初めての魔法(1)
……まあ、ステータスなんてどうでもいいんだけどね!
大体ステータスってなによ。
RPGみたいなゲームの世界じゃないんだから、そんな具体的な数字なんて出されても……ねぇ?
HP?MP? ここまでは大抵は共通だ。
でも、STRかATKかハッキリしなさいよ!
さには、よく分からんLUK値なんてもんもあるしさ。あんなもの、物欲センサーの前になんと無意味なものか。
大体ゲームなら良いけど現実で「わたしのHPは一万超えさ」みたいなことやられても、何か違うとしか思わなし。てか頭沸いてるとしか思わないし。
べっ、別に期待なんかしてなかったんだからね!
そう、あれよあれ! あくまで確認って奴だよ!
上がってくレベルを見ながらニヤついたり、STRガン上げして街の荒くれ者に絡まれたときに「フッ、こんなものか?」とか言って返り討ちにしてやりたかったとか全然無いんだから!
そりゃあVRゲームの世界に転生したっていう設定ならステータスはアリアリのアリだけど、ココは剣と魔法のファンタジー世界(仮)。
そこにゲームの話を持ち込むのはどうかと思う。
レベルやステータスは隠し要素的なもので、モンスターを倒したり修行したら少しずつ上がるけど、強さを図れるのは達人クラスにしかできないもの、っていうリアリティーさがいいのよ!
それを「剣術」スキルを取得したからって急に剣技が冴え渡ったりなんかして、何10年と戦ってる冒険者の皆さんに失礼じゃない!
そんなにポンポンレベルが上がってたら、最前線で活躍している人たちはとっくにレベル1000とか、下手したら神様になってるわ!
それに、主人公が神になる的な設定もどうかと思う。
そんなヤツに限って本気を出さないとちょっと強めな普通のモンスターや人間に苦戦するし。
神様になったんなら超常パワーでオーバーキルもいいところな一撃を放ってさっさとモンスター倒しなさいよ!
……今回はこのぐらいにしておいてあげよう。
そう、せっかくの剣と魔法の世界(暫定)に来たんだ。
次にやること、そうソレは──
──魔法!
手のひらや足元に現れる魔方陣!
一人で軍隊を薙ぎ払うような圧倒的威力!
そして、カッコいい詠唱!
無詠唱とかもあるけど一番カッコいいのは詠唱短縮だよね。
短い決め台詞や技名と共に放たれた魔法が敵を一撃で倒す……カッコいい!
火魔法に水魔法、回復系や防御系、忘れちゃいけない補助系に珍しい所では空間や時間なんていういろな属性がある魔法。
炎に体積はないから、『ファイアボール』とかが当たった敵が吹き飛ぶのはのはおかしい、とか、人間に空間や時間が操れる訳ない、とか、そんなアンチ勢はどうだっていい。
第一、それは根本的に間違えている。
常識を前提に考えるのは理科や科学であって魔法ではない。
そんなものはファンタジーの名の下には無意味なのだよ!
現実には魔法なんて存在は確認されていないだけで、限りなく無いもの、いや、無いということは本心では分かっている。
それだからこそ、創作の中に登場する魔法は輝いて見える。
夏の暑い時だからアイスが美味しく感じるアレみたいな感じ!
……ちょっと違う気がする。
とにかく、魔法は人間にはたどり着くことも扱うことも出来ない超常の神秘。
それを自由自在に扱えたならば、なんてことは誰しもが一度は想像するだろう。
だからわたしは魔法を試しちゃうもんね!
その中でも断トツで火魔法! 手のひらからド派手な炎を出すなんてやってみたかったんだ。
そうと決まれば早速やってみよう!
おっと、森の方を向いてたら万が一ってこともあるし、湖の方に向いておこう。
まず、魔法を使うのには魔力とかが必要かな?
自分の内側とかに意識を向けてみると分かる、ってのがラノベだとかの定番だよね。
うーん……うん? これかな?
なんか血の流れとは違う別のものが身体中を駆け巡っているのが分かる。
一応コレを暫定魔力と呼ぼう。
魔力に対してもっと意識を集中させてみる。
これは……生命エネルギー?
心臓とか脳とか、どこかの臓器から生み出されてるんじゃなくて、文字通り身体の奥底から――魂のような深い部分から湧き上がってきているように思える。
それにしても流れが不安定だ。
所々強い部分もあれば弱い部分もあれば、流れる速さもまちまちだ。
しかも、流れている魔力の大部分が身体から溢れ出してしまっている。
とにかく、この流れを一定にさせて……次に溢れ出てる魔力を押さえ込むように……っと、できた。
魔力が安定したお陰か、さっきよりも身体が軽くなった気がする。
じゃあ、準備運動?も終わったことだし、実際に魔法を使ってみよう!
──イメージするのは真っ赤に燃える業火
──全てを焼き尽くすようなそれが右手から放たれる
よし、イメージは固まった。
魔力を手のひらに集めて、それを炎に変化させ、前方に向けて放つように送り出す。
華麗に魔法使いデビューを決めるぜ!
──それは使うべきではなかったのかも知れない
この時のわたしは、カッコつけたセリフと凛々しく響いた声に酔っていた。
1メートルくらいの大きい炎が出ちゃったり、とか完全に浮かれていた。
だけど、そんな浮ついた気持ちも一瞬で吹き飛んだ。
手のひらに現れたのは黒い靄。
輝きを放つ魔方陣や虹色のエフェクトでは断じてない、それどころか光さえ飲み込みそうな漆黒の何か。
少しして靄の中央から墨のような色の炎が溢れだす。
黒色にしては軽い印象を与える色だが、そこから感じるのは思わず背筋が粟立つ冷たさ。
わたしのイメージした炎とは全く違って、光や温かさは欠片もなく、命を奪うという冷徹な意志がひしひしと感じられる。
それが煙のように次々に吹き出し、まるで油に火を着けたみたいに水に燃え広がっていった。
空気も水も近くを通った小鳥も、触れたものは等しく消滅していく。
冷たい炎が水面を走る。
それは湖を覆い尽くさんばかりのスピードで広がると一際巨大な火柱を上げ、なおも勢いを増す炎は辺り一帯を燃やし尽くそうと怪しく蠢く。
そこは正に地獄だった――
愛「まっほう♪ まっほう♪(悲劇の起こる5秒前)」




