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カネこそすべて 2

突きつけられた刃が前後左右に四本。五人の野盗に囲まれていた。


森の中を歩くこと一昼夜。これはもうダメかもしれないと思った時に現れた彼らが天使のように見えた。


「ボウズ、有りガネ全部置いていけ。素直に従えば命だけは助けてやる」


正面の、鎧に身を包んだ男が、槍の穂先をこちらに向けて言う。

そうだそうだ、と左右と後ろの男も声を上げる。少し離れてもう一人、頭からフルプレートで覆われた者が腕を組んで立っていたおそらく頭目だろう。


「ははははははは!君たちのような者を待っていたぞ!」

嬉しくて思わず声が大きくなった。男たちは一瞬面食らったようだったが、すぐに視線をフルプレートに集める。


「心配するな、カネならあるぞ!いくらほしい?」

「だから、有りガネ全部と言っているだろう!」

「いくらでもくれてやるって言ってるんだ!何を!どれだけ欲しいか言ってみろ!」

勢いで押すと、野盗たちが少し怯む。取り囲むのは素早かったが、野盗にしては荒々しさの欠けた集団だ。


「なら、ソルリス金貨だ。1枚でも持っているならな」

腕を組んだままの頭目が言った。少し低めの声だが、女の声だった。


「よしわかった」

懐に手を入れ、「ソルリス金貨1枚」と念じる。硬くて冷たいものが現れ、取り出した。

「ほら、これがソルリス金貨だ」

正面の男に渡すと、槍を下げてまじまじと金貨を眺めた。表を見たり裏を見たり、けげんな様子で見ている。

「お頭。これ、本物ですかね?」

驚いたことに彼ら自身もソルリス金貨とやらを見たことがないようだった。

頭目もバイザー越しに金貨をしばらく眺めていたが

「正直分からないけどよ」

とバイザーを外して金貨を噛んだ。現れた顔は少し日に焼けた肌に紫がかった目。鼻はさほど高くないものの、筋が通っていて、整った顔立ちだった。

「ほら、跡がついた。金ではあるな」

そう言って嬉しそうに目を細めた。美人だ。



「私はこの金貨をまだまだ所持している。このカネで君たちを雇いたい」

既に包囲は解かれていた。野盗たちは俺よりもソルリス金貨に興味があるようで、一人一人順番に金貨を手にとっては眺めていた。

「俺を、ここから最も近い街まで連れて行ってほしい」

呼びかけると、野盗たちの視線が女に集まる。

「姐さん、どうする?あいつ、カネは持ってるようだが怪しいですぜ」

野盗に怪しいとは言われたくない。


「怪しい者じゃない。俺は行商人だ。御者に騙されて馬車ごと荷物を持ち去られたのだ」

女頭目は顎に手を当て、うっすら笑う。面白い動物を観察しているかのようだ。

「カネならまだあるぞ。道案内と護衛をしてくれればもう1枚この金貨を渡そう。街に行けばもっと用意できる」

少しの沈黙の後、女は鼻で笑った。

「別に、これ1枚あればもう充分だけどな。なあ、お前ら」

手下がうなずく。女が金貨を懐にしまう。

「さあ、ずらかるぞ。十分に儲けはいただいた。ソイツは放っておけ」

女は背を向けて歩きだした。他の者もそれに従う。

これはマズい。このまま彼らに去られてはどんな世界なのかも分からずに飢えてしまう。

カネが湧き出る以外の力がない俺にとって、一人森の中でさまようなら、奴隷として連行される方がマシかもしれない。


「待て!頼むから待ってくれ!助けてくれ!もう丸1日何も食っていないんだ!それに道だって分からない。このままじゃ野垂れ死にだ!頼むから街まで連れて行ってくれ!」

叫びながら踵を返す一行を追いかける。さっきまでの自分の威勢はどこへやら。情けない。

「なら3枚。前払いだ」

振り向いた女が指を三本立て、満面の笑みで言った。





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