予想を超えたパワーアップ
「ば・・・馬鹿な・・・!」
魔将軍は、目の前の状況が信じられなかった。たった二人の人間に、いや、正確には、二人とそのうちの一人が使役する魔物達によって、自身の、いや、自身と同僚達が指揮する部隊が全滅したからだ。兵力は、合計して一万はゆうに超えていたのだ。魔将軍も自分を含めて六人はいた。普通に考えれば、負けることなどあり得ない。だが、現実に部隊は全滅、自分以外の同僚も戦死し、自身も撤退不能なほど痛手を負ったのだ。対する、敵である二人と魔物達は全くの無傷であった。
「・・・あり得ない・・・!人数は我々の方が上だった・・・!兵力もだ!・・・なのに・・・!・・・これが勇者の力だとでも言うのか・・・!?」
「・・・ガルーダ、キングピーコック、フェニックス。・・・やれ。」
対峙している男が、背後にいる鳥型の魔物達に命じる。鳥型の魔物達の一斉攻撃が、魔将軍を襲う。それが、魔将軍の見た最期の光景だった。
十分前、風太達は、魔将軍達が率いる大規模部隊の様子を窺っていた。
「・・・千・・・二千・・・もっといるな。数えきれない。」
「正確な人数は、一万と二千七百だね。指揮している魔将軍の数は六人。オロバスほど強くはないけど、それでも油断できる相手じゃないね。」
「あれを全部倒すの?魔力足りるかな?」
「大丈夫だよ。今の君達なら、力を実感するのにもってこいだよ。」
敵の数の多さに不安になる二人に、ソウは何でもなさそうに言う。
ウンディーネの湖を出て以降も、風太達はヤミー軍の部隊を壊滅させ、魔将軍を撃破してきた。ここまで数が多いのは初めであったが、ソウは問題ないと判断した。二人の力は、彼ら自身が想像している以上に強くなっていたのだ。
「・・・そうだな。俺達、結構強い魔物と契約できたし、魔将軍だって何度も倒してきたんだからな。」
「でも、どうやって戦うの?正面から堂々と・・・は危険だと思うけど?」
「・・・いや、正面から行こう。ガルーダに乗っていく。」
「え?大丈夫なの?それに、どうしてガルーダ?ランクならキングピーコックやフェニックスの方が・・・。」
「単純なスピードなら、ガルーダの方が速い。それに、ここ最近は、ガルーダが強くなってきているんだ。二体よりも早く行けると思う。」
「そうなの?私は・・・よく分からないんだけど・・・。それで、ガルーダに乗ってからどうするの?」
「俺が合図をしたら、渚は攻撃範囲の広い魔法を使ってくれ。何でもいい。範囲が広ければ。」
「分かった。」
「じゃあ行くか。【サモン・ガルーダ】!」
風太はガルーダを召喚すると、ガルーダの背中に乗る。
『ガルーダ、敵軍の中央にまで飛んでくれ。全速力でだ。』
『分かった。・・・それと、お前に伝えたいことがある。』
『?何だ?』
『前に話したな。我の願いを。』
『ああ。【進化】することだろ?覚えているけど?』
風太は、ガルーダと契約した時のことを思い返した。彼は、契約する代わりに、自身を上位種に【進化】させることを要求していたのだ。
『・・・最近、我が身に妙な高ぶりを感じるのだ。・・・もしや・・・。』
『!【進化】の兆候か!?』
『まだ分からぬが・・・この戦いで掴めるやもしれん。』
『・・・分かった。なら、なおさらお前を使わないとな。頼りにしてるぜ。』
風太に激励されたガルーダは、指示通り敵軍の上空を最高速で飛んでいく。
「!何だ、あれは!?」
「魔物だ!しかもデカいぞ!」
突然の魔物の出現に、魔兵士達は動揺する。
「落ち着け!我々がいるのを忘れたか!」
「あれはガルーダだ!ランクはB!俺達が出れば、瞬殺できる!慌てるな!」
動揺する兵士達を、魔将軍達が制する。それを見た兵士達の動揺が、少しずつ鎮まっていく。それだけ兵士達にとって、魔将軍の存在は大きいものなのである。
「・・・しかし、何故こんな場所にガルーダが?しかも、あんな低空で飛行している?」
「さあな。だが、下手に仕掛けなければ問題あるまい。我々なら倒せるとはいえ、下手に刺激すれば部隊に被害が出る。」
「だな。無理して落とす必要もあるまい。」
「もし、奴が仕掛けてきたのなら、俺達で対処することにしよう。」
魔将軍達は、ガルーダを下手に攻撃せず、様子を見ることに決めた。如何に倒せる魔物とはいえ、ガルーダは強力な魔物。怒らせるのは得策ではないと判断したのだ。だが、その判断が、最悪の結果をもたらすことになるなど、彼らはまだ知らなかった。
「・・・よし、そろそろ中心だな。渚、魔法を!」
「【レインアロー】!」
敵軍の中心地点まで移動した風太は、渚に魔法を使わせる。ガルーダを中心に雨雲が現れ、雲から矢の形をした雨が魔兵士達に降り注ぐ。
「!何だ!?ぐわっ!?」
「これは・・・水魔法!?うごっ!?」
突然の奇襲に、魔兵士達は動揺し、浮足立つ。強化された渚の魔法は、魔兵士くらい易々と倒せるほどになっていたのだ。さらに、範囲も大幅に拡大し、敵の大軍にも影響を与えられるほどになっていたため、魔兵士達は大勢、渚の魔法で葬られてしまった。
「に・・逃げろ!やられるぞ!」
明らかな異常事態に、兵士達は雨雲の範囲から逃れようとする。だが、それを逃がす風太ではない。
『ガルーダ!渚の魔法に風を送って援護してくれ!』
『分かった。それくらいなら翼を使うまでもない。』
ガルーダは、簡単な風を起こすとそれを使って【レインアロー】を飛ばす。飛ばされた【レインアロー】は、逃げようとしていた敵達に容赦なく降り注がれる。
「何だと!?」
「どうなってるんだ!?」
逃れられたと思って魔兵士達にも攻撃が降り注ぎ、混乱はさらに大きくなっていく。最初の頃は呆気に取られていた魔将軍達だったが、ハッとして行動を起こし出す。
「!?いかん!おかしなことが起こって思考停止していた!あれは明らかに異常だぞ!」
「ガルーダが水魔法など使えるか!敵襲だ!敵はガルーダに乗ってきたんだ!」
「まさか、ガルーダを使役するほどのテイマーとは・・・!」
「抜かった!全員であのガルーダとテイマーを始末するぞ!」
その様子を見た魔将軍達は、慌ててガルーダに向かっていく。乗っているであろうテイマーを始末するため。
「そうはいくか!」
そこに、風太はガルーダの上から地上に降りていく。そして、重力加速度を利用し、魔将軍の一人に切りかかる。
「!」
不意を突かれた魔将軍の一人は、風太に首を刎ねられ、その場に倒れた。
「!貴様!」
「よくも!」
同僚を倒された魔将軍達は、攻撃対象をガルーダから風太に切り替え、全員で襲い掛かる。
「おっと!」
風太は、地面に魔法を放ち、上空に上がる。
「逃がすか!」
魔将軍の一人が、風太を追いかけるべく跳び上がる。その様子から、身体強化をしているのであろう。だが、それが悪手だった。
「【サモン・フェニックス】!」
その魔将軍に、風太はフェニックスを召喚してぶつける。フェニックスの燃え盛る身体から繰り出される体当たりを直撃した魔将軍は、全身を焼かれて焼死してしまう。
「!何だと!?フェニックスだと!?Aランクの魔物を!?」
ガルーダだけではなく、フェニックスまで召喚したことに、驚きを隠せない魔将軍達。だが、これだけでは終わらなかった。
「【サモン・キングピーコック】!」
続けて風太は、キングピーコックを召喚する。煌びやかな羽を持つ孔雀が、敵軍の上空に出現する。
「キングピーコック!渚を援護してくれ!」
『分かった!メイルシュトローム!』
キングピーコックは、周囲に大渦巻を発生させる。渚の魔法から生き残った敵兵達は、渦に呑まれてしまい、さらに数を減退させていく。
「!希少種の魔物まで!こいつ・・・何者だ・・・!?」
「まさか・・・勇者か!?五大竜の契約者では!?」
「馬鹿な!勇者は別の場所で戦っているはずだ!」
「・・・だが、この強さは勇者としか言いようが・・・!」
風太の正体に気付き、戦慄する魔将軍達。そんな魔将軍達を、風太は睨む。
「・・・一人も残さない・・・全員消えてもらう。」
そこから先は、もはや戦いではない、一方的な虐殺だった。渚の魔法とガルーダの援護、フェニックスとキングピーコックの範囲攻撃、そして、風太に鬼神の如き戦いっぷり。ヤミー軍は、満足な抵抗もできず、逃げようとする者も容赦なく倒され、全滅していった。それはまるで、今までヤミー軍のやってきた行いが、全て返ってきたような結果であった。