2-16.過剰防衛? いいえ、正当防衛です!
バン!ともドン!とも聞こえるような音が鳴り響き、空気が爆ぜる。そして、筋骨隆々な大男――ジムが吹っ飛んでいった。
わたしがやった攻撃はいわゆるデコピンだ。まあ、指が鎧に当たる直前に風魔法を使って威力を強化したんだけどさ。
殴る動作で吹っ飛ばしても良かったけど、デコピンの方がカッコいい気がしたからこっちにしてみた。個性豊かなキャラクターが入り乱れる学園物の漫画でそういったシーンがあったんだよね。スマッ○ュ!!
もちろん、わたしなら身体強化オンリーで人間の1メートルや10メートルは簡単に飛ばせる。
でも、これだけの威力の攻撃を魔法を使わずにやったら、間違いなく吹っ飛ぶ前に人体に風穴が空くか破散するし。正当防衛とはいえ好き好んで人は殺したくないし、ましてや惨殺死体なんてまっぴらごめんだ。
結構強い衝撃は与えたけど、あれでもジムは白金級冒険者だ。それに、元々丈夫そうな金属製の鎧を着ていたから肉体のダメージは少ないはず。骨の1、2本は確実に折ったけど。
ん?重症?
やだなー、こっちの世界なら骨折なんて優しいほうだよ。
町の外歩いてたら盗賊に合って殺されるなんてざららしいし。むしろ、抜剣に対してデコピンで済ませるわたし、優しい!
だけど、誤算があった。
ジムの頑丈さは考慮していても、ギルドの壁を考慮していなかった。木造だった冒険者ギルドの壁は思っていたよりも脆く、吹き飛ばされてきたジムの衝撃に耐えきれずに、そのまま突き破って外に出てしまったのだ。
……やっば! 壁の向こうにいるかも知れない通行人の存在を完全に考慮していなかった!
慌てて壊れた壁の向こう側を見る。埃が晴れた後には、材木に混じって白目を剥いて倒れているジムの姿が。
買い物や散歩をしていた通行人たちは突然の出来事に驚き、思わず足を止めている。
幸いにも誰も巻き込まれてはいないようだ。良かったー。
「だから言ったのに。せめて僕のいないところで喧嘩してくれってさ」
深いため息をつくギルマス。
確かにコレは掃除だとか報告書だとかの後片付けが大変そうだ。
そして、ここの責任者は間違いなくギルマス。この後はめんどくさい聴取とか書類整理とかがあるのだろう。ご愁傷様。
コレばっかりは止めなかったギルマスにも責任はあると思うな。
それにしてもギルマスはこうなることが分かっていた様な口ぶりだね。わたしはマナを完全に抑えていたはずなのに何でだろ?
「何事だ!」
おっと、兵士がやって来たかな?
駆け付けて来たのは赤を基調とした制服に身を包んだ2人の男性。来るのがちょっと早すぎるから、この辺りを巡回中だったのかも。
まあ、これだけの騒動になれば遅かれ早かれ兵士は来るよね。
テロ――は考えにくいけど、ここは冒険者ギルドだし、暴力沙汰だったりの何かしらの出来事が起こったとみるべきだろうし。
荒事を仕事にしている冒険者という職業だからこそ、中にはジムの様な荒くれ者も多いし、きちんとした取り締まりが必要だ。
ギルマスと数人のギルド職員が、駆け付けて来た二人の兵士と何やら話をしている。
わたしには関係ないけどね!
目撃者は沢山いるし、状況から見るにどう考えても正当防衛。剣を振り回してきた暴漢を撃退するも、力余ってやっちゃいました。正しく完全犯罪の成立! 殺してないけど。
それしにても、コレはどうしよう?
わたしの左手に握られているのはジムの持っていた両刃の大剣。
ダマスカス鋼って言うんだっけ? それとは違うんだけど、似たような青い精緻な模様が剣身に刻まれていて、一目見ただけで切れ味と耐久性が良いと分かる、なかなか高そうな一品だ。
あいつ、吹き飛ばされた時に剣の柄から手を離したんだよね。
闘いの最中……ではなく、わたしからの一方的な私刑だったけど、剣から手を離すなんて剣士の風上にも置けないヤツだね。
「シオン殿、少々時間をよろしいですか?」
しばらく剣を眺めていたら、兵士Aが話し掛けてきた。
「事情聴取は好きじゃないんだけど?」
「いいえ、これだけ目撃者がいるので必要ありません。それに、我々とロビンさん、冒険者ギルドのギルドマスターもこいつには手を焼かされていましてね。最近は問題をよく起こしておりましたので、一晩牢に入れることで話はまとまりそうです」
ここのギルマスはロビンって言うんだ。
というかジムのヤツ、今回みたいな事を日常的にやっていたのか……。それで捕まるんなら自業自得ってやつだろう。当然の報いだね。
それにしても兵士A、さっきからすっごい笑顔。よっぽど煮え湯を飲まされてきたんだろう。
人を殺そうとして一晩の拘留ってのは短い気もするけど、実際には誰も怪我をしていないし、ジムの所属している『烈火の赤竜』ってクランの関係で、上の方でいろいろあるんだろうなー。お疲れ様です。
「それは重畳だ。しかし、これで大人しくなるとも思えないな」
「そうですね。ですが、今回の騒動で彼の冒険者ランクは間違いなく降格、評判も落ちることとなるでしょう」
「そうだろうな。ああ、質問がある」
「何でしょう?」
「ギルドの壁の修繕とこの大剣はどうする?」
「修繕費用は向こう側に出させます。剣は慰謝料とでも思ってそのままお持ちになって結構ですよ」
海外だと拾得物の権利も拾った人のものだけど、良いのかな?
でも、この際だから遠慮無くもらっておこう。
わたしには愛刀の『黒夜叉丸』があるから武器には困っていないんだけど、ちょうど魔法剣の試作品とか作りたかったんだよ。
ジム君は迷惑料と思って潔く諦めてくれたまえ!
「私はもう行くが構わないか?」
「はい、引き留めてしまい申し訳ありませんでした」
「いいや、君は自分の職務を熟しただけだ。では、失礼する」
大物みたいな態度を意識していたからか、最後の方は変な口調になってしまった気がする。ハリウッド映画のハードボイルドな主人公みたくなってた。
うん、決めゼリフが言えたからちょっと浮かれてたかもしれない。
ちょっと恥ずかしい気持ちになりながら大剣をマジックバックに仕舞い、冒険者ギルドを後にした。
シオン「むしゃくしゃしてやった。後悔どころか爽快感でいっぱい!」
ロビン「これがギルドの修繕について、こっちがジムさんのランク降格の資料で……、はぁぁぁっ……」




