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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
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2-4.翡翠色の少女


 「幻術?」


 わたしに声を掛けてきたのはわたしと同い年くらいの少女――この養護施設で唯一のエルフの少女だった。

 その証拠に、セミロングに伸ばした翡翠色の髪の間からは少し長めのとがった耳が覗いてる。


 リヴァレンの町で泊まった宿、『ガルダの塒』の女将のエルダさんもエルフで綺麗な人だったんだけど、この子はそれ以上かもしれない。


 太陽の光を反射する白い肌と人形のように整った容姿。

 顔も美人さんだしスタイルも良くて、元の世界ならスーパーモデルのトップとかにいそうだ。


 そして、長いまつげの奥でぱっちりと開かれた金色の瞳が、真っ直ぐ、わたしの心を見透かすように見つめている。



 ていうかなぜばれたし!


 今回の変装は魔法による幻術も変声に加え、獣人族(セリアンスロープ)対策として体臭も消している。

 言葉だって標準的な丁寧語だから違和感はないはずだし、ばれる要素は一つも無いはずだ。


 一応、誤魔化してみるかな?


 「言ってる意味が――」

 「あなたは女の子でしょ。銀髪のロングで、歳は17歳くらい」


 ……完全にばれてるじゃん。


 これって認めるしかなくない?


 「はぁ、どうして分かったの?」

 「そういうのはわたしには効かないわよ」

 「魔法のこと?」

 「そう。だからあなたの姿も見えるわ」


 ナニソレ……。


 先天性スキル(ギフト)とかって言ったりするやつかな?


 でも、ここはファンタジー世界であってファンタジーゲームの世界じゃない。

 レベルもないしスキルもないから、努力や経験によって剣捌きだったりの技術、多くの種類の魔法が使えるようになったり、マナが増えたりするといった結果でしか現われない。


 つまり、実力差のある相手の魔法を破るには、よっぽどの事が無い限り不可能ということだ。


 相手がメチャメチャ油断しているところに不意を突いた一撃とか、苦手な魔法に対して自分の得意な魔法を使うとか。火事場の馬鹿力なんて都合がいいことはほとんどない。


 こんなところ――と言っちゃ悪いんだけど、この子が魔法に長けたエルフということを加味しても、どの町にもありそうなありふれた孤児院の少女がわたしよりも強いなんて考えにくいんだよね。

 確かにわたしは無意識で幻術を維持しているけど、そう易々と見破られるものでないと自負している。なんたって天才魔導士だからね!


 ――いや、マナや魔法なんて地球では非現実的なものがあるファンタジー世界だからこそ、わたしの姿を見破れたのかも。


 物理現象よりも優先される上位法則のある世界なんだから、神秘的な事の一つや二つあっても何ら不思議じゃない。


 どちらかというと超能力っていうようなものだけど、あながち天性の才能(ギフト)というのも間違いじゃないかもしれないね。


 「それで、わたしに何か用があるの?」

 「特にないわよ?」


 あれ?


 てっきり「ばらされたくなかったら金寄越せ!」的な三流ドラマの展開か、それに近いものを想像したんだけど?


 「じゃあなんで話しかけてきたの?」

 「なんとなくあなたと話してみたかったの」

 「うん?」

 「この孤児院には私と同い年の女の子はいないでしょ? いつもはお姉さん役ばかりだから、たまには気兼ねなくお話をしたいのよ」


 なるほど。

 普段は小さい子供たちの面倒を見ているから、わたしみたいな同い年の女の子と女子トークがしてみたかったと。

 それって楽しそう……あれ? クラスの女の子と最後に話したのっていつだっけ?

 確かアレは中学の頃だった気がする。


 どうしよう。すっごい目を輝かせてるから、いまさら断りづらい。


 「あんまり面白い話はできないかもよ?」

 「いいわよ。他愛ない話でもきっと楽しいわ。私はフェルア、よろしく」

 「朝食の時に聞いてたと思うけど、わたしはシオン。よろしくね、フェルア」


 クリスたち五人の練習を見ながらフェルアと話す。

 彼女はおっとりした感じのお姉さんタイプで、話し方はどことなくナターシャさんに似ている。


 「そう言えばさ、子供たちの面倒は見なくていいの?」

 「ああ、それならシリウスちゃんに見てもらってるから心配ないわ。だから私は休憩中」


 そう言って見せてくれたのは国語辞典サイズの分厚い本だった。

 どうやら養護施設の本棚にあるものらしい。


 表紙に複雑な魔方陣が描かれているこのタイトルは『魔と魂魄と精神の執行者』。


 イラストから魔法に関する参考書とかかなと思ったら、思いっきしヤバめなタイトルなんですけど……。


 「それ、何の本?」

 「魔法書よ」

 「そうなんだ……」

 「読んでみる?」


 わたしの魔法については完全にオリジナルだから、この世界の魔法の考え方とかについて興味が無いと言えば嘘になるんだけど、それ以上にタイトルが悪い意味で気になる。


 渋々フェルアから本を受け取ってページを開く。


 なになに~、『魔法とは、マナ、オド、エーテルを媒介として、火、水、風、土、雷、光、闇の基本属性を操り、果ては人間の精神、魂までも操り「パタン」』。


 わたしはそっと本を閉じた。


 マナ以外にオドとかエーテルって言うのが出てきたし、なんか魔法の概念的な事が書かれているようなんだけど、最後の方がいただけない。なんかめちゃくちゃ危ない感じがした。


 精神操ったり魂操ったりするのって、どこぞの終末思想持った秘密結社のやりそうな事じゃん!

 人間の作り方とか悪魔召喚とか、いかにも禁忌! みたいなのは載ってないよね?


 「コレの内容分かってる?」

 「面白いわよ」

 「本当に?」

 「……基本的に魔法の考察とかが書かれてるだけで危なくないわよ」

 

 最初の間がものすごく気になるんだけど……。

 まあ、本当に危険な本ならナターシャさんも貸さないか。


 もう一度本を開いてみる。


 『マナは人間種や魔物の持つ生命エネルギー、オドは悪魔などの持つ存在エネルギー、エーテルは天使などのもつ神聖エネルギーであり、マナの上位エネルギーであるオドの場合は呪術系、エーテルは浄化系に優れた性質を持つ』


 『魔法とはマナなどを対価に自分の願いを叶えるものであり、マナに適正のある魔物、悪魔、天使は基本的に無詠唱で魔法を行使でき、それに伴い特殊な性質を持つ者が多い』


 『魔法の威力、規模、性質は行使する者の意志の強さによって決まる。そのため、火魔法で水魔法を打ち消す、下位の魔法で上位の魔法を相殺するといったことは可能であるが、本来の物理法則から離れるほど消費するマナは多くなる』

 

 あれ? 結構分かりやすくない?

 

 ざっと読んでみると、魔方陣の仕組みや詠唱の仕組み、属性に規模に効果といった幅広い内容について書かれているようだった。


 タイトルと書き出しの物騒な記述に反して、説明は比較的理解しやすいし、ところどころでイラストを入れたり解説も細かく書かれているのでとても分かりやすい。


 「どう?」

 「結構面白いね」

 「このページに書いてある『光魔法について』なんてオススメよ」

 「ん? どれどれ――」


 その後はお昼ご飯の時間になるまでフェルアと魔法書を読んでいた。


 わたしと話す彼女は屈託無く笑い、本当に楽しそうだった。


フェルア「何時から自分の魔法が見破られないと錯覚していた?」

シオン「なん……だと……」


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