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カネこそすべて 4

「起きろ」

「んが」

背に衝撃が走って目が覚める。何かがぶつかったのかと思ったが、足蹴にされただけだと分かった。


焚火はまだ燃えていた。夜はまだ深い。

女頭目が剣を抜いて立っている。甲冑は付けておらず、辺りをゆっくりと眺めて何かを探しているようだった。

「セルウォルフが出た。悪いが自分の身は自分で守れ」

獣か魔物か、女の様子を見るに、いずれにしろ脅威が迫っているのだろう。

「徒手空拳でか?」

「そこはまあ、上手くやってくれ。致命傷を食らわなければ追い払った後で何とかしてやる」

剣を低く構える女はこちらに構っていられない様子である。

仕方が無いので、掌に銅貨を召喚した。投げれば投石の代わりにはなるだろう。


ソルリス金貨、アクロム銀貨、エバニ銅貨、鉄や鉛でできた雑貨の話を眠る前に聞いておいて良かったと思う。無限に発生させることができるカネは、「知っている」ことが条件のようなのだ。金貨よりは、銅貨の方が重く、投げるにはいくらかマシである。


「手下はどうした?」

「警戒しながらここに集まってきている。まだ誰も欠けてはいないようだ」

何らかの手段で連絡を取り合っているようだが、まだ手下の姿が見えない。合流できれば心強いのだが。

「セルウォルフというのは手強いのか?」

「中型のオオカミの魔物だ。爪や牙が鋭いが、一撃で死ぬような攻撃はしてこない。ただ、連携して襲ってくるから厄介だ」


森の中から手甲だけをつけた手下二人が槍を持って現れた。傷は負っていない。

「姐さん、4頭はいますぜ。あと2人が戻ってきてくれれば十分追っ払えるが」

そう声をかけた瞬間、周囲の枝葉のざわめきが大きくなった。

「来るか」

女がつぶやくと同時に獣が飛び掛かってきた。

獣の牙が火に反射して光る。高く飛び上がり、その勢いのまま女を襲う。

女は怯むことなく身を低くすると同時に駆け、獣の下に潜り込んで、剣を払った。下から腹を斬られた獣は墜落し、叫びながらのたうち回った。

別の方向では、手下二人が連携し、二組の槍で1頭のセルウォルフをけん制しながら傷を負わせていく。

4頭の魔物だと言っていたが、現れたのは2頭。

残りの2頭は別の手下を襲っているのか。連携して襲うという話だったが、どこにいるのだろうか、と考えた瞬間、背後から影が降ってきた。

「焚火に飛び込め!」

女の指示に従って火に向かった。振り向いている暇は無い。

火を飛び越え、女とすれ違う。女の剣が体のすぐ近くを通過していく。風圧と、遅れて飛び散る火。背後で、両断されたセルウォルフだった塊が火に突っ込み、火の粉が飛んだ。


振り向くと薙いだ剣に向かって、もう1頭が飛び掛かっていた。距離が近く、体勢を立て直す時間が無い。

女は何とかセルウォルフの牙を剣で受け止めた。人と獣の組み合いになる。単純な力は獣が上。牙と剣は互角だが獣にはまだ爪がある。獣が爪を振り上げる。

投擲。思わず、握りしめていた銅貨を獣に向かって投げていた。

注意がこちらに逸れた。牙も爪も女から離れ、こちらに向かってセルウォルフが疾駆してくる。

ただ一つ持てる一撃はすでに放った。こちらにはもう武器は無い。盾も無い。幸い女に向かった爪は下ろされることなく無傷である。

息を吐く。初撃、致命傷さえ避ければ、女が追い付いて切り伏せてくれる。

獣が咆哮と共に迫る。顎を大きく開け、牙をむき出しにしている。

一撃を確実にもらうなら、腕か。腕を犠牲にして命を拾うなら安いものが、今後不便にはなるだろう。

右腕を獣に向けて気付いた。しまった。利き腕だ。

そう思ったときに閃いた。


鈍い衝撃が右腕を通して体に伝わってくる。

セルウォルフは右腕を砕かんと噛みついた。そして一瞬動きを止めた。

怯んだ。それから女の剣がセルウォルフを真っ二つにした。


「大丈夫か?すぐにポーションを塗ってやる」

剣を捨て、袖をまくり上げた女が目を見張った。

大量の鉄銭や銅貨が破れた服の袖から流れ落ち、地面で山を作った。

噛まれる瞬間に腕の周囲を銭で満たしたのだ。肩が外れるのでないかと思うほどひどく重かったが、貨幣で包んだ腕に傷は無く、服の袖が破れただけだった。

「……ふふふ。カネを持っていて助かったな」

女が目を細める。火の粉を被ったのか、少しすすけた顔だったが、綺麗に見えた。


「姐さん、大丈夫ですかい?そっちのも」

今頃になって、残りの手下二人が姿を現した。

おせーよ。とは声に出せず、俺はしゃがみこんだ。今頃になって汗が噴き出てきて、顎を伝う。

「あー、しんどい」

「コイツ、中々やるじゃないですか。姐さんをかばって、セルウォルフを引き付けてたぜ」

「生かして連れ行く意味はあっただろ?」

何故か女が誇らしげに言う。

野盗全員が焚火の近くに集まって来た。誰も傷を負っている様子はない。慣れた様子はやはり傭兵。集団戦闘の玄人なのだろう。

「さあ、さっさと血抜きと解体をするぞ」

これ以上の襲撃がないことを確認すると、女が全員に声をかけた。それを合図に手下たちがめいめいにセルウォルフの死骸に向かっていく。

血抜き。解体。食肉にでも加工する気か。


「おい、まさか。さっき食った肉は」

「……ふふふ」

女が口元だけで笑う。ふふふ、じぇねえよ。


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