2-17.ラッツ平原
冒険者ギルドでは思ったより時間を取られちゃったな。
まさかここに来て思い出したようにテンプレに遭遇するなんて思いもしなかったよ。
でも、そのお陰でいい感じの大剣が手に入ったんだし、実質的にはプラスかな? 今晩はこれにルーン文字とか魔法文字を目一杯刻印して魔改造しようと思う。
さて、これからクリスたちの所に向かうんだけど、ニコラが何かやっちゃってそうで不安だなー。
◇
冒険者ギルドを出てから大体1時間くらい。
わたしはクリスたちが依頼を受けているラッツ平原に来ていた。
ラッツ平原はアンガルの町から王都にかけて広がる広大な草原で、ナターシャさんたちのセトリル教会を超えた先にある。
ちなみに、教会の名前はさっき商会でポーション納品の契約カードを見て初めて知った。
ここに生息している魔物は鋼級や銅級でも簡単に倒せるものが多く、周りは見通しのいい草原のため、盗賊も全くといっていいほど出ない。だから、新人冒険者のいい狩り場にもなっている。
さてと、クリスたちたちはどこかな~? おっ、いたいた!
「――アンタね、いい加減にその考えなしに突っ込む癖を直しなさいよ!」
「これでも今回は気をつけたんだぞ!?」
「普段からしたら気をつけたかもしれないけど、他人から見たらあんまり変わらないわよ!!」
街道からちょっと離れたところに5人はいた。そして心配していた通り、ニコラが何かをやらかしたみたいでマリアンヌと口論になっていた。てか、ニコラが一方的にマリアンヌからお叱りを受けている。
あいつ、ホントに何をやった?
マリアンヌがここまで怒るなんてことはそうそうな……いや、日頃のニコラを見ていると結構ありそうだね。
「アンタ一人で失敗するんならいいの。でもね、今回はチームで活動してるの。わたしはシオン先生にいいとこ見せて新しい魔法の練習に付き合ってもらいたいのよ!」
わたしのせいだったか……。
大方、今回のターゲットである草原兎にニコラが突っ込んでいって案の定逃がしてしまい、わたしに狩りの成果を見てもらいたかったマリアンヌが怒っている構図かな?
簡単な考察だけど多分合ってる。だってニコラだもの。
……なんか詩みたいになってしまった。
それはそうと、いつの間にかマリアンヌの説教がループに入ってる。
そろそろニコラを助けてあげようかな。
「そのくらいにしてあげたら?」
「あっ! シオン先生!」
「シオン先生、できればあと5分早く来てほしかったぜ……」
わたしの声に気色の笑みを浮かべるマリアンヌとは裏腹に、ニコラの方は正座をさせられてちょっとぐったりしている。
辛いよね、正座。
わたしも二日前、フェルアにやらされたよ。
養護施設だと悪いことをしたら正座をするスタイルなのかな?
「それで? 何かあったの?」
「聞いて下さいよシオン先生! ニコラが草原兎に真っ正面から近づいたせいで逃げられちゃったんですよ!」
マリアンヌがプンスカと擬音が聞こえてきそうな感じでわたしに訴えかけてくる。
そして、近くにあった縦穴――草原兎の巣穴と思われるものを指さした。予感的中。
わたしは縦穴に向けて風を送り込むだけの簡単な風魔法を発動させる。
すると、少し離れた場所から草原兎が飛び出した。
飛び出してきた草原兎に向けて風魔法の『烈風刃』を放つ。
一陣の風は鎌鼬となって草原兎の首を切り裂いた。
「すげぇ」
「僕たちが逃がした草原兎をこんなにあっさり倒すなんて……」
「さすがです! シオン先生!!」
わたしの流れるような狩りの手際にポールとクリスが感嘆の言葉を発した。ニールとニコラは驚きすぎて言葉もないらしい。
そしてマリアンヌはわたしをヨイショしてきた。
なんか段々と尻尾を振ってる犬みたいに見えてくる。
「草原兎は爪や牙とかの大した武器はないけど、その分足が速い。だから巣の中にいる草原兎を驚かせて、巣から出たところを仕留めるのが正しいやり方だよ」
まあ、全部ここに来るまでに読んでいた本に書いてあったことだけどね。ソースはこの間買った『魔物図鑑:動物型種』。
ギルドで『草原兎の討伐』の依頼を受けるって知ったから、ここに来るまでに調べておいた。
「あまり知られていないけど、ギルドには魔物の特徴や特性を記録している資料室があるから、職員に言えば入れてくれるよ」
冒険者って粗野なところがあるからね。本は高いから職員の人もこっちから言わないと教えてくれないんだよ。
「ところで、いつもはどうやって倒してるの?」
「草原兎を周りから囲んでいって近くに来たヤツが倒す、って感じだ」
わたしの問いにニールが答えた。なんかそれだと運の要素が強い気がする。
「成功率は?」
「10回に1回くらいです」
なんでも、草原兎の肉はなかなか美味しくて、冒険者ギルドで売却すればそれなりのお金になるそうだ。
だから、今回のように粘性生物の討伐依頼や薬草採集の合間にチャレンジしている、と。
「よし、今日はスライムを狩りながら草原兎の狩り方について練習してみようか――」
◇
「クソッ! まだあの古ぼけた教会は潰れんのか!?」
ゴテゴテとした調度品で飾られた応接室で、年甲斐もなく喚く声が聞こえる。
腹や二の腕を贅肉でだらしなく弛ませ、金製や銀製の装飾品を下品なくらい身に纏った男が一人、大声で愚痴を溢していた。
彼は、一本大銀貨数枚もするワインのボトルを無造作につかみ上げると、ドバドバとワイングラスに注ぐ。
そして、口の端からワインがしたたるのもお構いなしに、大して味わいもせず喉の奥へと流し込んだ。
「教会がリード商会を通して売り始めた『ルーンチャーム』というものの売れ行きがよく、冒険者として活動している子供たちも腕が上がってきていて財政面は潤っているようです」
「ならば、恐嚇狼の方はどうだ?」
「それが、森に放った恐嚇狼の群れは倒されたようでして……」
「何だと!? あいつらは高かったんだぞ! クソッ!!」
どうやらこの男がセトリル教会の土地欲しさに恐嚇狼を嗾けたらしい。
執事からの現状報告を聞いた男は顔を真っ赤にすると、空になったワインボトルを部屋のドアへと投げつけた。
ガシャン! というガラスの割れる音が響き、ボトルに残っていた少量のワインが飛沫となってドアと壁を汚した。
「うるさいわねぇ。カッとなったらすぐ物に当たる癖、いい加減直したらどう?」
男の蛮行を咎めたのは青をベースにしたスレンダーラインのドレスを身に纏う女性だ。
ドレスからこぼれ落ちそうなほど大きい胸と、ドレスと同じ青色の髪がなまめかしく流れる様は、世の中の男の視線を釘付けにすることだろう。
「うるさい! 大体何だ、貴様は私の護衛として雇われているに過ぎん――」
「あら? 勘違いしないで貰えるかしら。私はココが一番金払いがよかったからいるだけ」
女に対して悪態をつこうとした男だったが、突如、自身の周囲に氷でできた長剣が現われたことで口を噤む。それらに込められたマナの量は凄まじく、よく見ると部屋の窓ガラスには結露ができていた。
冷気が立ちこめる部屋とは打って変わって、男は額に大量の汗を掻いている。
「でも、そうね。少しも働かない穀潰しと思われるのも業腹だわ」
女の怒気が消えるとともに空中に浮遊していた長剣も霧散する。
安堵するとともに椅子にもたれかかった男。先程まではかなり酔っていた筈なのだがすっかり覚めてしまったようだ。
「直接的にあの土地を奪えないから間接的に動いてるんでしょ? なら、こんなのはどうかしら――」
シオン「さあ、みんなも私を真似して狩りをしてみよう」
冒険者×5「「「いやいやいや、無理ですって」」」




