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カネこそすべて 7

「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」


朝、階段を降りるとティーポッドとカップを持ったファトナが楽しげに話しかけてきた。宿屋の一階は食堂になっており、適当なカウンター席にに腰かけると紅茶を入れてくれた。


「おかげ様で実に楽しい夜だった。俺たちを同室にしてくれた上に、レーンに助言をしてくれたそうで。礼を言わせてもらう」

「すっかり元気になったようで安心しましたわ。昨日は浴場から戻って来てから真っ青な顔をしていましたから。それで朝はどうします?」

「適当に、他の人と同じものをもらえるとありがたい」

「分かりましたわ。すぐに用意するので少々お待ちを。……そういえば、まだ宿帳に名前をいただいていませんでしたね。一筆下さる?」

差し出された宿帳に商売の神から拝借した名前、「ロス」と記入する。出身地はレーンの話から出てきた適当な地名を、職業を商人と書いた。

「ありがとうございます。レーンの良い人なのだから、本当は身元の保証はできているのだけれど、最近は厳しくなってまして……」

「この程度のこと、構わないよ」


宿帳をファトナに返すと、レーンが階段から降りてきて、俺の隣に座った。眉をしかめ、こめかみを指で押さえている。長い黒髪は最低限すいただけのようで、所々寝癖で髪がはねていた。

「おはよ。あ、頭が重い……」

昨日の酒が悪い残り方をしているようで、うーん、と小声でうめく。

「昨晩はお愉しみのようだったわね」

宿帳をカウンターに置いて、わざわざ近くまで寄って行ってファトナは言葉を放つ。レーンの顔が赤くなる。それからこちらを恨めしそうに睨む。

「アタシの無知につけこんで……あんなことをさせて……この男はヘンタイすぎるぞ……」

そんな誤解を生みそうな恨み言はやめてくれ、と言いかけたがファトナの光り輝くような笑顔と弾んだ言葉に遮られた。

「あらあら!まあまあ!そんなに!ロスさんもやるわね!」

ファトナは興味津々といった様子でレーンの表情を覗こうと顔を寄せたが、レーンは腕で壁を作って顔を伏せ、ファトナとの会話を拒否した。

それから宿帳を引っ張ってきて俺の名前の確認した。

「……ロスか。おいロス」

さっき命名されたばかりの名を呼ぶ。なんとなく、悪くない響きだと思った。

「何だ?」

「市場。今日は市場に行くぞ、朝メシを食ったらすぐに出る」

レーンは顔を伏せたまま、こちらを指さして指示する。




西の市を一通り眺め、東の市に入ると、風景だけでなく匂いまでもが違っていた。日用雑貨の売買が中心の西の市場に比べて、東の市は他国からの物産や奢侈品が中心らしい。

「見ろ、この絨毯を。この細かな文様、こんな逸品は中々見れないぞ。銀貨五枚はするんだぞ」

「この銀細工に中心に埋め込まれているのは南の果てで取れる紫輝石だ。周りの黄玉は北のものだ」

「東で見つかる竜骨も大小揃っている。この青白い輝きは素晴らしいな」

「この三日月の形をした果実は非常に甘い上に香り高い。貴族が宴を開く際には欠かせないものだというぞ」

と、自身が知る物産の説明をして回るレーン。東の市では、こんなにも各地から集められた珍品の取り引きが行われているのだ、とレーンは何故か誇らしげに教えてくれる。


「そしてここが、ティトラスのギルドだ。傭兵の募集から魔物の討伐依頼、鉱物や薬草の採取、要人の護衛等々、各種依頼はここに集まる。商組合の管理下にあるが、お前もカネさえ支払えば、個人的な依頼も出せる」

レーンはギルドの扉の横で解説する。実際に入ってみないとどのようなものであるか分からないのだが。

「待て。アタシは入らないからな。見るならアンタが一人で行ってこい」

扉に手をかけると、レーンが制止してくる。何か事情がありそうだが、聞かないでおく。

「なら、今はいいか」

解説者の機嫌を損ねそうなことはやめておく。レーンには気持ちよくこの世界のことを話していてもらいたい。

「じゃあ次、行くぞ。ギルドの向かいの店だ」


道路を横切るレーンについて行くと、フラスコの看板の店に入っていった。俺もそれに続いた。


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