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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第一章 ~哮る覇王のレゾンデートル~
20/96

1-19.『死兵の行軍』


──『スタンピード』


 一般的に森や海と言った場所に隣接する町でそれは起こる。

 詳しい原因は分かっていないが、発生の条件は主に2つあるとされている。


 1つ目の条件は魔物の大量発生。


 マナの豊富な地域では、異常繁殖や自然発生で多くの魔物が生まれたり、他の地域からマナを求めて魔物が集まってくる事がある。

 その魔物が飽和状態になると近くの町へと流れ込むことがある。


 しかし、大抵の場合は魔物同士の争いや共喰いなどによってスタンピードにはほぼ至らない。


 2つ目の条件。

 それは魔物の中に統率者が現れる事だ。


 災害級以上の魔物の中には高い知性を持つものがいる。

 知能を持った魔物の具体例を上げれば小鬼君主(ゴブリンキング)豚頭大王鬼(オークキング)だ。

 これらの魔物は同じ亜人系の魔物を統率できる程に知能が高く、さらには一部に戦技や魔法を使い、人の言葉を話すことができる者までいる。

 そう言った魔物が下級の魔物を束ねることによって仲間割れはほとんど起こらなくなり、結果スタンピードへと発展する場合がある。


 つまり、災害級とは災害(スタンピード)を起こすことのできる魔物ということだ。

 

 スタンピードによって刺激された魔物たちは、まるで機械のように人間を襲う。

 目を失おうが腕を斬られようが、足が捥げ、臓物が飛び出ても、命が尽きるまで動き続ける。


 ただ真っ直ぐ、目についた者を殺す為に。


 その事からスタンピードは、別名『死兵の行軍』と呼ばれている──





 ◇





「これよりスタンピード防衛戦を開始する!」


 ギルドマスターのヴァーノルドが声を張り上げた。


 わたしたちが森から帰ってきて一時間ほど。


 森の中から何度か魔物が現れたけど、そのどれもが少数で今のところスタンピードと呼ぶほどの数は出てきていない。

 この間に掃討作戦に参加していた冒険者は戻ってきていて、町の兵士や引退した元冒険者、有志で集まった民間人なども戦いのために集まっていた。


 人間側(こちら)の総員は大体2000人くらいといったところ。

 町と森の間の平原に集まって、各自が剣や槍、棍棒といった武器の手入れをしたり、防具の留め金を確認している。


 恐らく魔物たちはもうそこまで来ているだろう。


「この作戦の流れを説明する!」


 この場に集まっていたものは誰もが口を噤み、ギルマスの話す作戦の概要を真剣に聞いていた。


「作戦の大まかな流れとしては、まず魔法を使える者と弓を使える者が先頭に立ち、森から出てきた魔物に先制攻撃を仕掛ける。この時の指示はワシが出す。遠距離攻撃が終わった者は後退し、代わりに前衛系の者前に出て魔物の討伐に当たるんじゃ」


 乱戦になると遠距離攻撃は味方への流れ弾になることもあるし、後衛は近接戦闘の得意じゃない人もいるからこの手順を踏んだのだろう。


「スタンピードはこれを引き起こした魔物――即ち統率者(リーダー)を倒せば止めることができる。逆に言えば、統率者(リーダー)の魔物を倒さない限りスタンピードが終わることはなく、仕留め損ねれば再発する可能性もある。よって、確実性を期すためにワシと冒険者上位6名が統率者(リーダー)の討伐に当たる」


 今回のスタンピードの場合は亜人系の魔物が多いので、中心となる魔物も亜人系だと推測される。

 亜人系の高位の魔物は武器を使用したり、攻撃のパターンが豊富なため、討伐に当たる人選には実績・能力の双方が優れる冒険者でなければならない。


 6名の内訳は、アダマンタイト級冒険者2名、ミスリル級冒険者4名となっている。そこへ元アダマンタイト級冒険者のヴァーノルドが加わる。

 この7名の精鋭たちでスタンピードを起こしている魔物を討伐するということだ。


 統率者(リーダー)の魔物はスタンピードの大群の後方に位置することが多い。

 そのため、一般的なスタンピードの鎮圧では精鋭部隊を別行動させ、後方から一気に叩くのだが、今回は森に入らない。


 いや、入ることができないというのが正しい。


 そんなことをすれば、スタンピードを引き起こした魔物を見つけた頃には町が壊滅してしまっているだろう。

 町に頑丈な壁があると言っても、何万もの魔物が押し寄せればただの紙切れに等しい。

 つまり、統率者(リーダー)が出現するそれまでの間、ただひたすら襲いかかってくる魔物を撃退するしかない。


「6名に選ばれなかった他の冒険者達は前衛、中衛、後衛に分かれて町を守る。前衛は最前線での魔物の討伐。中衛は前衛を抜けてきた魔物の遊撃。そして、後衛は前衛と中衛の中から出た負傷者の治療とその護衛じゃ」


 精鋭部隊が発表された後は、全体の配置が発表される。


 兵士達や元冒険者は前衛から後衛、町の市民は後衛で怪我人を守ることとなった。


 わたしの役目は攻撃系魔法、防御系魔法、回復系魔法を使えるので後衛で怪我人の治療をしつつその護衛をすることだ。


 集まった人たちは自分の振り分けられた場所に移動を開始した。



「「「グオオオォォォォオッッッ!!!」」」


 森の中に魔物の雄叫びが響き渡る。その声に驚いた鳥たちが木立の間から一斉に飛び立っていった。

 恐らく、戦いが始まるまでの時間はあまり残されていないだろう。


 冒険者たちの間に緊張が走る。


「今回のスタンピード、大半は小鬼(ゴブリン)(グリーン・)芋虫(キャタピラー)といった低級の魔物と予想される。じゃが、中には大鬼(オーガ)小鬼将軍(ゴブリン・ジェネラル)と言った人災級や戦災級の魔物も少なくない数が出現する可能性がある。各々、自分の実力で倒せない魔物との戦闘はできるだけ避けるのじゃ」


 こうしてギルマスからの作戦についての話は終わり、集まった人たちは装備の最終チェックをし始める。


 姿の見えない魔物達の足音が響く中、町と森の手前にある平原には異様なほどの静寂が支配していた。


 隣にいる人の生唾を飲む音がやけに鮮明に聞こえる。


──恐怖でカタカタと鎧を鳴らす者

──じっとりとした冷や汗をかく者

──苛立ち、足踏みをする者


 誰かが死ぬ。


 必ず犠牲は出る。


 それでも逃げない。いや、逃げる訳にはいかないのだろう。

 ここから逃げれば町にいる人が死ぬ。だから逃げる訳にはいかない。

 この町に住んでいる町民や兵士は言わずもがな、基本的に根無し草の集団である冒険者たちも逃げることはない。

 それは彼らの生い立ちに関係がある。


 冒険者を志す人はわたしの様な憧れから就く者もある程度いるが、その数は圧倒的に少ない。

 理由はあまりにも命を落とす危険が高いから。


 人間よりも遥かに身体能力の高い魔物を相手にすることは常に死と隣り合わせだ。

 カッコいいからなんて理由で甘い考えのまま鋼級冒険者になった若者は、最初に受けたゴブリンの討伐依頼でも命を落とすことさえある。


 一体の魔物を相手にしていたら他の魔物が現れて不利な状況になるかもしれない。

 低ランクの護衛依頼だと思っていたら盗賊団に遭遇するかもしれない。

 採集依頼でも凶暴な魔物の生息域の近くを通らなければならないかもしれない。


 ――そして、自分の滞在していた町でスタンピードが起こるかもしれない。


 だから、大抵の場合は親の仕事を継いだり、どこか他の店に就職したりと町の中での仕事に就く。もしくは一時的にお金を稼ぐための手段として活動するくらいだ。


 では、どのような人が冒険者になるのか。

 その多くは孤児や親を魔物に殺された人々だ。


 ここリヴァレンの町はストリートチルドレンがいない。

 町に滞在して数日が経ちそれに気づいたシオンは不思議に思って聞いてみると、身寄りの無い者はギルドに金を借りて冒険者になるということを知った。


 ──生きるため。

 ──自分のような思いをする人を一人でも減らすため。

 ──家族を奪った魔物への復讐のため……。


 さまざまな思いを胸に秘めてギルドの門を潜る。

 そのような覚悟を持った冒険者に町の人たちも優しく接する。


 その恩に今、ようやく報いることが出来るのだ。


 死ぬかもしれない?

 そんなことは分かっている。


 死は怖い、魔物が怖いのは当然だ。ここにいるほとんどの人が怖いと思っているだろう。


 それでも闘わなくてはならない。


 その日の食べるものにすら困っていた自分に手を差し伸べてくれた人のため。

 見知らぬ誰かが自分と同じように泣かないため。

 自分の愛した町を守るため……。


 それぞれが文字通り命をかけて、己の矜持のために一匹でも多くの魔物を屠ろうと場所に立っている。



――少しずつ、魔物の足音が大きくなっていく。



 わたしは生きるために冒険者になった。

 けれど、大部分を占める理由はゲームの時の感覚のまま「自分なら出来る」と思ったからだ。

 事実、一人でスタンピードに遭遇しても魔物が一万匹いようが二万匹いようが確実に生き残れるだけの強さはあるだろう。

 『飛翔(フライ)』で上空に飛び上がり、強力な魔法を連射すればいい。それだけで万事解決だ。


 だがそれは()()()()()()の場合だ。

 弱い魔法ならともかく強い魔法を放つまでにはイメージを固めるまでに数十秒から数分、安定性などのクオリティを高めるなら10分近くは掛かるだろう。

 それでは大量の魔物が一斉にやって来るスタンピードから町を守ることは出来ず、かなりの数が町にたどり着いてしまうだろう。


 それに、冒険者と魔物が混在している中で魔物だけを確実に狙うことは難しい。

 威力の弱い魔法ならまだしも今使える最大級の魔法を放てば味方にも被害が出てしまう。


 こんなことになるなら魔法をもっと使えるように練習しておけば良かった、と心の中で悔やむ。

 せめて開戦直後の魔法攻撃と後衛での活動は頑張ろう。


 シオンは隊列の先頭にいるヴァーノルドの元に目を向ける。

 ヴァーノルドは険しい顔つきで森の方を見ていた。

 時折冒険者達に指示を飛ばすも、その声色は硬く若干震えている事から作戦に懸ける思いの丈が窺える。


「聞けぃ!!!」


 突如、ヴァーノルドが冒険者達の方へと振り返り叫ぶ。


「今回の作戦、第一に重要なことはスタンピードを起こしている魔物の討伐じゃ! なんとしてもリヴァレンの町に住む者の命を守る! これが作戦の一番の目的じゃ!」


 そこで一旦言葉が区切られる。


 ヴァーノルドが目を瞑った。

 ここにいる誰もが次に紡がれる言葉に耳を傾ける。


「そして、次に大切なこと! おぬしらの犠牲者を一人でも少なくしてほしい!!」


 しばらくして再度話し始めたヴァーノルドの瞳には慈しむような光が灯っていた。


 当然だろう。

 親身になって育ててきた冒険者が死ぬかも知れない。

 このスタンピード防衛戦を指揮するということは、謂わば我が子を死地に送るようなものだ。


 この戦の責任者(ギルドマスター)として市民を守らなければいけないという役目と(ギルドマスター)として冒険者を死なせたくないという気持ち。

 心中ではかなり複雑な思いが渦巻いている筈だ。


「「「オォォォオオオ!!!」」」


 その時、雄叫びと共に魔物の大群がが森から飛び出してきた。


 亜人系魔物が多いことから、その様子はさながら妖怪たちの百鬼夜行だ。

 その目に理性はなく、我先にと町を目指して駆けてくる。


「遠距離攻撃部隊! 魔法の詠唱及び弓を構えよ!」


 初撃は遠距離攻撃によって魔物の大群の数をできる限り減らす。

 魔法や弓は乱戦になるスタンピードではフレンドリーファイアになりやすいから、よほどの使い手でなければ足手纏いとなる。そんな人材はわたしを除き、この中には2、3人くらいしかいないだろう。

 だから、この攻撃が終わったら大半の魔法使いたちは後衛に下がり、治癒魔法や強化魔法でサポートに徹することになる。


「まだじゃ、まだ攻撃をするな!もっと引き付けろ!」


 森から町までの開けた場所は1キロメートルほどだ。

 こちらの隊列は町から100メートルほどの間に展開している。


 その距離、約900メートル。


 遠距離攻撃部隊の先頭に立つ者が魔法や弓を撃とうとすると、射程距離である500メートルより近くの位置まで魔物を引き付ける必要がある。

 距離が空いた状態で攻撃をしてしまうと威力や命中率は落ちて、魔物を倒すことが出来ずに不利な状況でこの戦いは始まる。

 しかし射程距離内で放たれた魔法の威力は高く、当たれば多くの魔物を倒すことができるため戦況は一気にこちらへと傾く。


 問題は十分な威力が出せるか。


 魔法とはイメージによって成り立っている。つまり、不安や恐怖、怒りといった感情によって威力が左右される。

 精神状態が不安定ならば大魔法は不発となるし、強い心を持っているのなら基本魔法でもマナを込めれば大魔法と同じ威力が出せる。


 魔物との戦闘の時、多くの魔法使いは後方から魔法を放つ。

 だが、今回は部隊の先頭に立って魔法を撃たなければならない。

 もし失敗したら近接戦闘の出来ない自分たちが真っ先に狙われるという状況にさらされている。

 それはとてつもないストレスだ。


「詠唱始め! 弓、狙え!」


 魔物との距離が600メートルに差し掛かった所でギルマスが叫んだ。


 魔法使い達が詠唱を始め、さまざまな色や形の魔方陣が浮かび上がるが、集中を乱して途中で消えてしまうものが多い。

 再度詠唱を試みるも、焦ってしまい失敗する。

 しかし、無情にも魔物との距離は縮んでいくばかりだ。


 ──500メートル。


 魔法の射程に入ったがまだ遠い。

 威力、命中率を上げるならば300メートル以内に近づける必要があるだろう。


 ──400メートル。


 詠唱を完了するものが出始めたが、片手で数えられるほどしかいない。

 他は間に合うかどうか怪しい。


 ──300メートル。


 ここにきてさらに何人かが詠唱に成功した。

 詠唱が間に合わなかった者は隊列の後方へと戻っていき、戦闘の開始に備える。


 「今じゃ! 撃て!!!」


 ──200メートル。


 目と鼻の先まで大群が迫った所でヴァーノルドの声が響いた。


 ──戦いが始まりを告げる。

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