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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
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2-8.魔法刻印と魔法付与


 買い物を終えて夕食も食べたので、わたしは与えられている教会の自室にいた。


 一日中子供にひっつかれていたシリウスが疲れたのか床に伏せていていた。


 そしてなぜか、部屋の中にはフェルアがいた。

 養護施設の世話をしている子供たちは眠ったので、彼女はわたしが昼に買った魔法書を読みながらベッドに寝転んでいる。

 本人曰く、わたしの近くにいた方がリラックス出来るらしい。


 わたしはというと、テーブルに開いた本を見ながら、昼間の訓練でも使っていた自作の木刀の一本を削っていた。


 木刀の表面に、本に書かれている通りの模様の溝を、魔法を使って彫っていく。

 溝を掘るのは片面だけで、掘り終わった所に粉末にした魔石と、魔法道具屋で買った安定剤みたいな薬品を混ぜて作った液体を流し込む。


 これはマナを込めると固まる特殊な物で、本によると魔物の血だったり樹液などを調合した物らしい。

 本当なら、しっかりとした機材がどうとか安全面がどうとか配慮する点が盛りだくさんなんだけど、そこのところは魔法を使ってるから完璧だ。


 宙に浮かべだ青っぽい液体を、すこしずつ木刀に掘った溝へと流し込んでいく。

 溝全体に行き渡ったところでほんの少しマナを流すと、液体の色はだんだんと紫色になり、最終的に赤色に変わった。触った感じもガラスみたいに固くなている。


 少し多めのマナを流すと刀身から炎が上がった。



 ふっふーっ、完成だ!


 もちろん、この炎はわたしの魔法ではない。


 わたしが試していたのは魔法刻印と言われる魔法道具などにも使われる技術で、マナを流すことによって魔法と同じ効果が得られるというものだ。


 古本屋で見つけた本の一つに『魔法刻印と魔法付与』と言う物があって、興味があったから買ってみた。


 魔方陣や魔法文字を武具などに刻みつけるのが魔法刻印で、そこに魔石を原料とした液体を流し込んで固めるのを魔法付与という。

 その仕組みは、刻印をすることによって付与させる効果を決め、次に、魔石を混ぜた薬液を刻印に流し込んで刻印の効果を増大させ、マナを流すと強力な効果が得られるというもの。


 例えるなら、攻撃力+〇〇%アップとか、火属性ダメージ〇〇%カットとかの装備が作れるのだ。


 刻印の種類は、武器の摩耗を減らし、切れ味を高い状態に保持する物もあれば、わたしが今作ったやつみたいに武器に魔法と同じ効果を持たせる物もある。

 発動する魔法刻印の強さは、魔法付与の時に混ぜた魔石や薬品のランクによって変わるので、強い魔物から採取した魔石や、希少な素材から精製した薬品を使った物であればあるほど、強力な効果を得られるという訳だ。


 ちなみに、刻印するだけだとマナを流した時の効果はとても薄いため、魔法付与することによって実際の魔法と同じくらいの効果を生み出しているらしい。


 これがあれば、絶対に壊れない剣とか何でも斬れる刀とか、果ては魔剣とか聖剣なんて作れたりして!

 

 「って熱っ! あっつい!」


 燃えてる!? 木刀燃えてるんですけど!!


 持っていた木刀の柄から急いで手を離して、炎が部屋に広がらないようにすぐに消火した。

 身体は丈夫だから火傷はしなかったんだけど、めちゃめちゃ熱かった。


 「何やってるの?」

 「魔法刻印と魔法付与をやってみたんだけど木刀が燃えたんだよ」

 「保護系の刻印は?」

 「ナニソレ?」

 「発動した魔法から武器と使用者を守ったりするやつ」


 本の索引を開いて調べてみる。


 ……ホントだ。

 『魔法系の刻印をした場合、保護系の刻印をしなければ武具が壊れたり、使用者に被害が及ぶことがある』。

 しかも、開いていたページの一つ前、『刻印によって武器に魔法効果を持たせる場合の注意点』っていう所に思いっきり書いてあった。


 やっぱり、こういうのは順を追って、比較的簡単なのからやっていくべきだったか。

 なんかカッコいいのがある! とか思っていきなり難易度高いの選んだのが間違いだったなぁ。


 反省はこのくらいにして次からは気をつけることにしよう。



 炭化した木刀のなれの果てを片付けて、新しい木刀をマジック・バックから取り出す。


 今度は比較的安全そうな基本の刻印、『切れ味強化』の刻印を試してみる。


 「ふーん、こんどは『切れ味強化』の刻印?」

 「そうそう。これなら安全そうだからさ」

 「確かにね。ちょっと良い包丁とかにも使われてる一般的な刻印よ」


 料理にも使ってるんだ……。武器にしか使われていないと思ったら、結構身近なところにもあってびっくりした。


 気を取り直して、ローマ字の親戚みたいな魔法文字を木刀に彫っていき、さっきと同じように薬液を流し込んで、軽くマナを流して固まらせる。


 うん、普通に完成した。これの試し切りは……同じ木刀でいいか。

 マジック・バックから素の木刀を取り出して左手に持ち、床と平行になるよう横に構えたら、右手に持った魔法付与のしてある木刀をそこに振り下ろしてみた。


 「ちょっと離れててね」

 「分かったわ。安全第一でね」

 「今度は大丈夫でしょ。せーのっ!」


 ――ガツッ!


 「ひっ!?」


 打ち合わせた瞬間に左手の木刀は抵抗なく、それはもうあっさりと斬り飛ばされる。

 クルクルと宙を舞った切れ端はフェルアの顔面すれすれを飛んでいき、部屋の壁に音を立てて突き刺さった。


 驚いた彼女は思わず悲鳴を上げる。


 「何考えてるの!? 危ないでしょ!」

 「ご、ごめんなさい。まさかこうなるなんて」

 「絶対狙ったよね! 私は貴女の後ろにいたんだよ!?」

 

 そうなのだ。

 フェルアには破片とかが飛ばないように、わたしの後ろにいてもらったはずだったのに、なぜか木刀の先端は狙い澄ましたように彼女の方に飛んでいった。


 普段はお姉さん気質で優しいフェルアも、怒るときは怒るんだな~。

 でも、これは完全に事故だ。


 「ちょっと! わたしの話、聞いてるの!」

 「はい、聞いてます」

 「大体ね――」


 その後、わたしは30分ぐらいフェルアに説教をされ、危ないことをするなら外でやるように言われた。

 この世界にも正座ってあったんだ。足のしびれを取るために回復魔法を掛けることになるとは思わなかったよ。


 最後に、壊した壁は魔法で直したことと、怒ったフェルアは怖かったこと、フェルアには今回の件が事故だと分かってもらえたことを追記しておく。


シオン「くっ、木刀が切れたせいで……!」

切れたた木刀「解せん」

フェルア「シオン、聞いてるの!」

シオン「スミマセン……」

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