1-17.用法・用量はお守り下さい
猛毒雀蜂を討伐してハチミツも手に入ったことだし、このくらいで今日は狩りを切り上げることにしよう。
太陽の位置から丁度時刻はお昼頃。
昼食は市場の出店でバーガーを包んでもらっている。
シリウスには買ってきた野菜、フルーツと鶏肉、魔法で出した水をあげる。
そう言えば、青果店でクイの実って言うのを買ったんだっけ。
この実なのだが見た目はアボカドの様でちょっとゴツゴツ、色は青く、形がリンゴと言ったなんとも不思議な果物で、1個鉄貨3枚だった。
半分に切ってみると中身は黄色。匂いはメロン?
一口食べてみる。
味がドリアン……。
有り体に言って不味い。
わたしは残りのクイの実をそっと地面に埋めた。
次からは買う物の味や調理法はきちんと確認してから買おう。
ちなみにバーガーは、新鮮な野菜とパテの相性が良く普通に美味しかったです。
◇
帰りは来たときとルートを変えてみた。
途中に惨殺大熊がいたので、予告通り背後からの攻撃。首元を狙ったので一撃で仕留められた。
フッフッフッ、悪は滅んだ!
こいつは解体して肉以外は売却だ。
おっと、薬局?で買った本によると胆嚢は薬になるようだから残しておこう。
昨日のヤツより小さかったし解体2回目なので、3分ほどで捌けた。
それでも可食部位の肉は4トンくらいはある。
今回は魔法で返り血が付かないようにしていたし、スピードを合わせると神技と言ってもいい解体だったね。熊の解体=カップラーメンタイマー。
うん? どうした、シリウス?
魔石に興味があるのかな? あっ、食べた!
これって魔物の習性?
後でギルドに行ったときに聞いてみるか。
もしそうならお金には困ってないし、これからは他の魔石も食べさせてあげよう。
町に着くまでには時間に余裕があったので、道中は魔物を倒したり、行きに見なかった魔法薬用の木の実を採集したりとピクニック感覚で楽しんだ。
◇
ギルドに着いて依頼達成の報告をすると驚かれた。
何でも推奨ランクと言うものがあって、わたしの受けた獰猛雀蜂の討伐依頼の場合だと、最低でも一匹討伐するのに3人以上の白金級のパーティーで当たるのが普通だそうだ。
猛毒雀蜂の毒はかなり強力で、人間の場合は一滴で100人分の致死量はあるらしく、昔は王族の暗殺にもよく使われたほどらしい。
だから、眩耀蜂蜜の採集依頼の方だと絶対に巣に近づく必要があるわけで、その時に猛毒雀蜂からの激しい抵抗を受けるから、最低でもミスリル級パーティーで当たらなければならないらしい。
次からは依頼をちゃんと確認するように叱られてしまった。
ちなみに猛毒雀蜂の死骸は数が多いので、10回くらいに分けて売ろうと思う。
いきなり全てを持ち込んでも換金出来ないだろうし、解体だって時間が掛かる。
他の冒険者との無駄な争いにもなりかねないしね。
蜂の子は解体部屋の酒飲み達に喜ばれ、なかなかの値段で買われたが、酒の肴でソイツの佃煮はヤバイ。
佃煮どころか、ステーキでも焼けそうなほど肉厚だよ。
お酒は飲んだことはないけど、できればチーズやナッツ、チョコレートだったりのお洒落なつまみと一緒に飲みたいな。
◇
素材の換金を終えて、わたしは宿屋の部屋にいる。
宿の宿泊の延長を頼んで料金は先払いしておいた。
この宿は当たりだったので、王都にオークションへ行くまでは泊まっていようと思う。
さて、夕飯は食べたし今からするのは魔法薬作り。
作り方は本に載っていたし、素材も集めてある。
必要な器材は買おうとしたが、魔法で代用出来ることに気付いたので止めておいた。やっぱり魔法って偉大。
所でなぜわたしが魔法薬を作ろうかと思ったのか。
それはこの世界の薬全般の値段の高さが理由だ。
例をあげると、魔法薬の場合は効果によって価格が違い、最低でも大銅貨、良いものだと大銀貨以上だった。
そんな魔法薬を自分で作れるようになっておけば、色々と助かると考えたのだ。
嘘つきましたゴメンナサイ。本当は回復魔法が使えます。
ハチミツ採集しているときに、巣の奥の方に潜っていた蜂の子に気付かなくてちょっと指先を噛みつかれた。と言うか肉が抉れた。
ホント指噛み千切れるかと思ったよ。いや、噛み千切られてるのか。
シリウスが慌てて魔法で引き離してくれたんだけど結構傷は深かった。
白っぽい何かが見えた気がしたけど、気のせいだと思う。
その時に、買った魔法薬を掛けようかとも思ったんだけど、傷口にしみるのが嫌だったから回復魔法を試してみたらあっさり出来ました。
傷口はみるみると癒着していき、抉れた肉も段々と盛り上がっていって、最終的にはシミ1つ無い肌に戻った。
なんか映像の逆回しっぽくて、筋繊維が伸びるところまで見えてしまったのはちょっとグロかったけど、怪我が治ったことは素直に嬉しい。
じゃあなんで回復魔法が使えるのに魔法薬を作るのか。
それはなんとなく作ってみたかったから!
コラそこ、笑わない! 呆れた顔もするな!
だってあんな草擂り潰して濃縮したようなのが魔法薬なんだよ!
どう見たって魔女が鍋で蛙の干物とか蝙蝠の翼を煮込んだヤツじゃん!
そんなものは魔法薬と呼びません。ただの危ない薬品です(暴論)。
わたしはなんとしてでもファンタジーっぽい魔法薬を完成させるッ!
これが1つ目の理由。
2つ目の理由は若返りの薬。
女の子だし、永遠の美とかには憧れる。
その前段階として魔法薬を作っていこうって訳。
もちろん作り方は分からないし、レシピが分かっても素材がヤバそうだったら美肌クリームとかクレンジングオイルで妥協するけどね。
でも、紅血林檎に神聖蜜柑には若返りの効果があるって言われている位だしありそうな気がするんだよね~。
理由の内訳は前者一割、後者八割、残りの一割は暇潰し。
と言う訳で、今回は基本の体力回復用の魔法薬を作ろう。
材料:水、薬草、魔石、以上。
お手軽だね!
これで最安値は大銅貨1枚なんだからボッタクリもいいところだよ。
手順は──
・1、魔石を粉末にする。
魔石については何でもいいらしい。
ただ、効果が高い魔法薬ほど高ランクの魔物の魔石が使われるそうだ。
今回材料にする魔石は、今日狩った猛毒雀蜂のもの。
あらかじめ解体してもらったのを幾つか貰っておいた。
解体についての一通りの知識が載っている本を紹介してもらって古本屋で買っておいたので、次からは自分でも解体は出来ると思う。
粉末にするには魔法を使う。
魔石を皿の上に置いてっと。
「『破砕』」
魔石に小さな罅が幾つも入ったと思うとパリン!と澄んだ音がして小さな砂の山に変わった。
魔法、すっごい便利!
本当なら石臼に入れてハンマーで叩いて粉々にしていくみたいだけど、そんな面倒な工程もあっという間だ。
拳サイズの魔石も一瞬でサラッサラの粉末だよ。
必要なのは小指程度と書かれているので、残りは取っておこう。
・2、薬草を擂り潰す。
これは薬草の汁が必要みたいだ。
使う薬草は5枚。
絞り汁は魔法で作ったガラス製のビーカーに入れよう。
「『抽出』」
空中で薬草が丸まっていき、絞り汁だけがビーカーに落ちる。
この色だ。
青汁の原因物質はこれだ。
なんかすごい臭いだし、こっちを見ていたシリウスも顔をしかめている。
可哀想なので、わたしの周りに結界みたいなのを張っておこう。
行程3は擂り潰した薬草を絞るものなので飛ばす。
・4、魔石の粉末と薬草の絞り汁を容器に入れ、水を加えてかき混ぜる。
絞り汁の入ったビーカーに魔石を加え、魔法で作った水を必要な量加えてこれまた魔法で作ったスプーンでかき混ぜていく。
ある程度均一に混ざったらよし、最後の工程だ。
・5、マナを流し、浸透させる。
薬が高い理由ってこれかな?
一般人は魔法は簡単なのしか使えないみたいだし、本によるとコツがいるようだ。
マナがしっかりと定着しているものほど効果が高いとも書かれている。
多くのマナとそれを扱う才能がないといけないということね。
ふっ、あまりわたしを見くびらないで欲しい。
わたしは天才魔法使い(自称)なだけあってそんなことは造作もない。
全力でマナを込めよう。
料理も愛情が大切と言うし回復魔法を使ったときのマナを意識して、両手に持ったガラス瓶にマナを込める。
気分は秋葉原のメイド喫茶の店員さん。
萌え萌えきゅん♡
──ビシッ!
ヤバッ!
「『結界!』」
──バリン!
瓶から手を離し魔法の結界で囲んだ瞬間、魔法薬が飛び散った。
ふーっ、危なかった。
やっぱり萌え萌えきゅんがダメだったのかな。
結界張ったおかげで、シリウスには瓶の割れた音は聞こえなかったみたいだけど、いきなりビーカーが破裂してビックリしたみたいだ。
ごめんね、シリウス。
これから実験する時は周りに気をつけよう。
あれ? なんか魔法薬が出来てる。
しかもファンタジーっぽい透明感のある緑色でキラキラしているヤツ!
結界を変形させて漏斗状にして、新しく作ったいかにも魔法薬が入ってる!って感じの精緻な模様の入った緑色のガラス瓶に入れる。
早速効果を試してみよう。指先を切り付けて一滴垂らしてみれば十分だよね。
ちょっと危ないけどナイフで指先を傷つけて……あれ?傷つかない。
もう一度。
──パキン!
「欠けた!? 何で!?」
昨日の冒険者登録では普通に針が刺さったのに!
狩りに行ったときも怪我をした。
新しいナイフに魔力を流して切り付けてみる。
結果、惨殺大熊の毛皮の時ぐらいの魔力を流しても薄皮1枚切る事が精一杯で、しかも傷つけた傍から皮膚が塞がってしまう。
何!?わたし、いつから人間辞めてたの!
……最初からですよね。知ってました。
わたしのすごい身体能力は、正直言って前衛タイプのギルマス以上だ。
そこまではいい。
でも、これはなんかエイリアンみたいで怖いんですけど!
ギルマスだって顔に擦り傷は付いてたし、翌日には治っていたけど、わたしの傷はジュッ!とか小さい煙上がったんだよ!
人間だよね!?人間に転生してるよね!?
落ち着け、深呼吸だ、深呼吸。
……ふう。
よくよく考えてみたら、マナが大量にあるからかもしれない。
マナ=魔法の元だから、それが多いことで身体能力や怪我の回復速度も上がったんだ。
それぐらいのファンタジーパワーがマナにはある!
怪我はしにくくなったし、治りが早くて跡も残らないしでむしろプラスじゃない?
きっとそう。多分そう。絶対そう! ……恐らくそう。
はぁ、分からないことを考えても仕方ないか。
余った魔石で何本か魔法薬でも作って置こう。今は他の事を考えて気を紛らわせたい。
そんな感じで作業をしていたら最終的に魔法薬が50本ほど出来上がってしまった。
途中からは悩みなんて忘れて楽しくなってきて、2つ目の魔石を砕いてつい作り過ぎてしまった。
2回目以降は瓶を割ること無く、1回目と同じ品質の物が出来るようにもなった。
そう言えば、魔法薬の効果は分からず終いだったな。
誰かが怪我をした時にでも提供して実験だ……被験し――もとい協力者になってもらおう!
マナは、これでもか!ってくらい込められる限界を込めたから、きっといい結果が出るだろうしね。




