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紅月に産まれる獣達~Vendetta ed espiazione~  作者: 羽鳥月桜花
紅に挑むもの
9/10

裏切り

 地割れした際に辺りに巻きあがった粉塵の中、逢莉と圭子の姿があった。

 炎熱鞭に足首を取られ、動きを封じられ地面に倒れ込んだ圭子。

「ちっ……!! なかなかやるじゃない」

 吐き捨てた圭子が逢莉を見遣るが、その表情に生唾を飲む。

「動くんじゃないわよ。少しでも動けば火だるまになるわよ」

 警告し、逢莉は炎熱鞭の火力を強める。

「くっ!!」

 圭子が火の熱さに苦渋の表情をするが、彼女は全く気にするそぶりがなかった。無表情で、ただ刺すように冷たい紅い瞳で圭子を見下ろす逢莉は、先程までとは別人だった。

「っ、あんた……!?」

「お馬鹿さんねぇ。逢莉ちゃんの逆鱗に触れるなんて」

 冷や汗を流す圭子に、由が冷たく笑いながら言った。

「やり過ぎたわね、圭子ちゃん?」

「つっ!! ……こ、殺すなら殺せよっ!! どうせ捕まったら殺されんだろっ!!」

 恐怖感を隠すように虚勢を張り、二人に怒鳴りつける圭子。

「理由によったら、情緒酌量の余地もあるかもしれないけどね」

 そんな彼女とは逆に冷静な由が答え返すが、圭子は自嘲気味に笑うとヒステリックに叫ぶ。

「都合のいい事言ってんじゃねーよ!! 同じ能力者のくせに!! あんた達なんかに、能力に呑み込まれる人間の気持ちなんて解らないんだよっ!!」

 その言葉に無表情だった逢莉の瞳に、憎悪の火が燃え上がる。

「……だからなんの関係もない人を殺す? その人の未来を奪って……ふざけんじゃないわよっ!!」

「っきゃあ!!」

 感情の高ぶりと共に、圭子の足首に巻き付いていた炎熱鞭が枝分かれして、彼女の周りの地面を激しく叩きつける。

 悲鳴を上げた圭子が身を縮こませるが、逢莉は憎悪と悲しみの混ざった瞳で彼女に吐き捨てた。

「あんた達みたいな能力者がいるからっ!!」

「逢莉ちゃんもう良いわ。くーちゃん達に連絡して連行しましょう」

 明らかに豹変した彼女を宥めるように、由が静かに制した。しかし、逢莉は表情を変えぬまま、黙り込んでしまう。


 その時だった。

 黒い影が疾風のごとき速さで、逢莉と由めがけて飛び込んでくる。

 気付いた由が、圭子を捕らえていた逢莉に叫ぶ。

「逢莉ちゃん! 避けなさい!!」

「っ!?」

 由のその声に、ようやく我に返った逢莉が飛び込んでくる黒い影を寸での所で回避した。

 しかし、炎熱鞭を解除した為、圭子を解放してしまい、その隙に黒い影、いや巨大な黒狼が圭子を護るように立つ。

「ちっ! やっぱり現れたか!」

 舌打ちした由が見覚えのある黒狼に、険しい表情を向けた。

「貴様らに娘は殺させん」

 黒狼の後ろから現れたスーツ姿の男。

 黒狼使い・馬場 京一郎。

「……馬場さん」

 冷静さを取り戻した逢莉が、娘を護る為、自分たちの前に立ち塞がった彼に、表情を強張らせる。

 一方、隣では由が小声で毒づいた。

「弥たち、何してんのよ……」

 馬場に関しては、弥たちが動向を見張っていたはずだった。

「志村さんも俺を嘗めているのか。あんな見知った者たちに尾行させて。気配ですぐに解るものだ」

 やはり馬場も『朔夜』支部の実力者、侮れない男だった。

「だが、そんな事はどうでもいい。圭子の確保を貴様らに任すとは、捕らえる前に殺すつもりだったか」

 嫌悪感の篭った瞳で、逢莉と由を睨み付けた馬場に由は皮肉気に笑い答えた。

「失礼な事言ってくれるじゃない。馬場ちゃんこそ、娘が可愛いからって犯した罪まで目をつぶるのは、どうかしらねぇ?」

「貴様のような奴に娘の気持ちは解らん。無論、俺の気持ちもなっ!!!」

 目を見開いた馬場が、逢莉たちを指差し出現させていた黒狼の群れに命じた。


「襲えっ!!」

 主の命令に、黒狼たちは低い地鳴りのような唸り声を上げると、二人へと襲い掛かってきた。

 咄嗟に双方へ避けたが、黒狼は逢莉へと狙い定める。

「……どうしても馬場さんの狙いは、あたしみたいね」

 自嘲気味に笑った逢莉が呟き、その手に炎を纏う。


「焼き払え、火龍咆吼牙(かりゅうほうこうが)!!」


 紅蓮の炎の龍が出現し、黒狼の群れへと突進し火柱を上げるが、何頭かの黒狼はその攻撃を躱す。

『グオオオオッ――――――!!』

 火龍を躱し飛び掛かってきた黒狼たちに、逢莉は短く舌打ちすると、後方へ飛び攻撃から逃れる。

 紙一重で黒狼の攻撃を躱すが、黒狼は執拗に攻撃を仕掛けてくる。四頭の黒狼が、代わる代わる逢莉に鋭き巨大な牙を剥けてきた。

 再び炎熱鞭を作り出し、襲い来る黒狼を打ち払うが、普通の獣と違い火を怖がらない為、あまり防御にならない。

「逢莉ちゃん!!」

 追い詰められる逢莉の援護に回ろうとする由の前にも、馬場が生み出した黒狼の群れが立ちはだかる。

「ちっ!」

 邪魔をする馬場を、由は鋭く睨みつけるが、馬場は無表情で見据え返す。

「どうやら本気なようね。なら、こっちも本気で行かせてもらうわ!!」

「好きにしろ。貴様らに娘を、圭子を殺させるものか!! 襲え!! そいつらを殺せ!!」

『ウォォォォォォォォォ――――――!!』

 馬場の咆哮とも呼べる命令に、黒狼の群れは一斉に逢莉と由に飛び掛かっていく。

「……今のうちに行け」

 背中に護る娘へ抑揚のない声で告げた父に、圭子は困惑な表情を見せる。

「な、なんで!? あんた、あいつらの仲間だろ!?」

「だが、お前の父親だ」

 厳しくも温かみのある声で言った馬場に、圭子は戸惑い、今にも泣きだしそうな顔で闘いで痛む身体をふらつかせながら立ち上がる。指先からワイヤ―を放つと、近場のビル屋上のフェンスにワイヤーを絡みつかせ、それを器用に操り屋上へ登った。

「待ちなさい!!」

 逃げる圭子に気づき、追おうとした逢莉だったが、すぐに黒狼が行く手を阻む。


「邪魔よ! 舞い踊れ、紅蓮乱舞!!」


 舌打ちし怒鳴った逢莉が、5本に枝分かれした紅蓮乱舞で黒狼を捕らえる。

 その隙に、圭子はビルからビルへ、ワイヤーを伝わせ逃げ去って行ってしまう。

「後は頼んだぞ、黒狼」

 彼女が逃げたのを確認すると、馬場も黒狼たちにその場を任せ立ち去ろうとした為、それに気づいた由が激昂し怒鳴る。

「逃げんじゃないわよっ! 馬場ぁっ!!」

 迫り来る黒狼を氷の壁で防ぎながら、由が馬場に気を取られた瞬間、逢莉の叫び声が響く。

「由さん! 後ろっ!」

 彼女の声に慌てて振り向いた由の視界が赤く染まる。黒狼の牙が由の額を切り裂いたのだ。

「……っのぉ、クソ狼がっ!! 調子に乗るんじゃねぇっ……!!」

 滴り落ちる鮮血にかまわず、顔を上げた由が眦を上げ吠えた。


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