1-16.『崇高なる女王』
感覚的には2時間ぐらい走った。
わたしたちは今、森の中でもかなり深い所に来ている。
大体シリウスと会った所よりも少し手前くらいの場所だと思う。
この森は凄く広いんだけどわたしの身体能力は高いし、さらに魔法で底上げされているのでので、全力で走ればかなりの距離を走れる。
昨日と違って森の中を走るのにも慣れたからね。
木の根っ子とか、土に埋まった岩でも今は簡単に避けられるからタイムロスもほとんど無い。
それに、昨日よりも体が軽い気がする。
さっきの模擬戦だってギルマスの攻撃をあっさり避けられたし、新しい身体に慣れてきたのかな?
おっ!シリウスが止まった。
姿勢を低くして茂みに隠れる。
まさに獲物を狙う野生動物と言った風格だ。
カッコいいぞ!シリウス!
視線の先には1メールくらいの大きさの猛毒雀蜂が何匹も飛んでいる。
猛毒雀蜂の外見は、オオスズメバチをそのまま大きくしたような身体に黒とオレンジに近い黄色の縞模様で、所々に緑や紫も斑点もある。
いかにも毒持ちって感じの魔物だね。
それに加えて腹部の先端からは、長さが30センチ近い短剣サイズの毒針が見えている。
その後ろには冒険者ギルドと同サイズの蜂の巣。
世界の自然や動物を紹介するドキュメンタリー番組で、アフリカのシロアリの巣なんかがテレビでやっていたけど、それでも精々数メールくらいでこれと比べると小さく思える。
そして、巣の中心には女王蜂みたいな2メールサイズの猛毒雀蜂がいる。
さしずめ猛毒女王雀蜂って所かな?
成虫があれだけ大きいのなら巣の大きさもこれくらいは必要なんだろう。ハチノコとかもいっぱい居るんだろうな~。
あれ?こっちの世界に来る前なら虫関係の依頼は絶対に受けようとしないはずなのに――
……まっ、いっか!
今回はハチミツも回収しないといけないから穏便に済ませよう。
何も考えずに戦闘したら巣が壊れたりなんかして、わたしのハチミツにゴミでも入ることになったら嫌だしね。
戦うとしても短期決戦で決めよう。まず最初の一撃で動けなくさせる!
わたしは茂みの中からそっと出る。
「シュルルッ!」
「「「シュルルルル!」」」
それに気付いた一体の猛毒雀蜂が擦過音のような威嚇の声を上げると、周りにいた他の猛毒雀蜂たちも一斉にこちらの方を向いた。
「『晶氷雨』」
上空に青白い魔方陣が現れる。
そこから現われた何百の氷のつぶては猛毒雀蜂の巨大な巣を避けて、その回りを警備するかの様に徘徊していた猛毒雀蜂たちを遅う。
攻撃を食らった猛毒雀蜂の多くはまだ息はあるが、羽が傷付いて飛べなかったり、身体にダメージを負って動けない個体がほとんどだ。
一斉に襲い掛かられると面倒だけど、動かなければ話は別。
後でゆっくりと仕留めればいい。
さて、残るは一体。
「シュルルルルルルッ!!!」
群れのリーダーと思われる猛毒女王雀蜂が怒りの雄叫びを上げて巣から這い出てきた。
2メートルくらいの大きさだと思っていたけど、通常種と比べると腹部が大きく肥大しているから3メートル近い大きさだ。
首もとには黄金色に輝くファーみたいなものがあって、全体の色合いも猛毒雀蜂と比べると高貴な感じがする。
「シュルッ!」
うわっ! なんか酸攻撃みたいなのしてきた!
わたしは猛毒女王雀蜂が口から吐いた紫色の液体を慌てて避ける。
……なんかジュウジュウっていう音が聞こえてきた。
さっきまで立っていた地面を見ると液体が白い煙を上げている。
マジで!? アレってホントに酸?
地面が溶けるってかなりヤバそう。
結構毒性が強そうだし蜂蜜にかからないようにしないと。
次々と飛んでくる毒液。
それらを地面で藻掻いている猛毒雀蜂を踏まないようにしながら避ける。
「『凍結槍』」
わたしは手元に出した魔方陣から氷でできた槍を放った。
しかし、猛毒女王雀蜂はその巨体に見合わない素早い動きで攻撃を躱す。
「グァン!!」
そこにシリウスが魔法でできた黒い槍を放った。
意表を突かれる形となったその一撃は、いとも容易く猛毒女王雀蜂の頭部に突き刺さり、仕留めることに成功する。
初めて連携をやったけど上手くいったね。
わたしが猛毒女王雀蜂前にわざと出て行って、注目を集めたところでシリウスがトドメを刺す。
一番確実でリスクが少なく、それでいてハチミツの安全性も守られる高い完璧な作戦だ。
では早速、本命のハチミツをいただくことにしよう。
「わたしはハチミツとってくるから、シリウスはここの蜂にトドメ刺しといて」
そう言うと、猛毒雀蜂の首が一斉に落ちた。
地面に落ちている草木や猛毒雀蜂影からはいくつもの黒い刃が伸びている。
多分シリウスの魔法だろうけど、めっちゃ強い!って言うかそんな魔法も使えたんだ。
「ありがとね、シリウス」
「グァン!」
シリウスは尻尾をフリフリ、得意気な様子で一声吠えた。
うーん、これだけ死骸があると邪魔だな。
折角シリウスが倒してくれたんだし、先にこっちを片付けることにしよう。
討伐証明は毒針って書いてあったけど、他の部位も買い取ってくれそうだしそのまま回収する。
甲殻なんて軽いのに叩くと鉄板みたくコンコンって音がしたから、防具の材料なんかの需要がありそうだ。
そして、マジック・バックが超便利。
重さは感じないし、大きなものでも難なく入れられる。
回収した猛毒雀蜂は全部で50匹ほど。
一部は猛毒女王雀蜂の吐いた毒液でだめになってしまったけど、それぐらいは大したことじゃ無い。
巣のサイズに対して絶対数が少ない気がするけど、ここに来るまでの魔物はスルーしてきたけど、その中に猛毒雀蜂は何匹か見たので、大部分は外に出ているのだろう。
早く採集を終わらせないとソイツらが帰ってきそうだ。
それでは、おまちかねのハチミツ採集タイム!
市場の砂糖はかなり高めだったし、甘いものはフルーツぐらいしかないから貴重な甘味だ。
それに、高レベルモンスターから取れる食材系アイテムは美味しいと相場が決まってる!
では、早速頂きま……蜂の子でかっ! 子犬サイズは流石にビックリだわ。
しかも、一匹や二匹といった少数じゃなくて、巣の中全体で100匹は居る。
モゾモゾというかウネウネというか、ちょっと動いているのが微妙に気持ち悪い。
あんまり気は進まないけどこいつらも買い取ってくれそうだし倒すか。
「『理力義手』」
不可視の手が蜂の子たちを巣から引きずり出す。
蜂の子たちはもがいて脱出しようとするが、わたしの魔法はそんなにやわじゃない。
気持ち悪いし、さっさと倒そう。
「『影刃』」
シリウスに倣ってわたしも影を刃にする魔法を使ってみた。
魔法発動までのラグが少し気になったけど、100匹ほどいた蜂の子達たちは影の刃による一撃で串刺しとなって絶命した。
巣から十分に離したから、蜂の子の体液とかでハチミツは汚れていない。
死骸は回収。
いざ、眩耀蜂蜜をッ!
凄い! 本当に発光してるみたいに輝いてる!
それに、よく見るとなんか違うのもある!
ローヤルゼリーってやつかな? 普通のは黄金に輝いてるけどこっちのは白金だよ!
どっちもゴージャスって感じがするね。
今さらだけど、あんな肉食みたいな外見してるのに蜜を集めるんだよね。
花以外に樹液とか果実とかも集めてるのかな?
ちょっと味見してみよう。
さてさて、お味はどうかな~?
まずは金色の方から!
……甘い!
糖度が高いのに全然しつこくなくて、舌触りも滑らか!フローラルな香りが爽やかさを醸しだしている。
次はローヤルゼリーの方。
……なにこれ最ッ高! 普通の方よりも2、3段階上の味だよ!!
濃厚な甘さなのに全然しつこくなくて、栄養価もたっぷりありそう。
香りも断然こっちの方がしっかりしている。
いやー、この依頼を選んで良かったね。
シリウスにも分けてあげたら喜んで舐めてたよ。
ハチミツは一軒家分ぐらいあるし1リットルぐらいを買っておいた瓶に入れて売却し、残りは巣ごと持ち帰ろう。
これだけ美味しいと何にでも合いそうだね。フルーツに付けても美味しいし、ヨーグルトやパンケーキもいいかも。
ひとまずは明日の朝、トーストとかに付けて食べたいな。




