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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
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2-14.質疑応答こそが商談における山場であって(以下略)


 「どうぞ、お掛けになって下さい」

 「失礼します」


 わたしにソファーへと座るように促した女性は、白いブラウスの上にぴっちりとした黒のスーツで、下も同じく黒のタイトスカートに身を包み、薄い茶色の髪を後ろで軽くアップにまとめるといった出で立ちだった。

 高めの身長とすらっとした背筋が、いかにもデキるキャリアウーマンとした感じでカッコいい。

 メガネも掛けているので冷淡な印象を持つかも知れないが、朗らかな笑みを浮かべているのでキツいとは思わない。


 まあ、根っからの商売人なら、わたしみたいな小娘に自身の内面をを悟らせないことなんて余裕だろうけど。

 さっきの職員がこの場に立たないことからも、商談だったりはこの女性が専門に行っているんだろうし。


 それよりもメガネがあったことに驚きだ。なにげにこの世界に来てから初めて見るな。


 「今回担当をさせていただきます、メリッサと申します」

 「シオンです」

 「本日は新規の契約を結びたいとのことでよろしいですか?」

 「はい」

 「分かりました。早速ですが、商品とするものをみせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「これです」


 わたしは格納鞄(マジック・バック)から昨日の夜に作ったルーン文字を刻印したサンプルを取り出す。もちろん、『豊穣』のルーンを刻んだ木製スプーンみたいなお遊びの品は出していない。


 わたしが見せたのはお守りと木製の鈴といった木工製品と、市販のリストバンドやスカーフにルーン文字を刺繍した布製品だ。

 後者の方は魔石の粉をを付けることは出来ないから効果は低めだが、見栄えは木工製品に劣らない。

 どれも養護施設の子供たちが作れるという前提のものにしてある。


 「これは……ルーン文字のようですね」

 「ええ、名前を付けるなら『ルーンチャーム』、などは如何でしょうか? これを教会で作成するのでこちらのリード商会で買っていただきたい」


 さあ! どう攻めてくる?

 こんなこともあろうかと事前に予想される質問とその回答はシミュレーション済みなのだ!


 問.魔法道具の方が効果が高いのでは無いか?

 答.魔法道具だとどうしても高価になってしまう。それに比べてルーン商品は生産コストが大幅にカットできるし、小さいながらも効果が期待できる。


 問.他の店が真似をした場合の対策は?

 答.だからこそお守り(チャーム)と言う形で売る。子供たちが一生懸命作ったものと職人が片手間に作ったもの。出来に違いはあるがどちらの方が効果が高そうに見えるか。


 問.生産数は確保できるのか?

 答.比較的作りやすい設計なので、木工製品は週に数十、布製品は十前後でしょう。


 大体これぐらいかな?

 質問するなら早くして欲しい。我慢してるけど、さっきから胃がキリキリしてくる。


 「ふむ、生産コストは低く抑えることができ、それでいて小さいながらも効果が期待できる。養護施設で作っていることから寄付の一環として買う客も一定数はいる。作りは簡単だから安定した生産も可能、ですか」


 ……全部言われた。

 真夜中に必死になってプレゼン内容考えていたのに、商品を見せただけで全部理解された!


 一瞬だよ、一瞬!

 「買い取ってくれ」っていう説明なしの要求から相手が質問をして、それに答えることによって商品の有用性を印象づける作戦だったのに!!


 まあね? 余計な手間が省けていいし? 変な心の探り合いとか、いかにもこっちのことを見下して安く買いたたこうとしてくる輩を相手にするよりは、この人みたいな物わかりのいい人と商談する方がどっちにとってもWin-Winだってのは分かるよ?


 だけどこれだけは言わせて欲しい。わたしの睡眠時間、約二時間分を返して!


 「素晴らしいですね。商品のアイデアもさることながら、細かい部分も考えていらっしゃるようにお見受けします」

 「有り難うございます」


 褒められるのは素直に嬉しい。

 嬉しいんだけど、どっちかっていうとわたしが説明したかった……。


 「では次に販売する価格を決めたいと思います。販売手数料として売却利益の三割ほどはこちらがいただくことになりますが、販売するに当たってのご希望価格はございますか?」


 ……考えてなかった。

 プレゼン内容に気を取られすぎて値段のこと全く考えてない。

 馬鹿かわたしは! プレゼンの次に大切なのは商品の値段設定でしょう!


 いくらいいものでも高すぎたら消費者は買わないし、安すぎたら生産者が損をする。


 落ち着け。


 この世界の貨幣は最小単位が鉄貨でこれを1とすると、物価はリンゴ1つで鉄貨4~7枚くらいだから価値としては10円くらいと仮定する。

 魔法道具は安いものでも大銅貨数枚程度――数万円はかかる。

 神社とかでよく見るお守りの値段は平均して数100円から高いところで1000円くらい。


 付加価値とかを考えると大体――


 「こちらの店で売る時、木工製品は大鉄貨5枚、布製品は銅貨1枚でどうでしょうか?」

 「ええ、その辺りが妥当ですね。実際に販売する価格は多少上下する場合がございますが、ご理解いただけますか?」

 「はい」

 「納品をしていただくのは来週から。初回は売り上げを見ると言うことで木工製品を十点、布製品を五点ほど納品。以降は制作のスピードを見て判断という契約に致します。よろしいでしょうか?」

 「結構です」

 「では、この内容で新しく契約を結びますので、会員カードをお預かり致します」


 わたしは女性職員に言われたとおりカードを渡す。


 結構気合いを入れてこの場に臨んだのに、話を始めてから30分も経っていないんですけど……。

 いいんだよ? 話はうまくまとまったし、大成功と言ってもいい結果にはなった。

 だけど、何か釈然としない!


 斯くして、人生初の商談は呆気ないほどスムーズに終わってしまった。


シオン「……(海千山千の商人を舐めてた)」

メリッサ「ほう、この商品なら材質を高価なものにして貴族にも売れますね。こちらで高額商品を作り販売する権利を戴いても? 勿論、対価は支払います」

シオン「あっ、はい……」

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