想定外の奇襲
人数を修正します。
同格の者が五名→同格の者が四名
「何!?援軍が全滅だと!?」
ワルド大陸最南端にある、港を併設された砦。かつては他の大陸から航行してきた船の寄港場所兼検疫場にして港町でもあったが、現在はヤミー軍ワルド大陸侵攻軍司令部が置かれていた。その砦の一室にて、侵攻軍の指揮官である魔王は、伝令から報告を聞いて驚愕した。
「はっ!たった一体の魔物の攻撃により、援軍として派遣した十万の軍勢が消失しました!」
「あり得ない・・・!・・・!まさか、五大竜か!ならば、それにも説明が・・・!」
「・・・いえ・・・軍を全滅させたのは、五大竜ではないようです・・・。」
「五大竜ではないだと!?・・・奴らには、五大竜の他に強力な魔物を従えているというのか・・・!?」
「・・・おそらくは。」
「・・・。」
魔王は、がっくりと椅子に座り込む。その表情からは、焦りと絶望が見えた。
(・・・勇者の力を侮っていた!まさか、五大竜以外にも隠し玉を持っていたとは・・・!・・・このままでは、ワルド大陸から押し出されてしまう・・・。そうなれば・・・私は・・・!」
自分の未来を想像し、魔王は身震いする。それは、伝令を伝えた魔兵士も同様であった。
「・・・もはや形振り構ってはいられん!全軍を投入し、勇者共を始末する!」
「全軍を・・・ですか!?」
「ここでしくじって帰還などすれば、ヤミー様からどのような処罰を受けるか・・・。いや、確実に楽には死ねまい!そうなるくらいなら、多少の犠牲は覚悟の上で勇者を仕留める!全軍に伝えよ!明日の夜明け、勇者共に総攻撃を仕掛ける!」
「了解!至急、全軍に伝達しま・・・!」
「た・・・大変です!」
伝令が退室しようとしたその時、魔兵士が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「何事だ!?」
「きょ・・・巨大な津波が・・・!」
「何だと!?」
魔兵士の言葉が終わるや否や、彼らの耳に不穏な音が聞こえてきた。
「・・・まさか・・・!」
「・・・あれだな。ヤミー軍の拠点。」
砦から遠くの断崖から、風太達は砦を観察していた。
「あそこを制圧すれば、この大陸からヤミー軍を追い払うことができる。」
「・・・ようやくここまで来たんだ・・・。」
「今度の戦いは、出し惜しみはしなくていいよ。最初からフィードとエリアスでいけばいい。」
ソウの解禁に対し、風太は首を横に振る。
「・・・いや、フィード達は使わない。」
「どうして?フィード達を出せば、すぐに済むはず・・・?」
「ヤミーはずる賢いだろ。俺達が奥の手を出して疲弊したところを不意打ちするかもしれない。だから、フィード達は出さない。」
「さすがに考えすぎだと思うけどね。それに、今の君達なら、そこまで消耗することもないと思うけど。」
ソウは笑いながら肩を竦めるも、風太は真剣な表情を崩さない。
「渚。ウンディーネに頼んで津波を起こしてくれ。敵を一掃できるし、生き残ってもダメージがデカいはずだ。」
「分かった。【サモン・ウンディーネ】!」
風太に促され、渚はウンディーネを召喚する。
「ウンディーネ。あの砦に向かって津波を起こせる?」
『可能です。あの程度の砦なら、苦も無く崩壊させられます。』
ウンディーネは、何てこともないように言ってのける。
「さすがは水の高位精霊・・・凄いな。」
『ですが、あの砦にいる数名は生き残ると思います。私と同格の者が四名、私より強い者が一名います。その者達を倒すことは無理でしょう。』
「多分、四人は魔将軍で、一人は魔王だよ。いくらウンディーネでも、奴らを倒し切るのは難しいだろうね。」
「無理に倒し切らなくていい。雑魚を一掃するのが目的だ。」
「ウンディーネ、それでいいからお願い。」
『分かりました。・・・。』
ウンディーネは、海を見つめる。すると、水平線の向こうから、巨大な津波が砦に迫ってきた。遠くから見ても、その大きさがとんでもないことが分かるほどだった。
「!おい!デカすぎないか!?ここまで来るぞ!」
「う・・・ウンディーネ・・・大丈夫・・・?」
『安心しなさい。ここまではやってきません。砦を沈めたら、すぐに引かせます。』
「・・いや・・・そう言うことじゃなくて・・・。」
『中の敵の強さを考えれば、これくらいは必要です。』
「・・・じゃあ・・・このままお願い。」
渚は、ウンディーネに全て任せることにした。ウンディーネが起こした大きな津波は、砦をあっという間に呑み込まれ、津波が引いた後には何も残っていなかった。いや、正確には、五人分の人影が残っていた。
「・・・想像以上だな。砦がこうもアッサリ・・・。」
「・・・でも、あれで生き残っている敵がいるなんて・・・。」
「大丈夫だよ。あれで無傷な奴なんて、そうはいないよ。見て。彼らは全員ダメージを負っている。」
「・・・みたいだな。よし、行くか。【サモン・キングピーコック】!」
風太は、キングピーコックを召喚すると、背中に乗る。
「キングピーコック。あの砦の跡地に水移動してくれ。一気に畳みかける!」
『分かった。』
キングピーコックの身体が、まるで水のように変わると、断崖下の海へと溶けるように消えていく。残された渚とウンディーネは、心配そうな面持ちで成り行きを見守るのだった。
「・・・何が・・・起こったのだ・・・?」
魔王は、状況が呑み込めなかった。突然、何の前触れもなく津波が砦を襲い、一瞬にして崩壊してしまったのだ。生き残ったのは、自分と魔将軍四人のみ。あり得ない状況に、魔王は完全に混乱していた。
「魔王様・・・これは・・・!?」
「・・・分からん・・・何故急に津波が・・・!?」
「・・・もしや、勇者からの先制攻撃では・・・!?」
「・・・水竜エリアスの力か・・・!?」
魔将軍達の言葉に、魔王はエリアスの存在を思い浮かべる。こんなとんでもない津波を引き起こすなど、水の神と言われるエリアス以外に考えられなかった。
「・・・魔王様・・・これからどうします・・・!?」
「・・・やることは変わらん!刺し違えても勇者を殺す!魔兵士は使えない以上、我々だけで・・・!」
「それは無理だな。」
突然聞こえた声に、魔王達は声のした方を向く。そこには、巨大な孔雀と、その孔雀に乗る少年の姿があった。
「・・・お前達はもう終わりだ。」




