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ブレイのトラウマ2

 「・・・終わったな。」

 焔は、震に支えられながら周囲を確認する。もはや、町のあった痕跡などは見当たらなかった。何もかも焼き尽くされ、焦土と化していたのだ。

 「そうだね。・・・でも、これは少しやりすぎだよ。見なよ。町の人達、すっかり怯えている。敵じゃなくて、ブレイにだ。」

 震は、そんな惨状に顔をしかめる。多少町に被害は出るだろうが、ここまで壊す気などなかったからだ。その上、ブレイが暴れた姿を見たことで、救出した人々は恐怖し、すっかり萎縮していた。

 「・・・おい、ブレイ。何でここまでやったんだ?おまけに俺の魔力まで勝手に持っていきやがって・・・!そもそも、合図を待つ手筈だったのに、どうして待たなかったんだ?」

 『・・・。』

 「・・・まあ、今更言っても仕方ない。ブレイのおかげで楽になったのは事実だからね。」

 「・・・けどよ・・・。」

 『お~い、お前ら~。』

 すると、遠くからサラマンダーが焔達の許にやってきた。新たな魔物の出現に、人々に緊張が走る。

 「大丈夫です。彼は、僕らの仲間です。」

 震は、彼らにサラマンダーは敵ではないことを伝える。それを聞いた人々は、まだ警戒しながらも、先ほどより落ち着いていた。ブレイと比較すれば、まだマシに見えたのだ。

 「サラマンダー!お前・・・大丈夫だったのか?」

 『ああ。神が降り立ったのを見て、すぐに逃げたからな。』

 「お前でも逃げるのかよ?」

 『神の力の前には、俺の火耐性など役に立たない。本気を出せば、この世のどんなものでも焼き尽くしちまうんだからな。』

 「・・・そんなにヤベー火力なのかよ・・・そりゃ撃ったらこうなるな・・・。」

 サラマンダーの告げたブレイの火力に、焔はブレイの強さを改めて痛感する。

 「・・・とにかく、今回は助かったぜ。戻れ、サラマンダー。」

 焔は、サラマンダーをサモンカードに戻す。

 「・・・ふう・・・さすがの俺も、これ以上はしんどいぜ・・・。少し休みたいな・・・。」

 「・・・そうだね。君がこんな状態じゃ、これ以上の解放は無理だね。少し休む・・・。・・・いや、一旦、王国軍と合流した方がよさそうだ。」

 「ん?何でだ?」

 「町の人達を連れて解放作戦を続けるなんてできないよ。彼らは非戦闘員なんだから。」

 「・・・そうだな。じゃあ、軍と合流すっか。・・・でも、軍は今どの辺りにいるんだ?」

 「そうだね・・・軍の進軍速度と日数を加味して・・・この辺りだと思う。」

 震は、地図を見て、ラグン軍がどの辺にいるかをだいたい推察して指し示す。

 「・・・以外と近そうだな。じゃあ行くか。」

 「その前に、彼らに話を付けておかないとね。一度にいろんなことがあって混乱しているだろうしね。」

 「頼むな。・・・俺、さすがに疲れた・・・。・・・寝る。」

 『・・・寝るなら俺に乗れ。・・・さっきの詫びだ。』

 ブレイは焔に、背中に乗るよう促す。焔は、言われるままに背中に乗ると、そのまま意識を手放した。


 「・・・それで、説明してくれないかな?どうしてあんなに暴れたんだい?」

 ラグン軍との合流を目指して移動している最中-震は町の人々の先頭を歩き、隣は低空飛行で進むブレイがいる-、震は、ブレイにビギの町で暴れたことについて問いただしていた。

 焔の方はというと、魔力切れと体力の消耗が激しかったため、すっかり眠っていた。

 「最初僕は、君が囮が不満で来たのかと思った。だけど、あの時の君の暴れっぷり・・・明らかに普通じゃなかった。・・・君は、ヤミーから力を与えられた存在を嫌悪、いや、憎悪しているんじゃないのかい?」

 『・・・。』

 「ひょっとして、君がずっと神殿で寝ていたのと関係あるんじゃないのかい?」

 『・・・。』

 「・・・ダンマリも構わないけど、このまま黙っているようなら、このことをソウには報告しておくよ。」

 一向に何も話さないブレイに、震はソウにこれまでのことを話すと言い、半ば脅しをかける。

 『!おい!てめぇ!創造神にチクるなんて反則だぞ!』

 沈黙していたブレイは一転、慌てた様子で震に抗議する。

 「君が素直に話してくれればいい。そうすればソウには言わないよ。」

 『・・・お前、【魔物意思疎通】は使えるか?』

 「・・・一応はね。・・・でも、どうしてわざわざそれを?」

 『・・・他人に気安く話すことじゃねーからだ。』

 『・・・分かった。これでいいかい?』

 震は、ブレイの要求通り、【魔物意思疎通】で会話することにした。

 『・・・創造神がいなくなってだいぶ経った頃だ。当時、俺達は今とは違う場所を自身の縄張りにして、アナザーワールドを守っていた。・・・いや、そこまで固いことしてたわけじゃねーな。フィードは自由に空飛んでたし、ランドも洞窟に引き籠ってた。かく言う俺も、一日中ほとんど寝ていたしな。』

 (・・・それ、ほとんど今と変わらないじゃないか・・・。)

 震は、内心そう思いながらも口にするのはやめた。

 『そんな時、フィードの奴が慌てて俺のねぐらに来たんだ。どうしたんだと聞いたら、『ヤミーが暴れて多くの魔物や住む者達を殺してる。』って言ったんだ。』

 『大昔、ヤミーと君達が戦ったあの戦いが起こったってことだね。』

 『・・・だがな、俺はフィードの話を信じなかった。・・・あいつは怒って行っちまったよ。』

 『それはそうじゃないか。竜が暴れることの危険性は、竜が一番理解していることだろう。それを無視するなんて・・・。』

 『仕方ねーだろ。ヤミーがそんなことするなんて思いもしなかったんだ。・・・あいつは、大人しい性格で、人懐っこかった。いつも魔物と戯れている、そんな奴だったんだ。他の竜とも仲が良かったし、俺にも懐いてたんだ。だから、そんなことするわけがねー。・・・そう思ってたんだ・・・。』

 ブレイは、どこか遠くを見るような目で震に語る。震は、ブレイの様子から、かつてのヤミーが本当に大人しい存在だったのだと悟った。

 (・・・でも、そうだとやっぱり気になるな。どうしてそんなヤミーが急に世界征服なんて考えたのか。・・・まあ、この様子だと、ブレイも知らなそうだね。)

 『だが、次第に俺の領域が騒がしくなってな。何事かと思って出てみれば、よく分からん連中が、俺の領域に住んでいる魔物や住む者達を片っ端から殺し回っていたんだ。』

 『・・・その連中って・・・。』

 『察しがいいな。・・・そうだ・・・ヤミーの眷属だ・・・!今では、魔兵士だとか、魔将軍だとか呼ばれている奴らだ・・・!』

 ブレイの語気が強くなる。その様子から、怒りが滲み出ていた。

 『あいつらは、見境がなかった!弱い魔物、強い魔物、女子供構わず殺していやがった!しかも、それを楽しんでやがった!いかれた連中だった・・・!・・・あいつらの襲撃で、俺の領内にいた魔物や住む者達は、ほぼ皆殺しされた・・・!』

 『皆殺しって・・・どうしてそんなになるまで・・・!』

 『・・・言わなくても分かってんだろ?・・・俺が、ヤミーに対して甘かったからだ・・・!あいつら、こう言ってやがった!『ブレイは自分に甘い。自分が何をやっても黙認するから奴の領内で好き放題やれ。』ってな!だからあいつら、俺の領域に押し寄せてきたんだ!そして、手当たり次第に殺していきやがった!まるで、イナゴが草木を食い尽くすような勢いでな・・・!』

 ブレイはとても悔しそうに語る。その様子から、どのような惨状だったのかうかがい知ることができた。これが、ヤミーの眷属を憎む理由なのかと、震は察した。だが、同時に疑問も覚えた。

 『・・・君が、ヤミーの眷属を憎むのは分かったよ。でも、いくら数が多くて、君が来るのが遅れたんだとしても、住んでいた人達が皆殺しにされるなんて考えられないよ。君の力なら、一掃できたはずだろう?』

 『・・・俺は、加減が下手なんだ。考えなしに攻撃したら、他の連中も巻き込んじまう。・・・近くにいれば、敵だけを狙えるが・・・離れれば関係ねー。・・・お前も体感しただろう。』

 『・・・。』

 だから、あの時近くにいろと言ったのかと、震は理解した。あの距離が、ブレイが敵味方を識別して攻撃できる限界だったのだと。

 『・・・さっき、奴らに皆殺しにされたと言ったが、ひょっとすっと、奴らに殺されたのより、俺の攻撃で死んだ奴の方が多かったかもな・・・。あいつらを全て片付けた頃には、辺り一面焦土になっていて、誰も残ってはいなかった。・・・敵も・・・味方もな・・・。』

 『・・・自分の手で、住んでいた人達を消してしまったというわけか。』

 『・・・俺は、仮にも創造神からこの世界を任されていたってのにな・・・。ヤミーの暴走を信じなかったせいで眷属共に好き勝手やられ、追い払おうとしたら、守るはずのものを巻き添えにしちまった・・・。・・・結構来たぜ・・・あれは・・・。だから、戦いが終わった後、俺は自分に嫌気が差しちまってよ・・・。』

 『それで、眠っていたのかい?』

 『・・・。』

 ブレイは、力なく頷く。それを見た震は、ブレイの意外な内面を知り、驚いた。

 『・・・要するに、君は自信を無くしてしまっているわけか。意外だね。もっと自信満々だと思っていたのに。』

 『んなの虚勢だ。・・・俺だけじゃねー。フィードにしたって、エリアスにしたって、あの時のことを今でも抱えてるはずだ。・・・あいつらもヤミーとの戦いで、俺と同じようなことをしちまったんだからな・・・。』

 『・・・世界を滅ぼしかけたから・・・かい?』

 『ああ。・・・まあ、あいつらの方が幾分かつええな。引き籠ってた俺と違ってよ。』

 『また意外だね。どんな時でも兄貴面しているとばかり思っていたよ。』

 『ひでーな。俺だって、弟や妹の成長は認めるさ。それが、兄貴ってもんだ。』

 『ふ~ん・・・。』

 『・・・あ、これは絶対に他の奴らに言うなよ?』

 『・・・分かったよ。僕の胸の中にだけしまっておくよ。貴重な話、ありがとう。』

 『・・・頼むな。・・・お、遠くに大勢人間がいるみてーだな。ヤミーの眷属じゃねー。』

 「!王国軍か!」

 震達の視界に、武装した大勢の兵士達が入る。だが、彼らの掲げる旗は、ヤミー軍の旗ではなく、ラグン王国の旗であった。

 「・・・さて、どうやって説明するべきか・・・。」

 震は、王国軍にこれまでの経緯をどう説明するかを考えるのだった。

ブレイは傲慢に見えて、意外に繊細だったりします。

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