ガルーダの進化
「・・・まさか、本当に勝てるとは思わなかったな。」
ヤミー軍を壊滅させた風太は、その状況を半ば信じられなかった。こちらは大した損害もなく、一万を超える軍隊を壊滅させたのだ。かつての自分から考えると、信じられないほどの戦果である。
「私も驚いた。【水精霊の衣】の効果もあったんだろうけど、それを抜いても魔法の威力が強くなってた。」
「だから言ったじゃないか。大丈夫だって。今の君達は、Aランクの魔物とだって平気で戦えるレベルになっているんだよ。まあ、それを理解させるために、今回戦ってもらったんだけどね。」
ソウは、今回の戦いの意図を二人に説明する。口で説明するよりも、実際に体感した方が理解できると考え、戦わせたのだ。
「でも、こんなに大勢の兵士が倒されたって知ったら・・・。」
「この大陸を侵攻している魔王の耳に入るね。確実に。そうなれば、直接排除に来るだろうね。」
「・・魔王・・・。」
風太の脳裏に以前、王都を襲撃してきたアロンの姿が過った。
「・・・そろそろ、あいつみたいな奴を戦わないといけないわけか。」
「そうだよ。でも、魔王なんて序の口だよ。ヤミーと比べればね。そもそも、アロンだって、渚がモーゼに魔力を送れば勝てるレベルなんだ。指揮を執っている魔王は、アロンより弱い。今の君達なら、問題なく勝てると思うよ。」
「アロンより弱いか。・・・でも、敵だってやられっ放しなわけじゃない。全力で俺達を潰しに来るだろうな。」
「じゃあ、一旦休憩する?」
「そうだな。きっと、厳しい戦いになるだろうからな。休める時に休んでおこう。皆、一旦戻ってくれ。」
風太は、召喚した魔物達を戻そうとする。だが、フェニックス達はカードに戻ろうとしなかった。
「?・・・どうしたんだ?」
『主よ。ガルーダの様子が・・・。』
「え?」
よく見ると、ガルーダが目を閉じたまま動かなくなっていた。
「ど・・・どうしたんだ、ガルーダは?どこか怪我したのか!?」
『怪我ではない。これは、【進化】の予兆。ガルーダが上位種へと【進化】するのだ。・・・勇者よ。これは普通なら見ることのできない光景だ。』
「・・・ガルーダが・・・【進化】・・・!」
それを聞いて、風太はガルーダに近寄る。
『ガルーダ!お前、【進化】するって言われてるぞ!よかったな!』
『・・・。』
『?ガルーダ?』
『主。【進化】の最中は、意識を内に向けている。話しかけても聞こえない。』
「・・・そうなのか。」
フェニックスに言われ、風太はガルーダから離れる。ガルーダは、はたから見れば眠っているように見えた。だが、風太は何かを感じ取っていた。
(・・・ガルーダの身体から、強力な力のようなものが湧き出てくるのを感じる。・・・これが、【進化】か。)
すると、ガルーダの身体が、突如として発光する。光はガルーダを包み、見えなくしてしまう。
「!これは・・・!?」
『【進化】が始まる。・・・さて、ガルーダはどのような【進化】を辿るか・・・。』
『グレーターガルーダか、ガルーダロードか・・・楽しみだ。』
フェニックスとキングピーコックは、ガルーダがどのような進化を辿るか楽しそうだった。それは、風太も同じで、ガルーダの【進化】が終わるのを待った。
しばらくして、光が収まり、その場にはガルーダとは違う魔物の姿があった。外見はガルーダに似ていたものの、大きさは二回り以上大きくなり、羽の色も、煌びやかな虹色に変わり、とても美しくなっていた。
『・・・お前・・・ガルーダ・・・か?』
『・・・【魔物意思疎通】は必要ない。我は、既にガルーダではない。』
「・・・じゃあ、なれたんだな・・・グレーターガルーダに!おめでとう!」
風太は、ガルーダの【進化】を喜び祝福する。
『・・・否。我は、グレーターガルーダではない。』
「え?じゃあ、ガルーダロードか?」
『否。我はロードでもない。』
「ええ?」
じゃあ、何という名前なのかと聞こうとした風太だが、フェニックスとキングピーコックの様子がおかしいことに気付いた。
「?どうしたんだ?二体共?」
『・・・まさか・・・こんなことが・・・!?』
『さすがは勇者・・・驚かせてくれる・・・!』
「?どうしたんだ?ガルーダは、いったい何て魔物になったんだ?」
『・・・あれは、ガルーダルーラーだ・・・!ロードをも凌ぐ、ガルーダ種の支配種だ!ランクは・・・私達を凌ぐ・・・!住む者達の言葉を借りるのなら、Sランクだ・・・!』
「S!?」
フェニックスの言葉に、風太は絶句する。てっきり、Aランクの魔物に【進化】するものとばかり思っていたのに、さらに上のランクになったのだ。驚くのも当然である。
『しかも、あれはただのルーラーではない!気象さえ操るとされる、スパルナガルーダルーラーだ!普通のルーラーより更に上位の魔物だ!そして、属性も風から嵐に変わった!』
「上位属性になったのか!?ただでさえ凄く強くなったのに!?」
『勇者が驚くのも無理はない。私も見るのは初めてだ・・・。魔物達の間では、こう呼ばれている。・・・神に近き鳥・・・神鳥と・・・!』
「・・・神鳥・・・フィードに近い・・・!」
二体の言葉を聞き、風太は驚愕した。Bランクのガルーダが、二ランクも上がって【進化】したうえ、上位属性にまでなるなど、予想だにしなかった。想像以上の【進化】に、風太は喜びよりも驚きの方が勝っていた。
『・・・驚いたぞ。まさか、ロードでもグレーターでもなく、ガルーダの頂点に立つ存在に【進化】するとは・・・!感謝するぞ!我が契約者よ!』
「・・・いや・・・寧ろ・・・どうしてこんなに【進化】したのか・・・俺が知りたいくらいで・・・。」
「知りたいも何も、君の力が増大したことがきっかけに決まってるじゃないか。ガルーダは、君が最初期に契約した魔物だ。長い時間、君の強力な魔力を受け続けていた。それだけでも、時間をかければ【進化】したはずだ。けど、最近の君は、フェニックスやキングピーコックと契約したり、強い魔物と戦って経験を積んで急激にパワーアップした。それが、更なる【進化】を誘発させたんだ。それと、君とガルーダの属性は同じ風属性だった。相性もよかったんだよ。」
困惑する風太に、ソウは当たり前のことのように言う。それを聞いた風太は、ガルーダがかつて言っていた言葉を思い出した。
「・・・『強き導き手の側にありしもの、更なる高みへと至らん。』ガルーダが前言ってた言い伝えだ。ガルーダは、強いテイマーのことじゃないかと言っていたけど・・・その判断は正しかったんだな。」
「ははは。でも、この世界の人間には難しかったと思うよ。君みたいな規格外の魔力が必要になるからね。今回は、最初に契約したガルーダが【進化】した。この調子だと、フェニックスやキングピーコックも【進化】するかもね。どんなSランクの魔物になるか楽しみだ。」
「・・・。」
ソウの言葉に、風太はAランクの二体を見る。いずれはこの二体も【進化】する。ガルーダの例が当てはまるのなら、常識を超えた【進化】を。そう思うと、風太の心はワクワクした。男なら、カッコいいものに憧れるというのは性である。風太も例外ではなかった。
『・・・我が契約者よ。どうやら休んでいる暇はないようだ。』
「?」
『遠くから、先ほどより多くの軍勢がこちらに向かっている。どうやら、援軍のようだ。』
「もう来たのか・・・!」
予想よりも早い追撃に、風太は身構える。だが、ガルーダは翼で風太を制する。
『丁度いい。【進化】した我が力、どれほどのものか試すとしよう。契約者よ、我に命じよ。』
「・・・分かった。好きなだけ暴れてこい!」
『心得た!』
風太からの命を受け、スパルナガルーダルーラーとなったガルーダは、敵の大軍へと飛んでいく。そして、瞬く間に大軍は消滅してしまうのだった。
フェニックスとキングピーコックは、どのような進化を辿るのか・・・こうご期待!
あと、名前が長すぎるので、スパルナガルーダルーラーは普段はガルーダと呼びます。