞いておこうか。お前ら何が目的だ?」
しかし、相手は問いかけには応じず、武器を抜き放ってこちらへと駆けてきた。
僕たちの間に緊張が走り、思わず武器を握る手に力が入る。
「ぐあああぁあっっっ!!!」
その時、襲撃者の1人――後方で弓を構えていた男の腕に黒い槍が刺さった。
シリウスの魔法だ。
「シリウス、なるべく殺さないように、そいつらの相手をしてくれ。クリスたちは流れ弾に注意」
出鼻を挫かれた他の襲撃者たちは足を止め、その間にシオン君が僕たちに指示を出して自分はリーダーと思う男と一騎打ちを始めた。
◇
あれからシオン君は少し離れた所で戦っていて、姿は見えず剣戟だけが小さく聞こえる。
一方こっちでは、襲撃者5人を相手にシリウスの独壇場が続いていた。
開幕と同時に1人が脱落し、続いて3人が脱落。襲撃者の間にも徐々に焦りが見え始めてきた。
それでも事態は好転することなく、シリウスによって1人、また1人と襲撃者は倒されていった。
「簡単な仕事じゃなかったのかよ……ぐあっ!!」
……。
「クソッ、こいつ!?」
…………。
「う、うわああぁぁぁ!! こっち来るなぁぁぁあ!!!」
………………。
それはそれは、襲われた僕たちでさえ同情してしまうほどに一方的な蹂躙劇だった。
近づけば、スピードを生かした噛み付きや爪による攻撃。体制を整えようと離れれば、魔法によって串刺し。囲もうとすれば蹴散らされ、逃げようとした最後の1人は無慈悲にもその意識を刈り取られた。
もう、どっちが襲われているのか最後の方には分からなくなってきたよ。
彼女の強さは昼間の戦いでも知っていたけど、人間が相手だと、どれほど強いのかがさらに分かった。
「ありがとう、シリウス」
「グァン」
僕がお礼を言うとシリウスは「どういたしまして」とでも言うように吠える。
その時、近くで大地を割るような轟音が響いた。多分、シオン君だ。彼の戦いで何かが起こったに違いない。
心配になってきたけど僕たちは彼が負けるとは微塵も思っていなかった。
彼はこんなにも強いシリウスの主人だし、何よりも僕らの師匠だ。
その考えは正しく、シオン君は少ししたらリーダーの男を引きずってやってきた。
どうやらさっきの音は戦技を使ったときのもので、彼は掠り傷一つ負っていなかった。
そして、襲撃者たちを縛り終えると尋問をすると言い出して、バックから魔法薬を取り出すと魔法を使って何かをした。
その後は、尋問とは名ばかりの拷問もさながらな脅迫が行われた。
魔法薬を飲まされた男は苦しみ悶え、他の襲撃者たちは泣きながら情報を吐く。飼い犬は主人に似るではないが、シリウスの性格はシオン君の性格が元となっているんじゃないかと思ってしまった。
情報を一通り聞き終えたシオン君は襲撃者たちを眠らせると、今度は襲撃者の雇い主を潰しに行くと言い出した。そのついでに、襲撃者たちを兵士に引き渡してくるらしい。相手は貴族なのにそれでいいのかと聞いたら「やった方が悪い」、「バレなきゃ犯罪じゃない」って返された。一体、何をするのか怖くて聞けない。
シオン君は僕たちの護衛にシリウスを付けると、そのまま魔法を使って町に飛んで行ってしまった。
◆
「ただいま」
「あー、ホントびっくりした」
「シオンさんとシリウス、何かとても怖かったです……」
うん、みんなは襲われたことよりもシオン君とシリウスのしたことの方を怖がっているみたいだ。
さっきのことについて話しながら教会の扉を開ける。
……おかしい。いつもなら夕飯の時間はもっと賑わっているはずなのに。
なぜか嫌な予感が頭を掠めたとき、廊下の奥からナターシャさんが出迎えに来た。
「お帰りなさい」
「遅れてしまってすみません。子どもたちが静かですけど、何かあったんですか?」
「それがフェルアとメアリが夕方に森へ帰ってきてないのよ。いつもならどんなに遅くても、ご飯を作る時間には戻ってきていたのに」
その時、僕の嫌な予感は確信に変わった。
さっきの襲撃……あれは僕たちを狙っていた。けれど、教会の方も同時に狙われていたんじゃないのだろうか?
僕は1人の少年の顔を思い浮かべる。
シオン君がどうにかしてくれることを祈るしかない。
僕たちはみんな揃って彼を町から送り出せるのだろうか。その運命はあの青い瞳の少年に掛かっているような気がした。




