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夢幻泡影のカレイド・マジック  作者: 匿名Xさん
第一章 ~哮る覇王のレゾンデートル~
19/96

1-18.『戦の予兆』


 ここ2週間は充実した日々だった。


 朝は早起きしてギルドに向かい、依頼表を確認してから森に入る。


 目的の魔物を討伐、又は薬草や鉱石といったアイテム採集してギルドに報告、討伐部位や素材を納品して報酬をもらうという充実した日々。


 働いてお金をもらうってすごい達成感がある。


 一般の人の出す依頼――いわゆるお使い系クエストみたいなのを受けたりもした。


 庭の草刈りの依頼は魔法で10秒ほどしかかからず、ペットの猫探しの依頼はシリウスにかかれば2分で見つかった。


 他にも側溝の清掃依頼や屋根の修繕依頼等、合計20件ほどの依頼は一日で解決した。受付の人からは遠回しに新人の冒険者の仕事を取るなと言われちゃったけど……。


 でも、その甲斐あってか町を歩いていると、不審なローブ姿にも関わらず挨拶をされるほど住民の信頼を勝ち取ることができた。


 そう言えば、眩耀蜂蜜(グローリー・ハニー)を付けたトーストは美味しかったです。



 

 そして今日は掃討作戦の日。


 この町にはわたし以外に10人の白金級冒険者とミスリル級冒険者が5人、アダマンタイト級が1人居る。


 『開闢の樹海』は高レベルの魔物や希少な素材が多く取れるのでランクの高い冒険者も多い。


 さらにこの時期は王都からも冒険者が集まってくるらしく、ギルド内はかなり鬱陶しい。


 本当に鬱陶しい。


 だって女性の冒険者なんて1割も居ないんだもん!

 むさ苦しい男ばっかりだから、隅の方に寄ってギルド職員の説明する今回の作戦の詳細を聞いている。


「これより掃討作戦の概要を説明します。まず、ランクによって討伐を行う森の深度を分けます」


 深度というのは出る魔物のランクによって分けているらしい。


 深度1が有害級から害悪級で、ここは鋼級と銅級の冒険者が担当する。


 深度2が害悪級から人災級で、ここは銀級と金級の冒険者が担当。


 深度3が人災級から戦災級で、わたしたち白金級とミスリル級が担当だ。


 大体の目安なので、金級冒険者でも深度3の担当になる人もいる。


 深度4以上に入るとなると安全に魔物を倒すのに1パーティーを5人から7人として、アダマンタイト級冒険者のパーティーが1つとミスリル級のパーティーが3つは必要となるので無視するようだ。


 そもそも深度4以上にいる災害級以上のモンスターは数が少ないので、スタンピード以外では現れることは全くと言っていいほど無いらしい。


 なので、スタンピードの原因になる深度3以下の魔物を減らすことが作戦の目的になる。


「では、説明した通りに分かれて下さい」


 グループの人数は、1グループ約5人パーティーとして、深度1が17グループ、深度2が12グループ、深度3が6グループに別れた。白金級以上のランクは3人で1グループとなっている。


 理由は、このクラスの冒険者は戦災級でも十分に戦えるので、効率を上げるために少人数での行動だそうだ。


 普通ならここでヤクザみたいな冒険者が「なんだ~?鋼級のガキが混じってるぞ~?」とわたしに絡むのがテンプレだけど、そんなことは起こってない。


 第一、協調性のない冒険者ならチームで進行する今回のクエストには参加しないだろうし。


 むしろ、一緒に行動することになった人からは暖かい言葉と共に迎えられた。

 なんでも、ギルマスとの模擬戦を見ていた冒険者の噂話や連日戦災級の魔物を10体ほどはギルドに持ち込んでいることから、実力は知れ渡ってるみたい。


 お陰で最近は「殺戮者(キラー)」なんて二つ名が定着しつつあるしね。

 なかなかカッコよくてわたし好み!


 こらこら他のグループ、そんな羨ましそうな顔しない。


 いや~、モテる女は辛いね!

 おっと、今は魔法で男に見えるようにしてるんだった。


「それでは作戦を開始します」




 ──そんな職員の掛け声と共に本物の掃討作戦(戦争)が始まるなどと、その時のわたしは考えてもみなかった。







 ◇






 ──『開闢の樹海 深度5』



 一頭の魔物が地竜の上に腰かけている。


 この地竜の正式名称は石巌大蜥蜴(ガイア・ドラゴン)と呼ばれている魔物だが、実際には亜竜系の魔物の一種で本物の(ドラゴン)ではない。

 それでもドラゴンと呼ばれるだけあって、10メールを超す体長とミスリルの武器でも傷を付けるのがやっとという頑強な鱗を持っている。


 ランクは災害級で、王都に現れようものなら国中の戦力を総動員しなくては倒せない魔物だ。


 だが、現在それの上にいるのは身長が2メートルを切るほどの魔物だ。


 遠目にみれば人間にも見えたかもしれない小柄な外見。低級の魔物の中でも小柄な部類に入るので、一見、弱そうだとも感じる。


 しかし、漂う風格は歴戦の戦士のそれだ。


 はち切れんばかりの筋肉を纏った身体には、返り血を浴びてはいるものの地竜との戦いの傷は無い。いや、よく見ると全身至る所に傷がある。

 刺し傷、切り傷、咬傷など、そのどれもが古傷あり、傷口は塞がっていることから過去に多くの闘いを繰り広げけきたことが窺える。


 幾度もの死線を潜り抜いてきたこの魔物は、その強さから、いつしか周囲の魔物からは『長』や『君主』のように認識されるようになった。


 周りにいるのは忠実な下僕達。


 亜人系の魔物である小鬼(ゴブリン)豚頭鬼(オーク)大鬼(オーガ)が整然と列を成す。その中には上位種の魔物も多く見受けられる。


 数はおおよそ一万。


 種族の違う魔物がこれだけ多く集まれば互いに殺し合うのが普通なのだが、どの個体も争うことなく、目の前にいる圧倒的強者に頭を垂れている。


 地竜の首に突き立てられた剣が引き抜かれ、森の一点――外周部の方向を指し示す。


「「「オオオォォォォオ!!!」」」


 それが合図となり、叫び声を上げた魔物達が一斉に駆け出していく。


 目指すのは人間の町。


 半日もすれば魔物の大群がたどり着き、そこに生きる人々は喰われ、家畜は殺され、建物は破壊される事だろう。


 魔物の通り過ぎた後には、文字通りなにも残らない。



 今、スタンピードが起きた。


 その原因となった魔物も静かに歩き出す。




 ◇




「ガルさん!小鬼将軍(ゴブリン・ジェネラル)手伝ってくれ!」

「ルーク、こっちも豚頭鬼(オーク)の相手で忙しんだよ。あと2体だから待ってくれ」

「クソッ、今年はやけに亜人系の魔物が多くないか!?」


 そう話すのはわたしと同じグループの冒険者だ。


 ここは『開闢の樹海 深度3』の比較的浅いところ。

 位置としては先日、猛毒雀蜂(ポイズン・ホーネット)たちと戦った所辺りだ。


 ルークと呼ばれたのはリヴァレンの町の白金級冒険者で、若い割には腕はいい。


 純粋な剣士なので魔法は使えないが、白金級に上り詰めただけあって彼の片手剣捌きは戦災級の小鬼将軍(ゴブリン・ジェネラル)にも引けを取らない。


 もう1人は解体部屋にいた狼獣人のガルさんだ。


 彼は元ミスリル級冒険者だったが、足の怪我を理由に引退してギルド職員をやっていた。


 そんな彼だったが、わたしの自作した効力不明な魔法薬を試してもらった結果、見事に足は治って冒険者活動を再開するらしい。


 本人は泣いて喜んでいたから、とても実験台に使ったとは言えない雰囲気だった。

 翌日に手土産持参で謝りに行ったが、笑って許してくれてよかったよ。


 彼も剣士タイプで使っているのは両手持ちの大剣、俗に言うクレイモアと言うやつだ。


 その一撃は豚頭鬼(オーク)を両断するほどで、かなりの重量の武器を扱うことの出来る怪力も然ることながら、それ以上に体捌きが凄まじい。

 豚頭鬼(オーク)を5体同時に相手にしても擦り傷1つ負わず、その豚頭鬼(オーク)も今では2体にまで数を減らした。


 これでもリハビリ中で本調子ではないって言うんだから、現役時代はもっとすごかったんだろう。


 それにしても魔物が多いね。


「『雷撃(ライトニング)』、『凍結槍(アイシクル・ランス)』」


 わたしは飛び掛かってきた小鬼(ゴブリン)に雷魔法を打ち込んで黒焦げにし、その後ろにいた大鬼(オーガ)を氷魔法で生み出した槍で串刺しにした。


 わたしもこの数の魔物にちょっとうんざりしているんだけど、シリウスの方はひっきりなしにやってくる豚肉(オーク)にご満悦のようだ。


 今も目を輝かせながら豚頭鬼(オーク)の集団に突っ込んでいった。


 そう言えばこの2週間でシリウスの体長は一回り縮んだ。


 ガルさんが言うには魔物は魔石を食べることによって進化するらしい。

 毛も紫色っぽくなってきたし、魔法のキレも良くなっっている。


 これは進化の前兆のようで、進化が完了すれば更に姿は変わり、別の魔物になるそうだ。力や素早さは上がり続けているので、まだまだ強くなりそうで楽しみにしている。



「──シオン、ルーク、町に戻るぞ」


 小鬼将軍(ゴブリン・ジェネラル)を倒し終えて周囲の魔物も粗方いなくなり、討伐が一段落したところでガルさんがそう言った。

 

「どうしたんだ、ガルさん?」

「ルーク、俺がなんで怪我してたのか知ってるか」

 

 ギルマスにしばかれたのかな?

 顔つきがいかにも「昔はやんちゃしてました」って言う感じだもんね。


「生意気言ってギルマスにしばかれたんだろ?」

「違うわ! 誰だそんなこと言ったヤツは! 俺の怪我は10年前に起きたスタンピードでしくじった結果だ。同じパーティー組んでたギルマスは責任感じて俺みたいなことが無いように、ギルドマスターになって後続の育成に力入れてんだよ」


 ふ~ん、そんなことがあったんだ。


 確かにギルマス――ヴァーノルドはギルド内の色んな所で見掛ける。


 町に来たときも解体部屋に居たし、昨日なんてギルド裏手の広場で新人の指導をしていた。


「話の流れからするにスタンピードが起こるのか?」


 わたしも聞いてみた、というかスタンピード以外無い気がする。


「ああ、そうだ。前のスタンピードの時は虫系の魔物が大量に出たんだ。今日の魔物はそん時の奴らににそっくりだぜ」


 虫じゃなくて良かったと喜ぶべきか、スタンピードが起こってしまったことを嘆くべきか判断が微妙だね。


 もしも本当にスタンピードが起こっていたら防衛の準備が必要なのだそうだ。


 わたしたちは狩りを切り上げて急いで町に戻ることにした。




 ◇




 森を出て東門に着くとギルマスがいた。


 模擬戦をやった時の完全装備で、ギルマスの後ろには冒険者も集まっている。


「ギルマス、森の様子が変だ。ひょっとしたらスタンピードかも知れねぇ」

「やっぱりか。若いヤツが深度2辺りで豚頭鬼大将(オーク・ジェネラル)を見たって言っておったから、もしかしたらと思ったんじゃがのぅ」

「準備はどうだ?」

「掃討作戦は中止してここに冒険者を集めとる」


 その時、町の方から鐘を鳴らす音が響いた。


 音を聞いた町の人々は自分の家や近くの建物に避難する。


「今から避難しても間に合わん。家から出んように緊急事態を知らせる鐘を鳴らすよう言っておいたんじゃ。お前達も準備をしてくれ」


 スタンピードが起こることはほぼ確定らしい。


 この音で森にいる残りの冒険者達も集めるそうだ。


 そうして急遽、スタンピード防止の掃討作戦はスタンピード防衛戦となった。


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