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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
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2-3.小さな冒険者たち


 ふぅ、疲れる食卓だった。


 今は食器洗いなど朝食の後片付けをして教会前の庭に出ている。


 あの後も結局子供たちからの質問攻めに遭い、ゆっくりとご飯を食べられなかった。

 途中でナターシャさんが仲裁に入ってくれなかったら、食べ終わるのに1時間はかかっていたかもしれない。


 「「「わー!」」」

 「まてー、シリウスー」


 年少組の子供たちはシリウスと鬼ごっこをしてもらっている。

 普通、シリウスが鬼役なんじゃないの?


 一部の年長組は年少組の子供が怪我をしないように見てもらっている。


 そして、わたしと冒険者をしているという子供たちは、遊んでいる子供たちからちょっと離れたところで訓練をすることにした。


 集まったのは五人。


 男四人と女一人で種族の内訳は、男の子は三人が獣人族、あとの一人と女の子の二人は人族だ。

 彼らには冒険者として活動する時の服装で来てもらった。


 「それじゃあ、自己紹介からしよう。私の名前はシオンだ。一応白金級冒険者で歳は十七。君たちに冒険者としてのアドバイスをすることになった。剣と魔法の両方を使える」


 まずはパーティーの中で誰が何を担ってるのか知りたかったので自己紹介から始めることにした。


 「僕はクリス、役割はタンクかな? 戦闘では指示もだしているよ」


 最初に自己紹介をしたのは養護施設の中の最年長者、人族のクリス。


 手に持っているのは一般的な長剣(ロングソード)と木製の円盾(ラウンドシールド)だ。

 彼の身長は170センチ後半で、すらっとした体型ながらも筋肉はついているし、話した感じからして理知的で真面目そうな印象を受けた。


そして、塩顔の爽やか系イケメン!


 まあ、わたしのタイプじゃ無いけどね。


 「ポールだ。武器は槍を使う」


 次は狐の獣人族であるポール。


 槍は1メートル半くらいの短槍で、木製の軸の先端に鉄製の穂がついたものを使っている。

 身長はクリスくんよりもちょっと低いぐらい。


 寡黙な感じで日本にいた時のわたしを彷彿とさせるしゃべり方だよ。


 わたしって偏差値五十切るぐらいですごく頭が良いいわけじゃないのに、何か頭が良さそうって勘違いされてたんだよね。


 教室にいる時は本を読みながら話しかけるなオーラ出してたのが原因かな?

 もちろん、参考書とかじゃなくてラノベだったけどね!


 「ニールです。斥候をしていて武器は短剣です」


 ニールは人見知りな感じの猫の半獣人。


 わたしと同じくらいの小柄な身長で、刃渡り30センチくらいのナイフを腰に差している。


 「マリアンヌよ。魔術師で、得意なのは火と雷の魔法よ!」


 四人目はちょっと勝ち気な人族の女の子、マリアンヌ。


 他の子は革鎧姿なのに、この子だけは魔術師っぽいローブを着ている。

 身長は、わたしやニールくんより拳一つ分高いくらいだ。


 なぜかこの子を見た時に、失礼ながらじゃじゃ馬という言葉が浮かんだんだけど、多分あってる気がする。


 そして最後に――


 「ニコラだ! 武器は片手剣! 言っとくけど俺よりも弱い奴の指示には従わないからな!」


 来ましたよ、問題児が。


 狼の半獣人族のニコラ。


 さっきからこっちをずっと睨んできてたから、そうなるんじゃないかと思ってたよ。

 典型的なやんちゃ坊主で、クラスに二、三人いるようなやつだ。


 生意気言ってくれるじゃん。

 こういう奴はさっさと上下関係を刷り込ませるに限る。


 「よし、ニコラ。それなら私の作った大地の偶人(アース・ゴーレム)を倒すことができたら自由に行動していいぞ」

 「はん! 俺がそんな土の塊に負けるわけないだろ!」

 「よく言った。何ならそこら辺で遊んでいてくれ」


 わたしは無詠唱で人型の魔導土人形を一体作り出してニコラと戦わせる。


 一応、銀級冒険者程度の強さで手加減はするように命令しているから、怪我をすることはあっても死ぬことはないだろう。

 万が一大怪我をしてもわたしの魔法薬(ポーション)で治せるしね。


 「む、無詠唱であれだけ早くアース・ゴーレムを作った?」

 「どうした、マリアンヌ?」

 「シオンさん、いいえ、これからは先生と呼ばせて下さい! いったいどうやったら無詠唱で魔法を使えるようになるんですか!?」


 若干ニコラみたいな空気を感じていたマリアンヌがメチャメチャやる気になってきたんだけど……。

 変なスイッチ押したかな?


 いや、面倒ごとが一つ減ったんだから結果オーライだろう。


 「どうした?」

 「どうしたもこうしたもありませんよ! 無詠唱と言ったら一流の魔術士、魔導士としての証ですよ!」


 そ、そうだったんだ。


 でも、魔導士って響きはいい。


 魔を導き、修めた者と言う意味で魔導士。

 ゲームや小説とかだとかなり強くて、国に数えるほどしかいないとかの設定があるあれでしょ!


 カッコいいじゃん! 


 よし、これからは魔導士って名乗ることにしよう。名乗る機会があるのか分からないけど。


 「じゃあ、マリアンヌは無詠唱の特訓をするとしようか?」

 「はい! シオン先生!」

 「その間にクリス、ポール、ニールの三人はこれの相手をしていてくれ」


 わたしはもう一体、狼型の魔導土人形作る。


 こちらはニコラのものと違って銅級冒険者と同程度の強さだが、素早い動きをするので連携した攻撃が重要になってくんだけど、三人なら余裕で勝てるだろう。


 戦い始めたのを見届けてから少し離れたところに行き、マリアンヌと向き合った。


 「教えること、と言っても私自身は初めから無詠唱ができたからあまり教えられることも無さそうだけどね」

 「そんなことありませんよ! 魔導士の人が直々に教えて下さる機会なんて滅多にあるものじゃないです!」


 瞳をキラキラと輝かせながら捲し立てるマリアンヌ。

 これだけヨイショされると悪い気もしないね!


 「じゃあまずは魔法を使ってみてくれるかな?」

 「はい! 『炎よ、その熱を以て我が敵を討て! ――』」


 マリアンヌが詠唱するとその手元に薄い魔方陣が現れ始める。

 赤く光るそれは、最終的に直径30センチくらいの円になった。


 「『――ファイヤーボール!』」


 空へと掲げられた手から炎の球が放たれた。

 緋色のに輝くそれは上空3メートルほど飛翔すると、だんだん小さくなり消えてしまった。


 「どうでしたか、シオン先生!」

 「威力は十分にあるんだけど、マナの効率が悪いね。イメージが十分に固まっていない分をマナで補っていると思う」

 「はい、だからすぐにマナが切れてしまうんです! どうして分かったんですか!」


 やっぱりね。


 確かに、詠唱をした方が魔法の威力も安定性も高い。

 でも、無詠唱だって詠唱ありの時と同じ威力が出せるし、複雑な魔法も扱える。


 つまり、詠唱とはこれからどんな魔法を使うかという下書きみたいなものだ。

 だから、どんな魔法を使うのかしっかりイメージ出来さえすれば、無詠唱で魔法は発動できるはず。


 こればっかりは元々の才能があるか練習して身につけるしかないが、マリアンヌくらいの歳なら詠唱に慣れてしまっている大人と違い、比較的簡単にできるだろう。

 現に、リヴァレンの町にいた魔術師の人だって、威力は低いけど無詠唱を使える人がいたしね。


 「魔方陣が少し薄い色をしていたからね。無詠唱もイメージが重要になるから、どういう魔法を使うのかしっかり思い浮かべることから始めようか」


 わたしはマリアンヌが使ったのと同じくらいの大きさのファイヤーボールを宙に浮かべた。


 「これを瞼に焼き付くぐらい眺めてイメージを固めてみようか。色や形、熱さとかを思い浮かべて、コツが掴めてきたら詠唱を短くしていけばいいよ」

 「はい!」


 早速わたしの出したファイヤーボールを凝視するマリアンヌ。


 さて、クリスたち三人は――


 「ポール、一旦下がれ!」

 「おう!」

 「ニールは僕が攻撃を受け止めたら側面から攻撃」

 「はいぃ!」


 狼型の大地の偶人(アース・ゴーレム)の隙をついてポールが攻撃、反撃しようとした所をクリスが防いで、がら空きになった側面からニールが攻撃する。

 アース・ゴーレムもスピードを生かして攪乱しようとするが、三人は1カ所に固まっているのでなかなか隙が見つからないようだ。


 このタイプの動物型の相手をするのならお手本といっていいような堅実な戦い方だろう。


 終始そんな感じで10分ほどもすると魔導土人形は土の塊に戻った。



 「どうだったかな、シオン君?」

 「まずはクリス。君の指示は間違っていないし的確だった。でも、一人一人の行動に指示を出しすぎだとも思う。ポールも動きにくそうだったし、ニールの方は無理矢理動かされてる感じだったね」

 「なるほど、僕の言葉のせいで個人の長所が生かしきれていないのか。分かった、もう少し指示は減らすようにするよ」

 「次にポール。動きは良かったけど槍だからって突き技が多い。頭部への打撃とか足への薙ぎ払いみたいな技も効果的だ」

 「打撃と払い……次からはやってみよう」

 「最後にニール。魔導土人形の動きがよく見えていた。けれど、相手からの反撃が怖くてなかなか攻撃ができていなかったね。接近戦が怖いなら弓とかを使った方がいいかもしれない」

 「わかりました」

 「さて、ニコラはどうなっ「うおーっ!?」たかな?」

 

 直後、ドサッ!と言う音がしてそちらの方向を見ると、ニコラが地面にうつ伏せになって倒れていた。


 大方、無謀な突撃をしたニコラが攻撃を受け止められて、隙ができたところをアース・ゴーレムに捕まり、投げ飛ばされでもしたのだろう。


 「こんなの反則だ!」

 「土の塊に負けるわけないっていったのは君だろ?」

 「あんなのに勝てるわけないだろ!」

 「はぁ、じゃあ何だったらいいんだ?」

 「勝負だ! 俺と一対一で勝負しろ!」

 

 やっぱりそうきたか……


 



 ◇




 

 「これより、シオン君とニコラの模擬試合を始める。二人とも、準備はいいかい?」

 「あぁ……」

 「おう!」


 武器はわたしが遊びで作った木刀だ。


 魔法の練習と戦技、『神纏(かてん)』の練習のために大量に作ったんだよね。


 材料はマナが豊富な『黎明の森』の木を使っているので、鋼鉄の武器と打ち合えるくらいの強度がある。


 そんな頑丈であるはずの一品なのに、わたしのマナが多いせいか、流したマナが乱れたりすると簡単に壊れたんだよね。


 目の前で木刀が爆発した時はほんとびっくりした。


 「始め!」

 「でえぇぇやぁぁぁあっ!!」


 そんな失敗談を思い出していると、審判役のクリスが試合開始の合図をして、同時にニコラが突っ込んできた。


 こいつ、脳筋だ。


 木刀を思いっきり振りかぶって走ってきたので、その額を軽く小突いてやった。


 「痛って~!」


 地面をのたうち回るニコラ。


 「勝者、シオン君!」

 「まて! 俺はまだまけてねぇ!」

 「あんたねぇ、誰がどう見ても勝負がついたでしょ」


 額を抑えながらも立ち上がり、審判の宣告に反論をするニコラをマリアンヌは呆れた様子で眺めている。


 「うおぉぉぉっっっ!」


 馬鹿の一つ覚えみたいに突進するニコラは、わたしに一撃でも当てようとめちゃくちゃに木刀を振り回す。


 なんて言うか……ウザい。


 よくこんなのをクリスは手なずけているなぁ。

 これ以上続けるのも無駄だし、いい加減に終わらせよう。


 わたしは木刀に軽くマナを流してニコラの木刀へと振るう。


 「うわっ!」


 自分が思っていたよりも衝撃が強かったのかニコラは軽く吹き飛び尻もちをついた。


 直後、カランという何かが落ちた乾いた音。


 ニコラが手元を見ると、そこには根元から切り落とされ柄だけになった木刀が握られており、顔を青ざめさせている。


 「これでわたしの勝ちだ。文句ないよね?」

 「わ、分かった」


 よし、これで大人しくなったか。


 「ニコラは後先考えずに突進しすぎだ。思い切りのいいのは評価ができるけど、その後を考えてから行動しないと、いつか大怪我するよ?」

 「お、おう」


 ずいぶんとしおらしくなったじゃん?


 最初からこうだったら良かったんだけど、まあ、わたし自身強そうに見えないからね~。


 「じゃあ試合も終わったことだし、次は四人で魔導土人形の相手をしてみよう。それぞれが注意されたところをしっかり意識してね」


わたしは少し離れたところで五人の練習風景を眺める。


 「――何で姿を隠してるの?」


 そんな問いがかけられたのはわたしが木陰に腰を下ろした時だった。


マリアンヌ「シオン先生!(キラキラ)」

ニコラ「俺より強くないと認めないからな!」

シオン「(どっちもめんどくさい……)」

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