表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/161

ブレイのトラウマ1

 『ああ!?ヤミーが暴れてる!?』

 ブレイは気怠そうな様子で、フィードからの話を聞いていた。一方のフィードは、どこか慌てている様子で、そんなブレイの態度に苛立っているようだった。

 『暴れているなんて生易しいものじゃない!魔物も住む者達も、手当たり次第に殺している!あれは、悪意のある災害だ!』

 『大袈裟だな・・・ヤミーがそんなことするか?それに、末っ子なんだから、少々暴れても可愛いもんだろ?』

 『本当なんだ!このまま放置すれば、取り返しのつかないことになる!』

 『あー・・・分かった分かった。もう少し寝たら行く。』

 そう言うとブレイは、いびきを立てて寝てしまう。フィードは起こそうとするも、一向に起きる気配はなかった。

 『・・・もういい!君には頼まない!・・・今日限り兄弟の縁も切る!』

 フィードはまったく取り合わないブレイに愛想を尽かし、飛び去っていった。


 『・・・。』

 地上に降りたブレイは、焔達を囲んでいる魔兵士とトーンを睨んでいた。その目はまるで、忌々しいものを見ているような目であった。

 「お・・・おい!ブレイ!何勝手に出てきてんだ!お前の出番はまだ・・・!」

 『・・・サラマンダーばかりに暴れさせてんじゃねー。少しは俺にもやらせやがれ。・・・それに・・・こいつらは見ていて不快だ・・・!』

 ブレイは、どこか不機嫌そうな、だが、だからといって出番を与えられないで怒っているのとは違う雰囲気で受け答えした。

 (・・・どうしたんだ?・・・何だか様子が変だぞ?)

 『・・・随分と助けた人間が少ねーな。これで全員か?』

 ブレイは、焔達が守る人々を見て、その数の少なさに疑問を覚え、これだけかと聞いてきた。

 「・・・ここにいる人間で全員だよ。・・・他の人間は逃げ出したか・・・ヤミーの生贄に・・・。」

 『!!!』

 震の言葉を聞いたブレイは、顔に青筋を立てる。


 『・・・どうなってんだよ・・・これは・・・!?』

 ブレイは、目の前の惨状が理解できなかった。彼の周囲には、夥しい魔物と住む者達の死体が転がっていた。死体は、全身がズタズタで、原形を留めていないものも多く、見るも無残な状態だった。

 『・・・ひでー・・・酷すぎる・・・!誰がこんなことを!?・・・まさか・・・ヤミーが・・・!?』

 ブレイは、自分の考えをすぐに否定する。自身の可愛がっている弟が、このような凶行を行うはずがないと。

 だが、この惨状の中に微かに臭う臭いは、紛れもなくヤミーのものだった。それが、ブレイを困惑させる。

 『・・・フィードの言ってたことは本当だったってのか?・・・馬鹿な・・・あり得ない・・・!』

 その時、遠くから悲鳴らしきものが聞こえてきた。

 『!あそこか!』

 ブレイは、悲鳴の聞こえた場所へと向かっていく。そこには、この惨状を引き起こした張本人がいるであろう。その正体を確かめるために、ブレイはいつもより速く飛んでいくのだった。


 『・・・ヤミー・・・てめぇはまたあんなんやりやがるのか!』

 ブレイは突如として怒りの咆哮を上げる。その凄まじさたるや、周囲の魔兵士達やトーン、焔や震、救助された人々も思わず尻込みするほどである。

 『ヤミーの不快な儀式のあった地ってんなら、もう容赦はしねー!全部焼き払って灰にしてやる!』

 「お・・・おい!ブレイ!」

 『安心しろ。お前らは焼いたりしねー!だが、てめぇらは死ね!』

 「!全員撤退・・・!」

 トーンは兵士達に撤退を命じようとしたその時、信じられない光景を目にする。なんと、ブレイが目の前にいたのだ。

 「!?速っ!」

 そのままブレイは、トーンを手で掴んでしまう。

 「がはぁ!?」

 『・・・ヤミーの眷属だな。あの嫌な臭いがプンプンしやがるぜ・・・!』

 「は・・・放せ・・・!」

 トーンは抵抗を試みるが、ブレイは手を放さない。しかも、徐々にその手の力は強くなっていく。

 「ぐあぁ!?」

 『・・・。』


 「ははははは!殺せ殺せ!」

 巨大な武器を持った男達が、丸腰の人々を襲っていた。逃げ惑う人々を、まるで遊びのように男達はその武器で殺めていく。

 「最高だぜ!ヤミー様に忠誠を誓って正解だったぜ!」

 「こんな力をくれたんだ!これなら殺し放題だぜ!」

 「ヤミー様、万歳!」

 殺戮に酔いしれる男達。このままでは、人々は皆殺しにされてしまうだろう。

 そこに、上空から凄まじい速さで何かが地上に降り立つ。

 「!?何だ!?」

 男達は、突然の乱入者に身構える。すると、そこには赤色の竜の姿があった。

 「!火竜ブレイ!?何故ここに!?」

 『・・・この臭い・・・ヤミーの臭い・・・!・・・てことは、お前らは眷属か?』

 「そ・・・そうだ!俺達は、ヤミー様の眷属だ!」

 『何故こんなことをする!?ここを俺の領域と知ってのことか!?』

 ブレイは眷属と名乗った男達を威嚇する。すると、男の一人が震えながら答える。

 「や・・・ヤミー様のご命令だ!多くの贄を捧げよとのご命令なのだ!」

 『ヤミーがそんなこと言うわけねーだろ!てめぇら勝手にやってんじゃねーのか!?』

 ヤミーの命令だという眷属の言葉を信じられないブレイ。だが、男の一人がそれを見て呟く。

 「・・・なるほど。ヤミー様の言う通りだな。」

 『・・・何?』

 「ヤミー様はこう言っていた。『ブレイは自分に甘い。自分が何をやっても黙認するから奴の領内で好き放題やれ。』とな。」

 『何だと!?』

 「火竜ブレイ。もうこの領域は、ほぼ制圧が済んでいる。残るはお前のねぐらだけだ。」

 『・・・馬鹿な・・・!』

 「本当だ。既に、他の場所では多くの魔物や住む者達が死んでいる。まさか・・・知らなかったのか?自分の領域なのに?」

 『・・・。』

 事態がここまで切迫していることに、ようやくブレイは気付く。同時に、深い後悔の念が彼を襲う。

 (・・・俺が・・・フィードの話を聞いていれば・・・防げたのか・・・!?)

 「おいおい、こいつ急に黙り込んじまったぜ?」

 「こんな情けない神なんて思わなかったぜ。これじゃあヤミー様が笑うわけだ。」

 ヤミーの眷属達は、ブレイが戸惑い沈黙したのを見て、威勢を取り戻し始めていた。それどころか、ブレイのことを嘲笑までし出した。

 「実は、図体だけデカくて弱いんじゃねーか?ヤミー様があんなに言うんだからよ。」

 「最初に生まれただけしか取り柄のない、木偶の坊の能無し兄貴だそうだからよ。」

 「ははははは!長男だけという理由だけで創造神に愛されていたって本当だったんだな!創造神もこんな失敗作作るんじゃなかったって思ってんじゃねーか?」

 「神の汚点だな!」

 『!!!』

 度重なる暴言、そして、最後の言葉にブレイは完全に我を忘れた。そして、気が付くと、ブレイの周囲は焼け野原と化していた。

 『・・・ヤミーが・・・本当に・・・?』


 『・・・屑が・・・!』

 ブレイは、憎悪に満ちた目でトーンを睨んだまま、手に力を込める。トーンが曇った声を上げ、握り潰されてしまう。地面にトーンだった血と肉片が落ちていく。

 「!?トーン様!?」

 「と・・・トーン様を簡単に!?」

 「に・・・逃げろ!」

 トーンが死んだことで、魔兵士達は逃げ出そうとする。

 『・・・誰が逃げてもいいと言った!?』

 突然、ブレイの赤い身体が、さらに赤くなる。

 「!おい!あれ、サラマンダーの技に似てねーか!?」

 「・・・何だかまずそうだ。離れた方が・・・。」

 『お前ら!俺から離れんな!お前らは焼かねーようにしてやる!』

 離れようとする震を、ブレイは制する。そうしている間にも、ブレイの赤色化は進行し、ついには炎が全身を覆っていた。

 「!?」

 『火竜爆炎衝撃ドラゴニックバーニングブラスト!』

 ブレイの全身から、凄まじい炎が噴出する。その炎は周囲を一瞬で焼き払っていく。魔兵士達も、建物も、城壁さえも例外なく、焼かれていた。無事なのは、ブレイの周囲にいる焔と震、そして、捕虜の人々だけである。

 「・・・無茶苦茶な火力だ・・・!これじゃあ町が消滅する!人がいないからって限度があるだろう!」

 「・・・ああ・・・。」

 「?焔?」

 「・・・あん野郎・・・勝手に俺の魔力使いやがって・・・!」

 「・・・。」

 魔力を切れる寸前まで使われ、フラフラな焔を支えながら、震はブレイの引き起こす惨状を見届けるのだった。 

火力だけならブレイは最強です。次回、ブレイがどうして戦いに消極的だったのか判明します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ