プロローグ<夢にまで見た――>
拙作ですが感想(よかった点、改善した方がいい点etc.)、評価等の応援をしていただけたら嬉しいです。
注)タイトルは仮なので頻繁に変わります。スミマセン(>_<)
小鳥のさえずり。
葉擦れの音。
小川を流れる水のせせらぎ。
地面には若草。木々の間からは柔らかな木漏れ日。
現代ではそうそうお目にかかれ無い豊かな森が、わたしの周りには広がっている。
そして、目の前には透明度の高い水をいっぱいに湛えた湖。
一瞬海かと思ったけど、遥か彼方にうっすらと木々の緑色が見えるから湖だ。
岸に近づいて覗き込んでみると、いきなり現れたわたしに驚いた小魚達が一斉に散っていった。
水面に映るわたしの顔。
小顔といっていい輪郭に小さい口。
ぱっちり開いた大きな目と小さい鼻は、実際よりも幼い印象を持たせる。
自慢じゃないが、有り体に言って美少女と言っても過言ではない!
そして、透き通るような銀髪に、サファイアのような碧眼……
銀髪、碧眼……
銀髪、碧眼?
……What?
思わず顔を水面から上げる。
落ち着けわたし。さっきのは幻覚だ。アイ・アム・ジャパニーズ。
わたしは黒髪、黒目のキュートでチャーミングな17歳の美少女な女子高生。
「よし!」
気持ちが固まった所で、もう一度視線を下げる。
「……」
はい?
なんか違うんですけど?
美少女~とか言ったけどウソだから。場を和ませる軽いジョークだって。
ナチュラルボブにちょっと度が入ったメガネをかけて、ちょっと猫背気味の姿勢をした女の子。
それがわたしだ。
たしかに、近所のおばさんたちには「かわいい」って言われる。だけどそれはお世辞で、アイドルのようなかわいさはないし、モデルのような大人の色気なんて中高生にあるはずもない。
かといって醜いわけでもなく、クラスに一人はいる「かわいくも不細工でもない生徒」――つまりモブキャラだ。
モブキャラだったはずだ。
それが何?
今水面に映っているのは、何の物語に出てくるお姫様?ってくらい可愛い女の子なんだけど?
ただ町を歩くだけで目にした男はもちろんのこと、女までも思わず振り向いてしまうほどに整った顔をしている。
っていうか──
「なんじゃこりゃーー!!!」
近くの木から驚いた鳥が数羽、雲ひとつ無い青空へ飛び立っていった。
わたしの面影なんて目元とか口元とかちょっとぐらいしかないんですけど!
あっ、無い訳じゃないの。
ココ、超重要!
無いって断言するのは女として何か癪に障る。別人みたいな顔でも、可愛い人の顔の中に少しくらいは自分の要素があるって思いたいじゃん!
枝毛も引っ掛かりも無い、サラッサラな指通りのロングヘアー。
今までは髪を伸ばしたくても、体育とか風呂上がりとか手入れが大変で伸ばせなかった憧れの髪型だ。
ペンシルで描いたみたいにきれいな眉毛と付けまつ毛したみたいにパッチリとしたまつ毛なんて、化粧品のCMに出てる女優顔負け。
この真っ白できめ細かい肌なんて、まるでビスクドールみたいだ。
まあ、ビスクドール見たこと無いんだけど。
ハッキリ言って人間じゃない。
もう、整形したとかいうレベル超えていて、人形に魂を移植したって言われた方が納得できるレベルだ。
でも、一番の問題はそこじゃない!
だって気が付いたら森の中で、湖を覗いてみたら自分の顔が知らない顔になって――
……あれ?
何で森の中で寝てたんだっけ?
確かあれは──
◇
公立高校の二年生で演劇部に所属しているわたしは、部活の練習のため、週末学校に来ていた。
今日はわたしがカギを開ける当番だから、部室には誰もいない。
「おっはよー、あーちゃん!」
カギを開け、ドアを押そうとしたところで声が掛かる。
「あーちゃん」というのはわたしのことで、「佐藤愛」だから「あーちゃん」だ。
振り返ると、親友の早瀬優菜が手を振りながらやって来た。
「おはよ、優菜は朝から元気いいね」
「あたしは朝に強いのが特技だからね!」
特技の意味が違う気がするけど、朝に強いのはうらやましい。
わたしなんて毎朝、何度二度寝の誘惑に負けそうになっていることか……。
そんな他愛ないことを話しながら、制服から体操服に着替えて体育館に向かう。
30分もすると部員も全員が──と言っても20人も居ないんだけど──集まり、壇上で準備運動をする。
「あめんぼあかいなあいうえお」
「「「あめんぼあかいなあいうえお」」」
部長のあとに続いて、腹式呼吸を意識して発声をする。
毎回この歌詞を言ってるけど、アメンボが赤いってなに?
「鳩ぽっぽほろほろ」の歌詞も発音を結構無理してるな~、なんて思いながら滑舌練習も終えた。
大体15分練習したら、台本の読み合わせをする。
うちの部活はボランティアで幼稚園で劇をしたりするぐらいなので、基礎練習には時間を掛けない。
台本は監督の先生が書いたもので、タイトルが「森の怪物」。
あらすじは、森で迷った少女が怪物と出会って、何だかんだあって怪物が少年になって二人が結婚、めでたしめでたしと言う話だ。
この台本を張り切って持って来たときは、部員のみんなが有名作品の「美女と野獣」に似ているってからかっていたっけ。
でも、ストーリーもセリフも子供向けでしっかりしていたから、来週にある保育園のボランティアでやることになった。
──キンッ
そんな音が聞こえたのは部活が始まって1時間くらい経った頃だったか。
バスケ部とかも動いているし、この高校の体育館は結構古いから軋んでいるのかな、と最初は思っていた。
──カラン
何かが落ちる音。
床を見ると小さいネジが一つ。
視線を上げると照明とかの機材がぐらついている。
これは落ちて来そうだ、と直感的に思った。
──ギギッ
真下には優菜がいる。
「優菜!そこから離れて!」
「え?」
ダメだ、気付いていない。
わたしは反射的に優菜を避難させるために走り出す。
──ギギギッッッ、バキン!
優菜に手が触れた。
押し退けられた彼女は驚いた表情を浮かべている。
その後、何かが壊れる音がして──
──不意に視界が真っ暗になった。
◇
「これ死んだっぽくない? 絶対死んでるよね! だとしたら転生!?」
つまり、この状況は異世界転生みたいなのに違いない!
……いやね? 死んだ事は残念だと思うよ?
でも、そんなに痛みを感じなかったし、今も体が自由に動くから死んだって実感沸かないんだよね。
これはライトノベル愛読者の悲しい性なのだ。
誰しもが1度は夢見るような憧れの展開! この興奮を止められるものはなにもないッッ!!
グッドラック、マイ両親。ア~ンド、ベストフレンド優菜!
わたしはこれから、この世界で生きていくぜ!
そして、新たなる生を存分に謳歌する!
だってココは十中八九、剣と魔法のファンタジー世界。
魔物やドラゴン、伝説の武器にダンジョンなどなどetc…
となれば真っ先にやることは──
「ステータス・オープン!」
…。
……?
あれ?
何も起こらない。
声が小さかったのかな?
こほん。
改めてもう一度──
「ステーータス・オーーープン!!」
…。
……。
………何も起こらない。
「ステータス! メニュー! アドミニストレータ!」
…。
……。
………。
言葉を変えてみても、ただ虚空に声が響くだけだった。
このことから導き出される結論は、この世界にはステータスがない?
「なん、だと……?」
その日、遠い異世界の森の奥には、両手を地面に着けて項垂れる少女の姿があった
愛「私は異世界で生きるぞー、優奈ーッッッ!!!」




