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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
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2-19.『黄昏時の悪意』

時間が取れない!


 シリウスの実力はわからなかったけど、とにかく強いと言うことだけは十分にわかった。


 まさか1回進化するだけでこんなことになるとは……。

 しかも戦技まで使えるとかもう一回くらい進化したらわたしより強くなるんじゃない? 最悪新しい魔王が生まれちゃったりなんかして。


 あはははは……。


 笑エナイ。

 主人としての面目を保つためにも、もっと剣術や魔法の練習をせねば……!

 幸いなことにわたしの方にもシリウス同様大きな伸びしろはある。アニメとかマンガとかの技を基にした戦技や魔法を完成させたり、この世界に来てから見た技を発展させたりすればまだまだ強くなれる。

 一歩間違えたら記憶の奥底に封印してきたはずの中二病さんが「こんにちは~」してきそうなのは、いろいろな意味で痛いけどしょうがない。


 シリウスの倒した堅牢(バーリー)剛角(・ホーン・)水牛(バッファロー)はサイズがでかいし、肉の部位に分けてきっちり解体していると時間がかかりそうだったから、頭とか足とかの大まかな部位に切り分けてマジックバックの中に収納しておいた。ぶっちゃけ言うとめんどくさかったのだ。


 一塊で数100キロはありそうな肉がマジックバックの小さい口に吸い込まれていく。

 某SFアニメの収納ポケットのようにバックの口すら通過できないような物がツルンと吸い込まれていく様は、何度見てもシュールな光景だと思う。空間魔法の原理やいかに?


 ちなみに、剥ぎ取った魔石はシリウスに渡したら喜んで食べていた。

 これ以上シリウスが強くならないためにも魔石をあげるのは控えるべきなのかもしれないけど、ウルウルした瞳で「ク~ン……」なんて言われたらしょうがないじゃないか。


 わたしの方はというと、シリウスが魔石を頬張るのを横目に堅牢(バーリー)剛角(・ホーン・)水牛(バッファロー)の分厚いステーキとか、大きな肉の塊がゴロゴロと入っているシチューなんていいなー、と考えていた。セトリル教会に帰ったら料理上手なナターシャさんに調理して貰えるか聞いてみよう。


 今日の最大の目的であったシリウスの力試しが終わったところで、折角遠出してきたのだからと大河の回りを散策した。

 この辺りは普通の冒険者はほとんど来ないから、ちょっとした薬草類や香辛料に使える植物の群生地帯なんかがあったりした。

 それらを根絶やしにしないくらい採集した後は一時間ぐらい釣りをした。



「今日はかなりの収穫になったな」

「やっぱり川の近くまで来たからだと思うよ。普通は街道沿いで薬草を集めたり狩りをするから」

「それにしても、シオン君のシリウスはこんなに強かったんだね」

「あんなでっけー魔物を倒せるなんてスゲーよ!」


 教会への帰り道、どこまでも広がる草原をわたしたち6人と一匹が歩いて行く。


「もう! シリウスは女の子なんだよ? 強い強いって何回も言うのはどうかと思うわ」

「うっ……」

「そうだったね。ごめんね、シリウス」


 ごめん、マリアンヌ。

 心の中ではわたしが一番「強い! 強い!」言ってるわ。

 だって戦技使えるくらい強くなるなんて考えもしなかったんだもん。


 元々『開闢の樹海』で冷酷(ブルータル)餓狼(・ヴォルグ)の群れのリーダーをしてるくらいだったからそれなりに強かったんだろうけど、さらに強くなるなんて……。


 ホント、いつかわたしよりも強くなったらどうしよう?


 わたしはシリウスの群れのメンバーを殺してる訳だけど、あのことについて本人は全く気にしてないみたいだから、「反逆だー!」とか「下克上じゃー!」みたいな感じで殺される心配はないとは思う。


 逆に、今となっては最初のよそよそしさは微塵も感じなくなって、2人でいるときなんかは甘えてくるくらい仲良くなった。

 それでも、主従の関係に胡座を掻いていたら、シリウスに愛想尽かされて、いつかわたしのとこから離れていきそう。


 あれ? 想像したら何か涙が……。


 シリウスがいなくなったら、自責の念で軽く一ヶ月は引きこもれそうだよ。


 マジでうかうかしてらんない。

 絶対にシリウスから「ご主人様弱くね?」と思われてはいけない。絶対にだ!!

 そのためにも、明日からはマナのコントロール練習をいつもの倍……いや、3倍やろう。


 よく、優秀な部下を持つと辛いっていうけど、こういうことなんだろうなぁ。


 それにしても、折角ヴァレス大河まで来たからって、薬草採集だけじゃなく釣りまで始めたのは良くなかったかな? ついつい夢中になって遅くなっちゃったよ。

 この分だとギルドへの報告は明日になりそうだ。まあ、マジックバックに保存しておけば劣化する心配もないか。


 私たち6人と1頭は夕焼けを背にセトリル教会への家路を急いだ。





 ◆





 そよそよと吹く風は多少の肌寒さを感じさせるととともに、木立の枝をザワザワと怪しげに震えさせる。


 今の季節がいくら夏だからと言っても夜になると大分冷えるので、完全に日が落ちてしまう前にはセトリル教会に着きたいのだが、帰る頃には夕飯に間に合うかどうかといった時間になってしまうだろう。


 ふと、空を見上げた。


 ラッツ平原のどこまでも広がっているような地平線に太陽が顔を隠し始める。それを待っていたかのように、反対側の空にはまるでピエロが笑っているかのような、細い細い繊月が煌々と青い光を振りまきながらわたしたちを見下している。



 ――逢魔が時


 なぜかそんな言葉が脳裏に浮かんだ。


 英語で言う“トワイライト”なんて幻想的で輝かしい情景ではない。例えるならば、魑魅魍魎が跋扈する夜の幕開けが近いような。すぐそこまで不吉な何かが迫ってきているような……。

 この辺りに自生している月光草が下から周囲を照らし、道が浮き上がっているかのように明るいのも1つの原因かもしれない。


 辺りは暗くなり始め、綺麗だった夕暮れは赤とオレンジと紫をぐちゃぐちゃに混ぜたような不気味な空模様になり、まるで悪魔が昼間の青空を黒に塗りつぶして夜に変えてしまおうと悪戯をしているようだ。

 なまじ足元が明るいからか、街道から少し外れただけでも先が見通せない程の闇に覆われている。


 上手く言葉にできないけど、なんか嫌な感じがする。


 この感覚が気のせいで何にも起こらないで欲しいな、なんて――


 「――『火炎(フレイム)』」


 微かな風切り音を立てながら迫ってきた矢を下級火魔法の『火炎(フレイム)』で消し炭にする。


 ……はぁ。なんで悪い予感って大抵の場合当たるのかな? 当たるんならテストの選択問題とかゲームのガチャとかの方が断然嬉しいよ。


 ピックアップなのに狙ってるキャラは全然出なくて、「キャラが来た!」と思ったら別のヤツ、しかも被ってるのだったり使えないのだったりとコツコツ集めた石が水泡に消える有様といったらなんと哀愁を誘うものか無課金勢だからそれから数ヶ月は石集めに精を出したり集会したりとちまちまちまちま……。


 「――シオン君? シオン君!」


 おっと、いけないいけない。前世の嫌なことを思い出していたら変な方に思考が持ってかれてた。


 町へと続く街道の木陰から出てきた敵さんは道を塞ぐようにして勢揃いしている。

 内訳は先頭にいるリーダーっぽい大剣使いと、その取り巻きに盾持ち片手剣3人、片手剣オンリー2人、短剣1人、槍2人、鎚1人、弓1人と合計10人。


 いやー、随分と大所帯だね。


「さてと、和解する余地は端から無いが一応聞いておこうか。お前ら何が目的だ?」


 わたしの問いに襲撃者たちはなにも答えず、各々の武器を取り出して接近してくる。

 軽くマナを込めて殺気を飛ばすが、怯む様子は感じられない。単なる盗賊じゃなく、それなりの実力を持った傭兵か、はたまた闇ギルドの連中か……。


 クリスたち冒険者組は、ただならぬ空気を感じたのか全員武器を取り出し、いつでも戦闘ができるように準備をしている。

 しっかりと危機管理意識は身に付いているようで、約一週間冒険者のあり方を教えてきた身としては鼻が高いね。

 でも、今回の敵は流石に荷が重い。こいつらは冒険者ランクで言うと全員金ランク程度だ。最低でも銀ランク上位で、一人を5人で相手にするとしても勝てるかどうか微妙なラインだ。


 取り巻きはシリウスに任せて、わたしは情報持ってそうなリーダーと戦うか。

 マジックバックからお馴染みの練習用木刀を取り出して、軽くマナを纏わせ、耐久力を強化する。

 方針としては、第一に敵の殲滅。第二に、適当に戦いながら『()()()()()()()()()()()()()』を聞き出す、といったところかな。


「ぐあああぁあっっっ!!!」


 新たに矢を番えようとした弓持ちの襲撃者の腕に漆黒の槍が刺さる。

 流石シリウス。ちゃんとわたしの言いつけ通り、人間を殺さないように注意してる。まあ、槍の刺さった腕からの出血が凄くて、弓使いが昼間に見た堅牢(バーリー)剛角(・ホーン・)水牛(バッファロー)みたくなってるけど……。


「シリウス、なるべく殺さないように、そいつらの相手をしてくれ。クリスたちは流れ弾に注意」

「ヴァン!」

「シオン君!」

「シオンさん!」

「これくらいは夕飯前の軽い運動だから大丈夫だよ」


 リーダーの大剣を受け止めながらシリウスに指示を出しつつ、冒険者組には戦いに捲き込まれないように言い聞かせる。

 これよりも強い魔物と何度も戦っているわたしとしては、この程度の相手は油断してても勝てるので、子供たちの心配は杞憂であると軽口を返して安心させた。


 様々な角度から襲い掛かってくる大剣を片手で持った木刀で軽く往なしつつ状況を探る。


 どうやら取り巻きたちはシリウスの危険性を無視できないからか、それともシリウスの相手で手一杯でそんな余裕が無いからか、わたしの方の戦闘に加わる気は無いらしい。

 弓使いに続いて短剣使いも地面に倒れており、どちらも瀕死の重症だ。

 戦況は襲撃者たちの圧倒的不利で、シリウスが殺さないように手加減しているのが丸わかりだった。決着は時間の問題だろう。


 わたしの方も早めに終わらせるとしよう。


 大剣による攻撃が一向に当たらないことに対する苛立ちからか、一撃一撃が大振りになってきた。相変わらずこらえ性の無いヤツだ。

 力任せに振るわれた大上段をひらりと躱し、隙ができたところに突きを放つ。

 襲撃者のリーダーの眉間を狙ったわたしの一撃はギリギリのところで躱されてしまったが、相手の被っていた黒いローブについたフードを引き引き千切る。


「さて、何でここにいるのかな?」


 ボロボロになったフードが風に飛ばされ、薄暗い闇の向こうに消えていく。


「クラン『烈火の赤竜』の団員――」


 足元に生えている月光草の淡い黄色の光が、襲撃者の風貌を露わにする。


「――『豪腕のジム』」


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