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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
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2-9.予期せぬ戦闘


 教会にお世話になって三日目の朝。


 今日は、わたしと院長先生ことナターシャさんをはじめ、数人の子供たち、それと冒険者組からはポールとニールが同行して、教会の裏手にある森へと来ている。


 今回の目的は、教会で売るための魔法薬(ポーション)の材料である薬草やキノコなどの採集や、子供たちのおやつになる木の実の採集、そして、小型の魔物を捕まえるために仕掛けてある罠の確認だ。


 森には低級だが魔物が出るため、必ず三人以上、かつ十歳以上の子供の同伴で入るように決めているらしい。


 肉食系の魔物は出はないけど、草食系の魔物でも戦う術を持たない一般人――それも小さい子供にとっては十分に危険だからね。


 ちなみに、シリウスにはお留守番と、残った子供たちの面倒を見てもらっている。


 昨日は子供たちのパワフルさにタジタジだったシリウスだけど、そこはやはり群れで行動する生き物である狼だ。


 今日の朝には子供たちの扱いを完全に心得たようで、かけっこをしたりわたしの作ったフリスビーで仲良く遊んでいた。


 クリスたち冒険者組も教会の庭にいて、子供の世話をしたり自主練をしたりしていた。


 彼らは一日冒険者として活動したら、疲れを抜くために二日ほど休むそうだ。


 わたしは毎日でも魔物を倒したりしてたんだけど……。





 ◇





 陰の多い薄暗い森の中を歩いて行く。


「あったー!」

「こっちにもあるよ」

「あまり遠くに行ってはいけませんよ」


 この森には薬草以外にも香草やキノコ、果物が豊富にあるので、そういったものは養護施設の食卓に頻繁に並び、節約に一役買っているそうだ。


 わたしも採取しているんだけど――


「それは違うわよ。こっちの葉のやつが薬草」

「そのキノコは毒があるから触っちゃだめ!」

「ああ、その木の実はまだ熟してないから酸っぱいわよ」


 さっきから隣にいるフェルアにダメ出しばかり喰らっている。


 同じにしか見えないんですけど!


 『開闢の樹海』の薬草は見分けやすかったんだけど、この森似たような植物多過ぎでしょ。


 高難度のフィールドで低ランクのアイテムはよく出てくるけど、初心者向けのフィールドだと低ランクのアイテムしかないから、相対的に有用なアイテムが少なくなるあの現象が起こっているのかな? 


 一種の物欲センサーみたいなものでも働いているのだろうか。


 だって葉っぱの形とか茎の形とか、ほんとーに少し違うだけじゃん。


 キノコなんて見分けつかなくてどれも同じに見えるし、木の実は赤いのよりも緑のほうが熟してるってどういうこと?


 「アレか!」と思ったのは大体違うもので、逆に、「コレじゃないな」と思ったのが目的のものだったりとややこしい。


「あのね、シオンお兄ちゃん! タリス草はね、葉っぱのここ! ここのところが違うの!」

「ありがとね、メアリちゃん」

 

 五歳児に薬草の違いをレクチャーされてしまった。


 ちなみに、タリス草というのはいろんな所に広く自生している魔法薬(ポーション)の原料になる薬草で、わたしが初めて作った魔法薬もこれを使った物だった。


 この薬草はマナを多く含むほど葉っぱの色が青っぽくなり、魔法薬(ポーション)にした時の品質もよくなるという性質があるのだが、ここはマナが薄いから黄緑色で他の下草と区別が付かない。


 『開闢の樹海』で何十株も採集してる筈なんだけどなぁ……。


 



 ◇




 しばらく森の中を散策していると罠の仕掛けてあるポイントに来た。


 罠の種類は、ロープを使った物が一つと落とし穴が二つの合計で三つ。


 ここが仕掛けてある最初のポイントなんだけど、どうも様子がおかしい。


「血の臭いがします」


 そう言ったのは猫の半獣人のニールだ。


 念のため、わたしが先行して罠の様子を確認する。


 茂みからそっと覗いてみると、ロープの罠に足を絡ませた体長60センチほどの黄色い毛皮のウサギ型の魔物、一角兎(アルミラージ)恐嚇狼(ダイヤウルフ)の群れに喰われていた。


 微かに漂う血の鉄臭さと肉を咀嚼するクチャクチャという音が静かな森に響く。


 恐嚇狼(ダイアウルフ)は体長150センチくらいの茶色い毛皮をした狼型の魔物で、オークとかと同じ害悪級に分類されている。


 強さ的には鋼級冒険者でもチームを組んで頑張れば狩れる程度なんだけど、こいつらは二十匹くらいの群れになっていて数が多い。


 まずはポールたちのいるところに戻って、恐嚇狼がいたことを報告した方がいいかな。


「そんな! この森には一角兎や大角鹿(ホーン・ディアー)といった草食系の魔物しかいないはずです」

「どうする? シオンさん」


 ポールがわたしに尋ねてきた。


 仕留め損なって子供たちを怪我させる、なんてことは万が一にもあり得ないんだけど、何匹もの生き物を殺すなんて場面は小さい子にはかなりショッキングな光景だ。


 トラウマを作ってしまっても悪いし、ここは一旦、子供たちには森から出てもらい、跡でわたしが倒す方が安全だろう。


「私一人で討伐するから、ニールたちはナターシャさんと子供たちを連れて教会に戻ってくれ」

「分かった。大丈夫だと思うが、一応シオンさんも気をつけてくれ」


 わたしの提案にみんなが同意し、撤退することになった。


 ナターシャさんたちはなるべく音を立てないように、ゆっくりと慎重にこの場から離れていく。







「――さてと」


 養護施設のみんなは大分離れたかな?


 頃合いを見計らって、一人残ったわたしは恐嚇狼の相手をする。


 いい機会なので、こいつらには練習した魔法と剣術の実験台になってもらおう。


 魔法によって氷のナイフを作り出し、手のスナップをきかせて投擲する。


 ヒュン! と音を立てながら真っ直ぐ飛んでいったナイフは、恐嚇狼の一体の眉間に突き刺さり仕留めることに成功した。


 やった! 当たった!


 森の中で何回も投げナイフの練習をした甲斐があったよ。


 おっと、どうやら恐嚇狼たちもこちらに気付いたみたいだ。


 新しい獲物が増えたと思って一斉に襲いかかってくる恐嚇狼たち。


 まずは数を減らそう。


「『霹靂神(ハタタガミ)』」


 瞬間、十頭の恐嚇狼が青白い雷に貫かれた。


 この『霹靂神』は、シンプルに発動速度と威力を追求したもので、わたしが大多数戦闘用に作ったオリジナル雷魔法だ。


 威力は落としてあるし効果範囲も狭めているけど、本来なら災害級ランクの烈風翼竜(ワイバーン)でも一撃で消し炭に出来るし、効果範囲は目視できる敵全てという使い勝手のいい魔法。


 なら、ナイフなんて投げずに最初からこの魔法を使えば良かったんじゃない? って思うかも知れないんだけどそうじゃないんだよね。


 「小さい武器を使い」、「最小限の動きだけで」、「スタイリッシュに敵を倒す」の三拍子がそろっている攻撃がいいんだよ!


 圧倒的な力でもって敵を鎧袖一触にしていくのもいいんだけど、やっぱり、全力を出さずに技術と経験によって圧倒するのの方がカッコいい。


 でも、投擲武器って某忍者漫画とかアニメではおなじみな武器なんだけど、実際にやってみると難しいんだよね。


 多分、もうやらない。


 そして、半分ほどに減った恐嚇狼の方なんだけど、一度にこれだけ多くの仲間がやられたら怯えたり逃げたりしそうかなって思ったら、知性の乏しい低級の魔物のためか、お構いなしに向かってくる。


 まあ、逃げたとしても、今回は教会の子たちのためにも全部倒すんだけどさ。


 わたしに飛びかかったてきた一頭の恐嚇狼を半歩右に避けると同時に、左側の腰に差していた刀を黒い鞘から引き抜く。


「『神威(カムイ)』」


 脇を素通りしていったそいつの胴体は、地面に着地した衝撃で正中線で真っ二つになる。


 よし! ちゃんと戦技も使いこなせている。


 初めは刀に纏わせるマナが安定しなくて斬った対象を爆散させていた『神威』だけど、一週間も練習したら、どんな物でも空を切ってるみたいに無抵抗で切断出来るようになった。


 むしろ、刀を納める鞘の方に気を遣った。


 普通の木を使うと、天帝夜叉(オーガ・ロード)からもらったこの刀に宿っているマナの影響で1分もしないうちに砕けてしまった。


 だから、わざわざ『黎明の森』の最深部まで行って、三日掛けて鞘の材料に使えそうな強い樹木型の魔物を探し回り、更には一日がかりで削り上げ、完成した一品がこれなのだ。


 その強度はミスリル以上で、十分に武器としても使用出来る。


 魔物がもともと黒っぽかったから、完成した見た目が黒塗りの鞘って感じで結構気に入っている。


 そんなことより今は戦闘に集中だ。


 今度はわたしの方から恐嚇狼へ向かっていって、刀の間合いに入ったやつから順番に切り伏せていく。


 10秒もすれば立っているのはわたしだけになり、普通の静かな森――といっても血の臭いが充満しすぎていて普通にはほど遠いが――に戻る。


 うん、魔法も刀もしっかり使いこなせてるね。


 ナターシャさんたちには待ってもらってれば良かったかな?


 こんなに呆気なく片づくなんて思っても――ヤバっ! コレってフラグじゃない!?


「きゃあっ!!」


 わたしの耳に微かな悲鳴が聞こえたのはそんなときだった。



シオン「フラグって平安時代くらいの書物にはもうあったとか古典の先生が言ってたなー。油断大敵ってやつだね! 「まだ一週間ある!」とか言って8月31日によくやったよ。えっ? それは怠慢だって?」

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