2-18.シリウスの実力
二週間くらい更新止めます。ストックが全くないですし、読み返してみると可笑しな所が出るわ出るわ……。
あと、2章を書き上げたら一、二ヶ月ぐらい休んでストック貯めたいと思います。お願いだからブクマ止めたり評価下げないで(T-T)
冒険者組に草原兎の狩り方をレクチャーしてから数日、その成果は確かなものとなりつつあった。
「行くわよ! 『――ファイヤーボール』!」
マリアンヌが草原兎の巣穴に魔法を放った。
炎の球のサイズは小さく威力も低いけれど、牽制としての攻撃には十分だ。
彼女は一週間近くの練習期間を経て、低位の魔法なら詠唱を短縮して使えるようになった。
威力と発動までのスピードに改善の余地はまだまだあるけど、1年も練習すれば完璧に使いこなせるだろう。
「ニコラ、そっちに行ったぞ!」
「おう! ポール兄ちゃん!」
マリアンヌの魔法に驚いて草原兎巣穴の中を移動する。そして、耳の良いポールが地中の音を聞き分けてニコラへと指示を出す。
「でやあぁぁぁっ!」
巣穴から飛び出してきた草原兎にニコラが攻撃を加える。正確な首への一撃が致命傷となって草原兎は動かなくなる。
ニコラも戦闘の時に少しは考えるようになってきていて、無駄な動きが減り、攻撃の命中率も上がった。
ひょっとすると、ニコラがこの期間で一番成長したかもしれない。
「マリアンヌ、そっちの調子はどうだい?」
そこにクリスとニールがやって来た。
彼らは別行動を取っていて、スライムの討伐と薬草類の採集を行っていたのだ。
「順調よ」
「クリス兄ちゃん! 俺、草原兎仕留めたぜ!」
「こっちはスライム10匹と、魔法薬に使える薬草は20株くらいとれたから中々の成果だよ」
そう言って薄い水色の魔石と緑色の薬草を見せてくれた。
冒険者組も安定して収入を得られるようになったし、養護施設の方はわたしがルーンチャームの作り方を教えて中々の利益をあげている。
これで教会の財政面の問題は解決したはずだ。
後は領主をどうにかすればいいんだけど、そっちは何もしなくて良い。
正確には何もしなくて良くなった。
町に買い物に行ったときの話だと、なんでも、今の領主は次の領主との中継ぎらしく、来月に控えた王都での王国会議までの任期らしい。
これで枕を高くして寝られるね。
「シオンさん、少し早いですけど、今日の狩りはここまでにしようと思います」
「それなら先に帰っていていいよ」
「何か用事でもあるんですか?」
「シリウスも最近動いていないから、久しぶりに狩りをさせようと思ってね」
今日は冒険者組に加えてシリウスも付いてきている。
そしてなんと、シリウスは昨日ついに進化を果たしたのだ!
やっぱり天帝夜叉の魔石を食べさせたのが大きかったかな?
なんか物欲しそうな目で見つめてくるから、ついついあげちゃうんだよね。
お金には困ってないし、日頃から何かとサポートしてくれるシリウスへのプレゼントと思って、強い魔物の魔石はあげるようにしている。
その甲斐あってか、元々『冷酷餓狼』の異常種であったシリウスは『冥界霊獄狼』になっていた。調べてみて驚いたよ。
前のランクは戦災級の中位から上位くらいだったんだけど、今は災害級を飛ばして禍災級の下位くらいにはなっている。
黒かった体毛は黒紫色ともいうべき色に変わっていて、引き込まれそうな程の妖艶さと、思わず畏敬の念を抱いてしまいそうな覇気を纏っている。
その姿から一目見て強い魔物だということはわかるんだけど、折角だから進化したシリウスの強さがどのくらいになったのかを見たいと思ったのだ。
「その戦い、僕たちも付いていっていいかな?」
「ん? すぐに終わると思うからつまらないよ?」
「そんなことはないよ。上位の魔物の戦闘なんてなかなか見られるものじゃないしね」
確かにそうだ。シリウスの戦い方を冒険者の戦いには応用できなくても、魔物の動きを見ておくことで似たような魔物と戦うときの参考にはできる。
◇
小一時間くらい歩いてわたしたちは大河のほとりにやって来た。
リヴァレンの町に面しているこの河の正式名称はヴァレス大河。
川幅は向こう岸がかろうじて視認できるかどうかといったレベルで、目測だとざっと数キロくらいありそうだ。目の前に広がる膨大な量の水は海を彷彿とさせる。
岸の近くの水深は比較的浅く、大人の膝に届かない程度なのだが、川の中央に向かうにつれてどんどん深くなっていき、最も深い所は底が見えない。
何でも数十年に一回、海から『亜海龍』だったりが遡上してくることもあるんだとか。
それ、もう海じゃん。て言うか、淡水と海水の違いとかって大丈夫なのかな? いくら魔力っていう未知の物質があってもやっぱり気になってしまう。
それはそうと、今回シリウスの力試しとして狙う魔物は堅牢剛角水牛だ。
こいつは魔物のランクとしては害悪級で低いんだけど、戦闘力は戦災級の上位にも迫ると言われている。
体長は3メートルを優に超え、岩のように硬い皮膚と大きな角を持つ。
これだけ聞くと凶暴そうな魔物ではあるが、その性格は意外にも温厚なものであり、水辺の近くで日がな一日中、草を食んでのんびりとしていることが多い。
だけど、機嫌が悪かったり攻撃されたりすると見境無く暴れ出し、自慢の角でもって敵を突き殺すという凶暴な一面もある。
力試しには丁度いい魔物だろう。
ヴァレス大河に来て数分。堅牢剛角水牛はかなりの巨体であるから、探し始めるとすぐに見つかった。
「じゃあ、シリウス。あの堅牢剛角水牛と戦ってみてくれるか?」
「グァン!」
わたしの問いかけにシリウスは返事をすると、河の岸辺で水を飲み、寛いでいた堅牢剛角水牛へと駆けていった。
「ブルルルルッッッ!!!」
シリウスがある程度近づくと、堅牢剛角水牛は身の危険を感じたのか、先程までののんびりとした雰囲気とは打って変わってシリウスに向かって突進してきた。
地響きを立てながら突進してくる様は、まるで巨大な壁が迫ってきているようにも見える。
騎士の持つ乗馬槍くらいの太さのある角の一突きは、鋼鉄の鎧で守られていようとたやすく貫通する。
それに、見た目からはあんまり速度が出ていないようにも感じるが、実際には一歩一歩の歩幅がかなりあるので、気が付いたときには避けられないくらい近づかれてしまっていることだろう。
「きゃあ!?」
「シリウス!!」
「……躱した?」
そんな恐怖で足がすくみそうな攻撃も、進化してさらに速くなったシリウスにとっては躱して下さいと言わんばかりの大振りの一撃でしかなく、冷静に見切るとギリギリのところで躱した。
心臓に悪いなぁ。
絶対に避けられる攻撃だったとしても、あんなギリギリで動き出すのは止めて欲しい。
避けられるってわかっていても気が気じゃないし、冒険者組なんかは見ててハラハラしてるじゃん。
それはそうと、攻撃に手応えのなかった堅牢剛角水牛は方向を変え、再度突進しようと試みた。
突如、その巨体が揺らぐ。
どうやら片方の前足から出血しているようだ。
遠かったから見えなかったけど、すれ違った一瞬でシリウスが何か攻撃したんだろう。
しかし、それだけではなかった。
足の傷口はみるみるうちに広がっていき、血溜まりがちょっとした池のようになっている。
よく見ると黒っぽい靄が傷口の周りに纏わり付いているから、シリウスは継続してダメージを与える魔法を使ったんだろう。
それにしても恐ろしい攻撃だ。初回の攻撃は堅牢剛角水牛からしてみれば蚊に刺された程度の傷だったのに、1分も経過した今では突進するどころか立ち上がる気力すらないようだ。
呪いみたいな魔法かな? 一体どんな魔法を使ったんだろう。
このまま数分もすれば出血死で息絶えるんだけど、シリウスはまだ何かするつもりみたいだ。
堅牢剛角水牛から少し離れた所で、シリウスは前足を振り上げた。一体何をするんだろう?
疑問に思っているとシリウスの鉤爪にはマナが集まってきた。
禍々しい黒紫色のマナはすぐさま巨大な鉤爪を形作る。攻撃の準備は整ったようで、シリウスは大量のマナを纏った前足を堅牢剛角水牛に向けて無造作に振り下ろした。
一筋の黒い斬撃波が音もなく放たれる。
そう認識した次の瞬間には堅牢剛角水牛の首が徐々にずれ、ゆっくりと地面に落ちた。
……って、あれって戦技『薙雲』じゃん!?
シリウスってそんなことまでできるようになったの?
しかも、わたしが二週間かけてようやく実戦で使えるようにした『薙雲』よりも完成度がなにげに高いし!
内心驚愕していると、堅牢剛角水牛を倒したシリウスが嬉しそうな表情をして駆け寄ってきた。
尻尾をブンブン振っているから褒めて欲しいんだろう。
「良くやったね、シリウス」
「グァン!」
良くやったというかやり過ぎだ。
勝てる相手を選んだつもりだけど、まさかここまで相手にならないとは思いもしなかった。
力試しの戦いが全然力試しになっていなくて、逆にそこら辺の魔物ではウォーミングアップにすらならないくらい強くなったとしかわからなかった。
頭を撫でられて嬉しそうに目を細めるシリウスを横目に、わたしは主人である面目を保つためにも、もっと剣術とか魔法とかの練習をしようと心に決めた。
シオン「良くやったね、シリウス」
シリウス「グァン!(やりました、主人!)」
シオン「ホント、強くなったよ……」
シリウス「クゥン?(どうかしましたか?)」




