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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第二章 ~嘆く少女のアウフヘーベン~
31/96

2-2.アンガルの町の教会


 教会の中は比較的綺麗だった。


 柱や床に使われている木は古いものだがしっかりしている。

 壁に掛けられている絵はここの子供が描いたもののようで、教会の建物とナターシャさんと子供たちが描かれている。


 「シオンさんは何をしている方なのかしら?」

 「冒険者をしています」

 「わたしは冒険者に詳しくはないのだけど、ランクはおいくつなの?」

 「白金級です」

 「まあ! 若いのにご立派ね」

 「それ程でもありません。こいつもいますしね」


 そういってシリウスを指す。

 実際、シリウスは採集系の依頼の時は素材をすぐに見つけてくれて大活躍だしね。


 「謙遜しなくてもいいのよ? 子供たちの何人かも冒険者をやってここを支えてくれているのだけど、最初の頃はみんな怪我をして帰ってきたものだわ」

 「よろしければ、私が何かアドバイスをしましょうか?」

 「いいの? それならお願いしようかしら。あの子たちにとっても安全が第一だものね」


 雑談をしつつ短い廊下を抜けると小さい礼拝堂らしい所に出た。


 大きめのテーブルが四つ、中央に集められていることから食堂も兼ねているのだろう。


 部屋の1カ所には一段高くなっているところがあって、そこには胸の前で手を組んだ女の人の像がある。

 窓から差した月の光が当たっているそれは、どこか神々しい雰囲気を纏っている。


 「ここはどんな神様を信仰しているのですか?」

 「特にこれといった神様を信仰している訳ではないの。強いて言うなら自然かしら?」

 「自然、ですか?」

 「ええ。日々生きられることに感謝するのがここの教義みたいなものね」


 アニミズムみたいなのかな?

 万物に神様が宿っているのだ~、ってこれは八百万の神で別物だったっけ?


 「神様の名前ってあるんですか?」

 「あるのかしらね? 基本的に()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「そうなのですか?」

 「ええ。どこの教会でも神様の名前を使うことは禁じられているの」

 「不便じゃないんですか?」

 「そうでもないのよ? 冒険者だったら戦いの神様、商人だったら商売の神様といった風に信仰しているわ」


 あれ?珍しいな。

 宗教で信仰を集めるのには名前って重要だと思うのに。


 案外、神様の名前を言うなんて恐れ多い、みたいな理由だったりしてね。


 「どうぞ。大したものじゃないけど、芋のスープよ」

 「ありがとうございます」


 椅子に座っていたらナターシャさんがスープをよそってくれた。

 わたしはお礼を言ってそれを受け取り、湯気の立つそれをスプーンですくって一口飲む。


 温かい。


 具材も少なく本当にシンプルなものだが、素材の味がしっかり出ていて作った者の真心が感じられる。


 「シオンさんはここにはどのくらいの間いる予定なの?」


 スープを食べ終えるとナターシャさんが聞いてきた。


 うーん、どうしようかな?

 王都への旅の途中だけどオークションまでは時間がある事だし、孤児院の子供のためにも何か手助けをしたいな。


 わたしならここの財政を立て直すだけのお金をポンと出せるんだけど、それはそれでなんか違う気がするんだよね。


 「一週間ほどいてもよろしいですか?」

 「いいわよ。その間は子供たちをよろしくね」

 「分かりました。それとこれは滞在の費用と言うことで」


 わたしは銀貨を一枚、ナターシャさんに渡した。


 宿は銅貨五枚ぐらいが相場なんだけどちょっと色を付けておく。


 「こんなにも受け取れないわ。子供たちに指導して下さるだけで十分よ?」

 「では、孤児院への寄付としてお受け取り下さい」

 「でも……いいえ、分かったわ。じゃあ、ありがたく戴くことにするわ」


 ナターシャさんは最初は渋っていたけどしばらくすると折れてくれた。


 「部屋に案内するわ、着いてきてちょうだい」


 食器を洗い終わったナターシャさんが、わたしの泊まる部屋に案内してくれる。


 入ってきたのとは別のドアを開けると、長い廊下があった。


 「ここが私と小さい子たちの部屋で、隣の二部屋が少し大きな子供たちの部屋。突き当たりの扉はトイレだから、シオンさんには奥の二部屋の内のどちらかを使ってちょうだい」

 「分かりました。お休みなさい、ナターシャさん」

 「ええ、お休み、シオンさん」


 そう言ってナターシャさんは部屋に入っていく。

 中は暗く静かだったので、子供たちは眠っているのだろう。


 さて、わたしも眠ろうかな。


 そう思って一番奥の部屋の扉を開けた。

 部屋はベッドが一つだけの簡素なものだったが、埃はなくてしっかりと掃除がされていた


 「シリウス、ご飯だよ。遅れちゃってごめんね」


 腰のポーチの中から肉と野菜、それに果物を出して皿の上に乗せてやり、もう一枚の深皿に水をついでやる。


 遅めの夕飯を食べ始めたシリウスを横目に、わたしはクーロゼットからシーツを取り出す。

 ちょっと年季が入ったものだけど虫食いの跡はない。


 簡単にベットメイキングをして横になってみる。


 う~ん、なかなかの反発。


 ここの経営の手伝いをするとして一体何ができるだろうか?

 この世界って結構生活水準高いんだよね~。


 食文化も発展していて、機械のない代わりに魔法道具で大抵のことは代替している。


 教会っていたら歌とか音楽かな? 名前は忘れたけど聖歌隊なんてのはあった気がする。

 一度町に行って楽器とかを見てみるか。


 もしかしたらいろんなものを見ている内に思いつくことだってあるだろうしね。


 「グァン」

 「食べ終わった? じゃあ片付けるね」


 空いた皿を魔法で洗って、汚を取った水を蒸発させる。


 滞在している間に冒険者をしているって子たちに魔法でも教えようかな?

 冒険者を志している子の剣術や体術、獲物の狩り方とかが上達して収入が増えれば、ここの財政面も助かるだろうしね。


 「おやすみ、シリウス」


 ローブを脱いで楽な服装になりシリウスに毛布を渡す。


 少し硬めのベッドだったが野宿の時の寝袋よりは断然心地よく、わたしはいつの間にか夢の世界へと旅立っていった。





 ◇




 朝だ。


 窓から差す朝日と小鳥の鳴き声で目が覚めた。

 髪を軽く湿らせたら鏡を見ながら櫛を使って梳かす。


 その間にシリウスには朝ご飯を食べていてもらった。


 着ていた服を魔法で洗ったら新しい服に着替え、身支度を整える。


 髪型よーし、服装よーし、魔法を使った変装よーし。


 ここなら変装しなくていいかもしれないんだけど、ナターシャさんに会った時には幻術かかってて男の子の姿だったし、日頃からこっちの姿でいた方が面倒ごとも少なくて楽だろうしね。

 それでも、無意識で魔法は維持できるようになったから、フードくらいは下ろしておこうかな。


 部屋を出て食堂に向かうと子供たちがいた。

 子供たちの種族は人族と犬や猫、鳥のといった獣人族や半獣人がほとんどだが、一人だけ女の子のエルフがいた。


 「知らない人だ!」

 「お兄ちゃんだれ?」

 「狼さん!」

 「わーい! 狼さんだ!」


 おお……子供って朝から元気だね。この歳で言うのもどうかと思うけど、なんか老いを感じる気がする。


 きゃっきゃとはしゃぎ回る子供たちをまとめようとエルフの少女が悪戦苦闘している。この孤児院のお姉さんみたいな存在だ。

 1人の子を席に着かせても他の子が立ち上がってしまい、その子を座らせようとする間に最初の子が席を立ってしまったりとイタチごっこだ。


 こう言っちゃ悪いんだけど、エルフの子があたふたしている様子は結構かわいい。


 それにしてもシリウスは怖がられていないな。

 むしろ子供たちに集られていて、頭や背中を撫でられたりとすごい人気だ。


 「クゥン……」


 シリウスがすがり付くような目でこちらを見てくる。


 ごめんよ、シリウス。朝ごはんが出てくるまでの子供たちの相手は任せた。

 流石にそのパワフルさの塊みたいなのを相手にするのはわたしには無理だ。


 「おはよう、シオンさん。ご飯を運ぶのを手伝って下さる?」


 ナターシャさんと年長組の子供たちが朝ごはんを温め直したりしている。


 メニューは昨日と同じスープとパンとサラダだが、量が二十人分くらいあるので大変そうだ。


 わたしもパンを切ったりサラダをちぎったりするのを手伝ったが、全ての準備を完了するのに五分ほどかかった。


 「みんな、食べる前にお祈りをするわよ」


 全員が席に着いたところでナターシャさんがそう言った。


 年少組から年長組までみんなお行儀良く、一斉に指を組み合わせ目を瞑って祈りを捧げる。


 わたしもそれにならって祈りを捧げおいた。

 郷に入っては郷に従えとも言うし、食事の挨拶をサボるのは小さい子供の教育に悪いしね。


 「それじゃあ、冷めないうちに戴きましょうか」


 それが合図となって食事が始まる。


 さっきまでの静けさとは打って変わって、食卓は賑やかなものとなった。


 「ねーねー、おにいちゃんはなんでここにきたの?」


 隣の席に座っていた人族の女の子が話しかけてきた。


 「王都に行こうとしていたんだけど泊まるところがなくてね、ナターシャさんに言って泊めさせてもらってるんだ」

 「院長先生、やさしー!」

 「あのおおかみさんってなんて名前なの?」

 「おにいさんは何をしてる人なの?」


 おぉ、一人の子供の相手をしている間に二人三人と会話に入ってくる。


 院長先生――ナターシャさんと年長組の子供たちはこちらの様子を微笑ましそうに見ている。

 どっちかっていうとフォローが欲しいです。


 「狼さんはシリウスって言って、私は冒険者をしているよ」

 「冒険者!」

 「すごーい!」

 「魔法は! 戦技とか使えたりするの!?」

 「シリウスも戦うの?」

 「怪我とかしない?」


 話が終わらない!

 

 「ちょっと待って! 食べ終わったら……そう! お話は食べ終わったらにしよう!」

 「「「えー!」」」

 「つまんない」

 「もっとお話しよ!」

 「分かったから腕つかまないで! 後で庭に出て魔法を見せてあげるから!」

 「「「やったー!」」」

 「「「わーい!」」」


 ふぅ、やっと離れてくれた。

 シリウスもこんな思いだったのかな。


わたしは次の質問が来る前に、急いでスープを流し込んだ。


子供たち「「「あそんでー!!!」」」

シオン「はいはーい(君たち、めっちゃパワフルだね)」

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