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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第一章 ~哮る覇王のレゾンデートル~
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幕間.とある従魔の回想録

シリウス視点です


 私は狼です。

 名前はありません。


 仲間たちは灰色の毛並みなのですが、私は一頭だけ黒い毛並みです。


 通常なら差別されるのですが、私の能力は高かったので群れではリーダーをしています。



 おや? どうやら仲間の一頭が食料を見つけたようです。

 それも大きな熊の死骸だとか。


 近くに人間がいるようですが一人ならば問題は無いでしょう。





 ◇





 ――そんなことを考えていた自分を噛み殺してやりたい気分です。


 と言うかアレは人間ですか!?

 何か禍々しいオーラが見えるんですけど!


 ちょっ! 待ちなさい!


 ここは一旦引きま――って飛びかかるなー!


 あーあー、即死ですね。


 周りにいた仲間たちもようやく事態の深刻さに気付いたようです。我先にと逃げていきます。


 そんなことをしてもこれだけの実力差です。あっという間に追いつかれて殺されるでしょう。


 仕方ありませんね。


 部下の尻拭いをするのは上司の務め。


 相手との実力差も測れない愚か者たちですが、共に生きてきた仲間たちです。


 先走った五頭の非礼を詫び、私一つの首で許して戴けないか交渉してみることとしましょう。


 悪魔が一歩一歩近づいてくる。


 覚悟を決めた後といっても、死ぬのはやっぱり怖いです。


 こんなことなら、もっとお肉を食べておけば良かった……。


 悪魔の腕が私の心臓へと伸びて――


「よしよーし、怖くないよー! あっ、お肉食べる? 熊肉だけど!」


 口調は優しいが、コレは暗に「動くな、然もなくば喉と腹を掻き切るぞ?」と言っているに違いない!


 うかつに動くのは危険だろう。


 一見隙だらけのようにも見えるが、実はコレもわたしに反抗の意思があるのかを確認するための罠。


 指一本でも動かし、襲いかかろうものなら即座に私は息絶えるでしょう。


 くっ、ここは素直にモフモフされるしかありません。





 ◇





 モフモフ~、ああ~、モフモフ~、もっとモフモ――はっ! 


 いけない!意識を呑み込まれる所でした。


 恐ろしいモフモフだった。

 この人間が私に肉を与えようと離れるのがもう少し遅かったら、戻ってくることはできなかったかもしれません。


 たとえ身体は屈したとしても、心までは屈したりしません。


 またモフモフして下さい!


「そうだ! お前わたしと一緒に来る?」


 ひやっ! びっくりした。


 いろいろ考えていたからいきなり話しかけられて驚いてしまいました。



 でもそうですか。


 考えてみるとそれもいいかもしれませんね。


 私なんて、この人間にとっては下等生物。


 私は仲間から上位者と認識され、私自身はその期待に応えるために誰にも頼れなかった。

 いつも群れのことを第一に考えてきました。


 だからこそ、この人間の下位の者に接するような――私に庇護下の者と接するような対応を取るのが新鮮だった。


 最初に見た時は冷酷だとも思ったが、本質はきっと優しい人なのでしょう。


 私は主人へとすり寄ってみる。


 甘えるとは、このようにすればいいのでしょうか?


「あー癒やされる~。カワイイなー、このやろー!」


 主人がまたモフモフしてくれる。


 しばらく私はなすがままになっていた。


 主人も肉を食べ終わると、ふと――


「そう言えば、お前の名前を決めないとね」


 そんなことを言いました。


 しかし、最初はひどく機嫌の良かった主人もしばらくするとうんうん唸るようになってしまった。


 日が天辺近くに昇ったころ、ようやく『シリウス』という名前を賜ることとなります。


 どうも、私の目が星のように綺麗だったからこの名前にしたようです。


 一応私も雌なので、綺麗と褒められるのはとても嬉しく思います。




 ◇





「シリウス、ちょっとそこで待ってて」


 食後に果物を食べたら主人は空高くへと飛んでいきました。


 きっと目的地の確認をするのでしょう。


 森の奥の方に飛んでいったような気もするが気のせいですね。


 しばらくして降りてきた主人が走り出す。



 やはりすごい。


 私はスピードには自信があったのだが、主人は息切れ一つ無く前を走っている。


 途中、何度か方向の確認のために主人が空を飛び、太陽が茜色になった頃、人間の町にやって来ました。


 主人が虚空からローブを作り出しそれを地面に叩き付けています。


 一体何をしているのでしょうか?

 

 主人が魔法を使い、顔に幻術を掛けながら私に話しかけます。


「いい、シリウス。わたしは旅人でお前はその相棒。町に着いたら無闇に人は襲っちゃいけないからね?」


 勿論です。


 主人の迷惑になるようなことは決してしません。


 ローブを深く被った主人と門に近づくと、兵士に何者かと誰何されました。


「そいつは冷酷餓狼(ブルータル・ヴォルグ)――」


 ですが、兵士は主人より私のことを怖がっているようです。


 いつの間にか主人の辺りを漂っていたオーラも消えています。


「こいつは相棒のシリウスだ。テイムしてあるから人は襲わない」

「本当にテイムしてあるのか?」

「本当だ。シリウス、お座り! お手! お代わり!」


 いえ、主人……。


 それでは兵士の人も納得しないのでは?


 一応命令ですので、言われたとおりにやってみます。


 その後、いくつか兵士とやりとりをすると町に入れてもらえました。


 それでいいのでしょうか、人間……。


 通りを歩いて冒険者ギルドと言うところに向かいます。


 主人の強さならすぐにでも高ランク冒険者という者にもなれましょう!



 



 ◇





 どうも――


「ご用件はなんでしょうか」

「登録に来た」


 何か――


「登録につきまして――」


 視線を感じますね。


 それも好奇の視線を感じます。


 野生でも新人とは一番の下っ端ですので、主人も侮られているのでしょう。


 ガラの悪い冒険者が一人、こちらに近づいてきます。


 有り体に言って不快ですね。


 私は相手に恐怖を与える魔法を使いました。

 それだけでここにいる冒険者たちは一斉に萎縮します。


 こちらにきていた冒険者は泡を吹いて倒れ、他の冒険者たちに引きずられていきます。


 よし、完璧です。




 ◇




 私の従魔登録も終わったところで、次に素材の売却をします。


 私たちの群れと縄張り争いをしていた片目の大きな熊と5名の元部下たち。


 部下に対して思うところがないというのは嘘になりますが、元々この五頭は命令を無視して勝手な行動を取っていまいしたからね。


 散々迷惑を被ってきましたし、いつかこうなるであろうとある程度の予想はついていました。ざまあみろです。


 それにしてもこの土妖精族(ドワーフ)は強いですね。


 主人なら軽くあしらえるでしょうが、私だと時間稼ぎで精一杯。


 逃げ切るのは簡単ですが、戦闘となると、持って数分と言ったところです。


 その証拠に、どうやら主人の強さにも気付いているようで、発汗と動悸の症状が見られます。


 そして、気付いたのはもう一人、真っ先に声を掛けてきた獣人族(セリアンスロープ)です。


 なんとなく主人のことを強いと認識している程度でしょうが、狼の獣人だけあってそういった感覚には敏感なのでしょう。


 ふふふっ♪


 主人が認められて私も鼻が高いです。





 ◇





 買い取り金額の支払いは明日になるそうで、冒険者ギルドを後にしました。


 お次は私が従魔だと証明するための首輪を買うのですが……。


 何ですか?コレは?


 どう考えたって無意味な金属製の装飾の数々。


 一体コレでどう戦えと?


 ただ動きが阻害されるだけの物が多いですね。



 主人! なかなか良いのがありました!

 この茶色い革の首輪なんてどうでしょう?


 それでも主人は納得しないようです。


 何か考えた後で剣が立てかけてあるところに向かいます。


 武器のことはよく分からないのですが、この銀緑色の長剣(ロングソード)からは力を感じますね。


 しばらくすると主人は魔法によって一つのチェーンを作り出しました。


 色はちょっと違いますが、長剣と同じ素材のようです。


 細く華奢なように思えますが、しっかりとした造りになっていて、簡単には切れないでしょう。


 重量も軽く私の首にもピッタリです!


 ありがとうございます、主人!




 その後は買い物をして宿屋に行きます。


 精肉店で狼肉が売っていましたが、主人が気にすることではありませんよ?


 あれは私より下級の魔物の肉で、人間にとってのゴブリンのような物です。


 ですが、豚頭鬼(オーク)の肉も美味しいので、主人の選択には文句はありません。




 宿に着いて部屋を取り、夕食を食べます。


 主人も私と同じ豚頭鬼の肉――ステーキを食べるようです。


 食べ終えた後に食器を返すと主人は明かりを落としてすぐに眠ってしまいました。



 夜の帳が降りた頃、私は小さな物音に目を覚ましました。


 眠っている時は一番危険です。


 仲間たちと森で暮らしていた時は三人ほどの寝ずの番をローテーションで組み、眠っている者たちもいつでも動けるように浅い眠りに留めています。


 ふむ、数は二人、ですか。


 魔法で影の中にに潜み、侵入者の背後に出ます。

 主人は無闇に人は襲うなと言っていましたので、一応、警告はしておきましょう。


「なんだ? 犬っころが一丁前に威嚇して」


 はあ、仕方がありません。


 主人に害意を向ける者ならば、容赦情けは無用です。


 私は男二人の首を切り落として影の中へと引きずり込みます。


 適当な時にでも捨てることにしましょう。




 私の名前はシリウス。


 シオン様の従魔にして一番の腹心です。


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[一言] 「私は男二人の首を切り落として影の中へと引きずり込みます。適当な時にでも捨てることにしましょう。」 シオンと逢うまでは人を食べるために襲っていたのに食べないの?
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